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外伝 八上儀武という男

よろしくお願いします

八上儀武・・・ギルド『グライアイ』所属の冒険者パーティ『D・Z』のリーダー

小張・・・ギルド『グライアイ』所属の冒険者パーティ『ヘルピース』のリーダー

(あれがギルド『エウメニデス』のソロ冒険者乙橘勇大か)


 冒険者パーティ『D・Z』の八上儀武は、帰り際、ちらりと彼をのぞき見る。


(なるほど、一筋縄ではいかなそうだ)


 八上は、それなりに情報通であり、新進気鋭のギルド『エウメニデス』のことも耳に入っている。


 なにしろ津上正愛が作ったギルドだ。


 彼の年代にとって、津上は英雄だった。


 幾つものダンジョンを踏破し、テレビやネットニュースでは連日彼の姿が流れた。


友人のほとんどが彼に憧れて冒険者となった。もちろん、八上自身も彼のような冒険者になりたいと思った。


 八上は、大手ギルド『ギガス』に所属していた過去がある。それなりにダンジョンを踏破し、それなりにモンスターを倒し、それなりに名を上げ、それなりに活躍したが、それなり止まりだった。


 大手ギルド『ギガス』が目指すものは、常に強者の立場であり、実力主義がモットーだ。それなりの冒険者は必要なかったのである。


 最終的にギルド『ギガス』を辞めて、その傘下ともいうべき『グライアイ』に拾われることとなる。同時に『グライアイ』のエースが『ギガス』に加入しており、実質的なトレードとなる。間違いなく裏で取引が行なわれたのだろう。


 冒険者の中では引き抜きが日常茶飯事だ。


八上儀武は、新しい冒険者パーティ『D・Z』のリーダーとなる。大手ギルド『ギガス』ではそれなりの活躍だったが、ギルド『グライアイ』では、エースが抜けたこともあり、『グライアイ』の稼ぎ頭となる。


 その後、津上正愛もギルド『ギガス』を辞めて、新しいギルドを設立するとは思わなかったが、彼の創ったギルドはここ一年弱で大きく成長している。彼の元には、冒険者を引退したBWダンジョンや地上で働く知己を集めてギルド設立したらしいが、それでも大手ギルド『ギガス』の横槍が入ったという噂があった。


 大手ギルド『ギガス』の圧力もあり、支援者や資金集めに相当苦労したはずである。


 しかし、一人の冒険者がダンジョンから多量のレアアイテムや魔石、魔宝石を採掘し、それをギルド『エウメニデス』の資金とし、時間を稼いでいてくれた結果、支援者が少しずつだが集まってきたとも言われている。


 今や日本ダンジョン協会や、国のダンジョン省や自衛隊ダンジョン探索部までもが後ろ盾についたと聞く。


 その立役者が乙橘勇大だとすると、表を津上正愛、裏で乙橘勇大がギルド『エウメニデス』を動かしていることになる。


 あくまで噂であり、フェイクニュースの可能性が高い。


 噂では、ダンジョンで亜竜退治に自衛隊と共闘したとか、日本ダンジョン協会と共に半グレ冒険者パーティ捕縛に協力したという話しまである。


 噂は噂だ。


 しかも、裏に通じている人間達だけの。


 そんな裏がある冒険者と今ことを構える必要はないだろう。


 そう考えていると、冒険者パーティ『ヘルピース』の小張がクランメンバーに向かって叫ぶ。


「俺達は、今から新たな採掘場を求め、さらに奥へと向かうこととなった!」


 クランメンバーからざわりと声が出る。


(やはりなあ)


 小張は、面子を重視する男だ。ここでなにも収穫もなく、このダンジョンをトレジャーラッシュポイントを手放すとは思えなかった。


 それに、小張率いる冒険者パーティ『ヘルピース』は、戦力を温存していたため、ほぼ無傷だ。他の冒険者パーティが使い物にならなくなっても、自分達だけでもダンジョンから脱出する算段だろう。


 そして、ダンジョンから抜け出した後、こう報告するのだ。


 トレジャーラッシュでロックゴーレムと戦い、自分達以外のクランパーティは全滅した、と。戦う前に逃げたという汚名を被るより、戦ったが逃げたことを選ぶはずである。


「どうします、リーダー?」


 八上が率いる冒険者パーティ『D・Z』のメンバーが小声で聞く。彼等のほとんどは二十代前半である。中には十代の頃から八上に付いてきてくれたメンバーもおり、かなりの実力をつけてきている。このメンバーなら、小さなC級ダンジョンなら攻略可能だろう。


