104 不条理な提案
よろしくお願いします
山門クララ・・・元ガールズ冒険者パーティ『ハイ・D・ビスカス』のメンバー
ギルド『グライアイ』のクラン、その内のパーティ『ヘルピース』のリーダーと名乗る男は、理不尽な提案を要求する。
山門クララが採掘した魔石、魔宝石を一時的に貸して欲しいというのだ。
「もちろん、借りた魔石、魔宝石は、後日必ず返金いたします」
「いや、でも、どうして?」
山門クララとしても、意味がわからなかった。
自分が採った魔石と魔宝石を貸して、ダンジョンから出てしばらくして返却してくれるというのだから。
「このまま地上に戻っても、なんの成果もなく、我々はクランとして信用を失うだけです。ですが、あなたがここで得た魔石をお貸しいただければ、我々はなんとか面子を保つことができるのです」
「しかし、それでは日本ダンジョン協会が定めた規約に反すると思うのですが」
日本ダンジョン協会が国のダンジョン省と共に取り決めた法律には、ダンジョンで手に入れたアイテムは、見つけた本人の物と定められている。冒険者パーティやギルドに所属していても、最初に手にした冒険者が第一所有者となり、その後、自身の所属するギルドに報告し、ギルドを通して売却の方向となる。
個人での売買は騙される可能性があるため、リスクが高いというのがあるし、ギルドに加入する際、手にしたアイテムを報告するか否かは、契約書によってギルドと冒険者個人で取り決められている。
「そうです。ここで、貴方が手に入れたアイテムは全て貴方の物です。しかし、今の貴方はギルド未加入で、ほぼソロでの活動の状態。ギルドに報告する必要がない以上、我々に貸し与えても問題はないと思いますが?」
ここでギルド所属とギルド未所属の違いが出てくる。ギルドに加入していれば、ある程度の他ギルドの諍いに介入してくれるが、未加入の場合、個人で戦うしかないわけだから。
「そんなこと、私が了承すると思いますか?」
山門クララは剣を抜く。さもすればドラゴネットを召喚するつもりだ。
「ドラゴンとはいえ、召喚モンスターで我々人間と戦うつもりですか?もし、あなたの使役するドラゴネットが、我々を一人でも傷つけた場合、世間から危険モンスターとして認定される恐れがありますよ」
「!?」
召喚モンスターは、人間を傷つけてはならない。これも日本ダンジョン協会が定めた規約で決められている。しかし、もし、他冒険者パーティに襲われた場合、正当防衛が成り立つが、それもまた所属しているギルドが味方してこそとなる。
ここで山門クララの使役しているスイちゃんが、冒険者を正当防衛で傷つけたとしても、それを擁護してくれる人間はいない。
もちろん動画を撮影していれば、証拠となるはずだが、それを彼等が見逃すとも思えなかった。どこかで妨害が入る可能性がある。
「さて、どうです?ここは我々に従ってくだされば、悪いことはいたしません」
五十人のクランメンバーの内、半数は戦闘不能状態だが、残りは戦闘可能な状態である。特に彼を囲う『ヘルピース』の冒険者パーティと思われる集団は、ほぼ無傷の様子だ。おそらく、ここまで温存してきたのだろう。
「待ってください」
ここで僕が動き出す。それまで彼等のやり取りを静観していた僕だけど、ここは動かざるを得ないだろう。
正直、こういういざござには関わりたくないのが本音である。問題解決に向けての対人スキルが僕に備わっているかと言われると、NOと応えてしまう。それでも、動く必要が自分にはある。
「おや、君は?」
ここでわざとらしく僕に気付くふりをする、『ヘルピース』のリーダー。
「ぼ、僕はギルド『エウメニデス』に所属している乙橘勇大と申します。か、彼女の『エウメニデス』加入のための付き添いをしています」
「ほう。『エウメニデス』か、津上正愛さんが作ったギルドだな」
幾つものダンジョンを踏破し、A級ダンジョンをクリアした後、テレビで活躍していた津上社長の名は、まだ大きい。
「もし、あなた方の言い分を通すというのなら、僕はこの事をギルドに報告する義務があります」
「ということは、山門クララは、まだ君が所属するギルドには正式加入していないということだね」
「そ、そうですね」
「であれば、これは我々と彼女のやり取りだ。『エウメニデス』が口を挟む必要はない」
「しかし、個人に対して、このようなやり取りを認めるわけにはいきません」
「なるほど。ところで、君は乙橘勇大という名前だね」
「そうです」
「その名前に聞き覚えがあるな。一年以上前に、学校のクラスメイトのイジメで、ダンジョンの崖から突き落とされた少年だな」
男の言葉に周囲がざわつく。まあ、全国区でニュースになった事件だ。まだ覚えている人間がいてもおかしくはない。
「・・・・・」
「君にお願いがあるのだが、ここでの出来事について誰にも話さないでほしいのだが」
「それはできません」
「なぜかね」
ずいっと『ヘルピース』のリーダーが前に出る。僅かながら剣を握る構えだ。僕が以前イジメられていたことで、威圧しようと思っているのだろうか。だけど、僕もここで引くわけにはいかなかった。
以前の僕なら怯えて、相手の言うことに押されていたかもしれない。だけど、僕も冒険者としての自負がある。今までダンジョンで戦ってきた経験と苦難の道を乗り越えてきた、自分自身への信頼がある。ここで相手の飲まれてしまっては、今までしてきたことが水疱に終わる。