「まあ、仕方ない。ここはクランリーダーに任せて、こちらは無理しない程度に頑張りますか」


 八上の指示に、『D・Z』のメンバーは頷き、現地点よりもさらに奥に進むこととなった。




 ロックゴーレムとの戦いは激戦を極めた。


 六メートル級のロックゴーレム三体が大腕を振り迫ってくる。


「明らかに強くなっているな」


 八上はロックゴーレムの腕を避けて、一撃を入れる。


 ガキンッ。


ゴーレムの大腿部辺りに亀裂が入るが、少し前と戦ったゴーレムよりも浅い。ゴーレムの硬質が上がっているのだ。


 奥に進めば進む程、ロックゴーレムが強くなっている。


 一体のロックゴーレムが、とあるパーティに突っ込んでくる。全員盾を前面に出し、固まることでロックゴーレムの攻撃を受ける。


 ガッ。


「「「「ぐうううう」」」」


 一撃目はなんとか耐えることができたが、二撃目はそういかなかった。

 ガガッドッ。


「あうっ」


 一人の冒険者の少女が、盾で防ごうとするが、耐えきれず吹き飛ばされて壁に激突してしまう。


 仲間に介抱されているようだが、意識が戻る気配はない。


 八上は、とりあえず目の前のロックゴーレムに集中する。魔法使い達の張る罠まで後少しである。


「ふっ」


 斬!


 ロックゴーレムの攻撃を避けて、先程できた亀裂にピンポイントで斬る。ロックゴーレムの大腿部が斬り裂かれ、大きく崩れる。


 ズズンッ・・・。


「今だ!魔法使い部隊、援護を」


「「「「はい!」」」」


 魔法使い達が大腿部を失ったゴーレムに攻撃を仕掛け、八上がそれを視認することなく、別のゴーレムへと向かった。


 反撃しつつ後退し、攻撃魔法で集中攻撃を図る。今できる最善の方法だった。




 なんとかロックゴーレムを倒すことができ、見張りを立てて小休止をとる。


 八上が倒れた少女のところに行くと、少女は意識が戻ったようだが、足の骨を折ったのだろう。立ち上がることができない様子だ。


「これを使え」


 八上は、自分の持つ残り少ないポーションを渡す。


「いいんですか?これを貰っても」


「誰があげるといった。生きて返ったら、きっちりと定額で払ってもらうからな」


「ありがとうございます!」


 少女と仲間の冒険者パーティが頭を下げた。


「おい、八上!」


 そこに冒険者パーティ『ヘルピース』の小張が仲間と共にやってくる。


「なんだ」


「お前、今自分がやったことがわかっているのか!」


「なにをだ」


「大切なポーションを無駄遣いしたんだぞ」


「無駄遣い?ポーションを怪我したクランメンバーに使ってなにが悪い」


「悪いな。ポーションは俺等のような強者に集めるべきだ。その方が戦って勝つ確率が高くなる」


「強者?今まで後ろでふんぞり返って、一向に前に出てこなかった奴等がか?」


「口の利き方に気をつけろ!」


「こいつらは、俺が誘って、今回のトレジャーラッシュに参加してくれた奴等だ。ここまで連れてきた以上、面倒みるのは筋ってもんだろ」


「へらず口を。いいか、八上。お前が元『ギガス』の冒険者という肩書きがあったとしてもだ。今は俺がこのクランのリーダーだ。俺の言うことは絶対だ。守れないというのであれば、上に報告して厳正に処罰してもらう」


「別に構わないぜ」


 八上と小張は睨み合う。どちらも退く気はなかった。


「ロックゴーレムが一体こちらにやってきます!」


「ちっ」


 先行の部隊からの報告が入り、小張が退くことで一旦収まる。


 今は冒険者パーティ『ヘルピース』も無傷というわけではなかった。何故か、ロックゴーレムは、八上達前線の部隊ではなく、後方で控えている『ヘルピース』を狙ってきているのだ。


(ロックゴーレムは、『ヘルピース』がリーダー格だと気付いたのか?)


 八上は推測する。それに気の所為かもしれないが、手緩い気がするのだ。


 ロックゴーレムは明らかに自分達よりも強い。実力で言えば、C級ダンジョンよりも、B級ダンジョンにいるべきモンスターだろう。なのに、自分達に死傷者は出ていない。まるで、自分達を撤退させることを目的で動いているように見える。


(体力を温存しているのか?なんのために)


 考えられることは一つしか無い。


 ロックゴーレムは、自分達と全力で戦う気は無い。次に来る新たな冒険者達のために、力を抜いているのだ。あくまでロックゴーレムの目的は、このトラッシュポイントを死守することが目的であり、冒険者を全滅に追い込むのが目的ではないのだ。


(だったら、やりようはある)


 再び後方に下がっていく小張達『ヘルピース』を見ながら、八上は作戦を考え、仲間を呼ぶのだった。


 八上達前線部隊は、ロックゴーレムと交戦する。先程の戦いのように後方の魔法使い部隊がいるポイントまで誘導するわけではなく、ロックゴーレムを囲うように追い詰めていく。そのため、最後方の冒険者パーティ『ヘルピース』との間に距離が空いてしまう。