「あなた達がしていることは、例え個人同士のやり取りだとしても、許されざるものだからです。いち冒険者として見過ごすわけにはいきません」
「では、どうすると」
男がさらに前にで出る。男の周囲にいた厳つい取り巻きも僕を囲む。
「乙橘くん!」
山門クララが心配して声を掛ける。
僕は覚悟を決める。モンスター相手との戦闘は得意だが、対人戦には正直自信がない。それでも僕はここで戦う決意を定めるのだった。
その時。
「やめとけ、やめとけ」
一人の男が集団から出てくる。年齢は二十代後半ぐらいだろうか、ぼさぼさの髪の無精髭を生やした男だ。細身だが筋肉隆々であり、飄々としている隙がない。身なりを整えればかなりのイケメンではないだろうか。
「八上」
「乙橘勇大くんは、お前等が何人束になろうと勝てる相手じゃねえよ」
「は?なにを言っているんだ?俺達がこんなガキに負けるとでも」
冒険者パーティ『ヘルピース』のリーダーは、八上を忌々しげに見つめる。例え同じギルド所属でクランメンバーであっても、仲が良いとは限らないのだろうか。
「ああ、負けるね。なにしろ、ギルド『エウメニデス』のシークレットウェポンだからな」
「どういうことだ?」
「俺が仕入れた情報だと、彼はソロで○○市の○○区になる最難関C級ダンジョンを攻略したとのことだ」
「○○区のC級ダンジョンだと?確かにダンジョンクリアした冒険者が現れたと報されたが、冒険者の希望により名前は公表されていないはずだが」
「それが彼ってわけだ」
「デマだな。あのC級ダンジョンは、俺達が今のクランで組んでもクリアは難しい。それをソロで、短期間で攻略なんて無理にも程がある」
他のメンバーも同意するように疑心の眼差しを向ける。
「だから、シークレットウェポンなんだよ。あの津上正愛さんの作ったギルドだからって、こんなに急成長させるなんてありえない。その裏に必ずある名前に乙橘勇大という冒険者の名前がちらついている」
「・・・お前の話を話半分、いや、四分の一ぐらい信じたとしても、目の前にいるガキはやばいっていうことか」
「まあな。他にも情報が幾つかあるが、これがもっとも信憑性が高い」
「これがもっとも高い、だと?」
「実際、ほぼ無傷で『ドラゴンライダー』の山門クララとデュオでこの採石場に辿り着いているのが事実だろ」
冒険者パーティ『ヘルピース』のリーダーは、しばらく考え込む。
「しかし、このままでは我々はジリ貧だ。戦力を残しているとはいえ、地上に戻る戦力が無くなってしまう」
「仕方ねえだろ。実際俺達は出遅れたんだ。ここは退くか、別の採石場を見つけるか、だろ」
しばらく睨み合う二人。他のクランメンバーを見ると、ほとんどが八上という人の意見に賛成のようだ。どうやら人気力は八上の人の方が上らしい。
「・・・わかった。ここは大人しく退こう。お前の顔に免じてな」
このままクランが分裂すれば、この先の行軍に支障が生じる。
「ありがとよ。俺がそう頼んだって上に連絡していいぜ」
「そのつもりだ」
話し合いは終わり、冒険者パーティ『ヘルピース』のリーダーは、こちらに振り返る。
「山門クララさん」
「は、はい」
「今までの会話はなかったことにしてくれ。できれば、日本ダンジョン協会に通報はしないでくれるとありがたい。我々は別の採石場を目指すとしよう」
「・・・わかりました」
思うことは山ほどありそうな顔で、山門クララは頷いた。
「それと、乙橘勇大くん。非礼を許してくれ」
「・・・はい」
「名乗るのが遅かったな。俺は『ヘルピース』のリーダー小張だ」
「おっと、俺も名乗らせてくれ。俺は冒険者パーティ『D・Z』のリーダー八上だ。よろしくな」
「・・・よろしく」
「どうも」
正直自分達に恐喝紛いのことをしてきて、自分達で解決してきた連中と言葉を交じわしたくないのが本音である。
小張と八上と名乗った冒険者パーティのリーダーは、他のクランメンバーにここを撤退することを伝える。中には不満を漏らす者や意見を言う者もいたが、八上の一声で黙る。
ギルド『グライアイ』のクランリーダーは、冒険者パーティ『ヘルピース』のリーダーである小張だが、実質求心力が高いのが『D・Z』のリーダー八上だ。
彼等は採石場から出て行く。その時、見知った人間の顔がいたような気がするが、僕は思い出せず、すぐに消えてしまった。
「疲れましたね」
「ええ」
彼等がいなくなった瞬間、一気に緊張の糸が切れる。これだったら、ダンジョンでモンスターと戦っていたほうが楽である。
これは間違いなく恐喝の類いだ。そして、それがダンジョンの中では当たり前のようにまかり通っているのだろう。津上正愛社長は、これを撲滅したいのだろうか。撲滅は無理としても減らしたいと考えているものと思える。
「今日のところは帰りましょう。結構魔石と魔宝石は獲ったし、結構な値段になると思うわ」
「そうですね。一旦戻りましょう」
こうして、僕と山門クララのトレジャーラッシュは終わるのだった。
後日、山門クララは正式にギルド『エウメニデス』の所属冒険者となるのだった。
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