「どういうつもりだ?なぜ、前線部隊は下がらずに攻め続けている」


 小張は不思議に思ったが、相手はロックゴーレム一体だ。手強い相手だが、追い詰めていることに調子にのり、攻め続けていると考える。


「馬鹿が。ここで調子に乗っても、なにも得るものがないというのに」


 自分達の目的は、魔石、魔宝石の採掘場を見つけることだ。ここでロックゴーレムを倒すのにむきになってもしょうが無いというのに。そして追い詰めているが、ロックゴーレムを倒し切れていない。明らかに攻撃力が足らず、攻めあぐねている形だ。


「・・・ここらが潮時か」


 小張は、ここまでクランが疲弊しては、採掘場に辿り着く前に全滅もありうると踏んでいた。そうなる前に自分達『ヘルピース』だけでも、ここから脱出することを考えていた。


 自分達よりも前にいる魔法使い達を見ると、いつでも自分達が出れるようロックゴーレムと前線部隊の戦いに注視しており、こちらの動きを見ていない。


 小張は、『ヘルピース』の副隊長に対して、ジェスチャーを送る。それを受け取った服隊長はこくりと頷き、メンバー全員に退却の合図を送った。


 そして、前線と魔法使い部隊が気付かないようにこの場を去る。


「悪く思うなよ。俺達も命は惜しいしな」


 すでに前線で戦っている前線の様子は見えない。このまま立ち去るだけだ。


 その時だった。


「て、敵襲!」


 壁や岩に擬態していた十体のロックゴーレムが起きだし、襲ってくる。


「くそっ、応戦するぞ」


 ロックゴーレムはトレジャーラッシュを進めば進む程強くなっている。ここまで下がれば、弱くなっているはずである。仮にもギルド『グライアイ』では、一、二の強さを誇る冒険者パーティ『ヘルピース』だ。ある程度、ロックゴーレムの倒し方も戦いの中で把握している。


 しかし、ロックゴーレムは手強く、こちらの攻撃に対してびくともしない。


 仲間達がロックゴーレムの猛攻に吹き飛ばされていく。


「リーダー、こいつら手強いぞ」


「やばい、身動きとれねえ」


 小張は、自分達が危機状況に追い込まれていることを判断する。


「おいっ、前でうだうだやっている部隊にすぐに来るように報せろ!」


「報せたくてもロックゴーレムが通しちゃくれねえ」


 なんとか一人でも抜けだし、前線部隊のいる場所にいかせたかったが、ロックゴーレムは、その巨体にかかわらず素早く、抜け出すことはできない。


「どういうことだ?どうなっている!なんでここにロックゴーレムの群れが集まるんだ?」


 小張達『ヘルピース』は徐々に崩壊していった。




「どうやら上手くいったようだな」


 八上は深く溜息をつく。


 ロックゴーレム一体はすでに倒している。それなりに怪我人が出たが、動けないという程ではない。ロックゴーレム自体もそれほど強くはなかったことも幸いした。


 おそらく、ほとんどのロックゴーレムは、小張達『ヘルピース』に襲い掛かっているはずだ。


 八上はここである推測を立てていた。


 つまり、ロックゴーレムは情報伝達しあっていることを。


 小張達冒険者パーティ『ヘルピース』が、クランのリーダーだと判断したロックゴーレムは、仲間に伝達し、このクランの頭である『ヘルピース』の首を獲ろうと動き出したのである。頭を失えば、他は雑魚と判断し、こちらには兵を割かずに『ヘルピース』のみに集中させた結果であった。


 八上は敢えて、ロックゴーレムと戦う振りをしつつ、『ヘルピース』が自分達から離れる口実を作ったのである。小張達が自分達だけ逃げだそうと考えていたのは、ある程度推測できていた。


「よし、これから採掘場をじっくり丁寧に探していくぞ」


「あの、いいんですか?後方で控えていた『ヘルピース』の姿が見えないんですが」


「あいつらはここのクランメンバーでほとんど傷を負っていないんだ。花でも摘みに行ったんだろ。あいつらが戻ってくる前に採掘場を見つけておこうぜ」


「はい!」


 こうして八上達は、数分後、採掘場を見つけることができ、採掘場で魔石、魔法石を採掘することができた。


そして、一人も死傷者を出すことなく、クランの代理リーダーを務めた冒険者パーティ『D・Z』の八上の指揮の下、ダンジョンを脱出できたことは僥倖というほかなかった。


 その後、冒険者パーティ『ヘルピース』がトラッシュポイントから離れた場所で行動不能になっているのを、他ギルドのクランが発見し、無事保護されたが、全員病院送りとなるのだった。


お読みいただきありがとうございます

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