103 ギルド『グライアイ』
よろしくお願いします。
山門クララ・・・元ガールズ冒険者パーティ『ハイ・D・レンジア』のメンバー。
僕達は魔石や魔宝石のある採掘場を目指す。
最初に見つけた冒険者パーティによると、採掘場はフォログラムのような魔法で壁に偽装されており、微妙に他の壁と違ったという。思えば似たような箇所があったというのだ。
つまり、最初に採掘場を見つけた場所と違う、新たな採掘場がある可能性があるというのが、ネットでの考察だ。
まあ、実際は蟻の巣のように採掘場は繋がっているのだが。
僕が最初にここに辿り着いた時は、『ダンジョン超裏技大辞典』に記載されていた、魔石や魔宝石がありそうな場所と特長によるもので、特に崖と大地の地質とゴーレムの挙動により、目星をつけたからに他ならない。そこから、『ダンジョン超裏技大辞典』に記載されている隠し通路とその隠蔽魔術の解除方法を試した結果である。
今ある隠蔽魔術はファブリケと僕が新たに作り直したものである。
あまりに見つかりづらいと、侵入者はやってこないし、簡単すぎると罠と訝しむ輩も出てくるわけだから、程よい案配の見つかりづらい隠蔽魔術と幾つかの罠を作った結果である。
だから、僕はどこになにがあるのか知っているわけだが、それを喋ってしまうと、今後の自分の人生に悪影響しか与えないので、黙っておく。
「あった。ネット動画の『魔術師の隠し部屋』さんの考察通りの隠蔽魔術だわ」
ネット動画『魔術師の隠し部屋』は、BWダンジョンに住む魔女が投稿している動画であり、そこには罠の在処や魔法の解錠方法等を教えてくれるサイトである。正体は、元々ダンジョンに住み着いていた魔女で、日本とダンジョンが繋がったときにエルフと同様に国に投降し、日本ダンジョン協会に雇われているのだという。
この『魔術師の隠し部屋』は、ダンジョンについてわかりやすく説明してくれるため、冒険者達に人気が高い。
ファブリケ・ジ・ダンカイザーや、新しく加入したペルセ・ジ・ナイトウォーカーのように、絡繰りや冥醒といった二つ名はないが、そこそこ優れた魔女というのが、彼女達の総評だ。
今回のセンガイダンジョンの魔石、魔宝石採石場発見についても、いち早く考察で説明してくれたのだという。
山門クララは、自分でメモにとった動画情報を頼りに、それを見ながら隠蔽魔術を解除していく。
そして、偽物の壁が消えて岩壁に横穴通路が出来上がる。
「じゃあ、行きましょう」
僕と山門クララ、そして、召喚少女が隠し通路に入る。細い道なりを歩くと、学校の体育館程の広さの洞窟に入る。
彼女は鞄から巻物を取り出し、開いて指でなぞりながら唱える。
「光りよ」
スクロールが輝き、光の精霊によって光を生み出す。それを宙に上げると、洞窟の天井から光が差し、全てを照らす。
魔法が使えなくてもスクロールに描かれた文字を読むことで、魔法が使える便利アイテムである。回数制限があり、弱魔法ばかりだが、光で照らす、熱で暖をとる等、便利なものが多い。
「モンスターの気配はありません」
「いないでちゅ」
ケンタウレのステラ・ジ・サジタリウスとデルピュネのメリュジーヌ・ジ・エキドナが周囲を探り、モンスターの気配がないことを報せる。採石場では、ゴーレムや他モンスターがいないことは情報通りである。僕は一旦彼女達をカードに戻すことにした。
僕の報告を受けて、山門クララは、鞄からマジックバッグを取り出す。
「マジックバッグを持っていたんですね」
「レンタルだけどね。トラック一台分ぐらいは入るかな」
マジック風呂敷やマジックバッグ、マジックポシェットと呼ばれるアイテムは、その中は異空間と繋がっているが、それぞれに容量が存在する。
例えば、同じ形のマジックポシェットでも、一方は家一軒分、もう片方は畳三畳分と入る量が違う。
その量を超えると入らなくなり、破れると全ての物が出てきてしまう。
とはいえ、中に入れた物は重さを感じないし、オーバーテクノロジーで便利アイテムに違いない。もしかしたら、物量や質量にも限度があるのかもしれないが、まだ解明されていない。
マジックポシェットやマジックバッグは、作れる魔術師が少ないため、数が少なく稀少品だ。レンタルだとしても、冒険中に壊し、傷つけても賠償しなければならないため、それこそ大事に使わなければならない。山門クララが、ここまでマジックバッグを使用しなかった理由はこれだろう。その他にも魔石、魔宝石、魔鉱石を鑑定するマジックアイテム類を取り出して、探索していく。
僕は念入りに調べる彼女の後ろを黙ってついていく。
手に持っていたアイテムが光り出し、そこに高濃度の魔石があることを示す。彼女はスコップ(大)を持って大地を掘る。普通のスコップじゃない魔力が込められているので、固い岩盤でも容易く掘ることができる。それでも、土を掘るというのは重労働にが違いなかった。掘り出した魔石を手に持ち鑑定し、マジックバッグへと仕舞い込むか、元の場所に戻す。こうした単純作業を繰り返しながら、山門クララは、スコップとツルハシで掘り返していく。
僕が手伝おうかと提案したところ、自分のことだから自分で掘ると頑として聞かなかった。だから、僕も持参してきたスコップ(小)で土を適当に掘っていく。
しばらくうろうろしていた彼女だが、魔力を感知するアイテムの光が大きく輝く。
そこに気付くとは・・・。
彼女がドラゴンを使役することができたこと、ここまで冒険者として生き残ってきたこととして、実力はもちろんのこと、運を引き当てるのが強いことがわかる。
山門クララは力強く土を掘る。そして穴に赤い宝石が見つかった。
鑑定アイテムで調べると、かなり高価な魔宝石のようだった。
「やった!」
その後、どんどんと魔力濃度が高い魔石と魔宝石を見つけていく。水分を摂りながら小休止を繰り返し、この辺りの高価な魔石を掘り出すことができた。
彼女の持つ魔力感知アイテムは、これ以上の光は点滅していない。
「私の持つ市販の魔力感知アイテムだと、これぐらいが限界かなあ。もうちょっと、高性能の感知アイテムなら、もう少し探せると思うんだけど・・・。乙橘君の方はどう?」
山門クララは、僕の方を見る。
「まあまあ、良質の魔石は採れたと思います」
実際、売れば1~2万円はする魔石は採ることはできた。
「ここで行き止まりみたいだし、別の採石場に場所を移そうかしら」
「僕もそれがいいと思います」
彼女の提案に僕は頷く。
実際、この採石場は隠し通路とか、二メートル級のゴーレムが襲ってきたりと罠が満載なのだが、安全という意味なら、外から巨大ゴーレムと戦った方が無難なので無理をさせない方がいいだろう。
「じゃあ、そろそろ・・・」
そう言い切る直後、入り口から武装した集団が現れる。
僕と山門クララは身構える。
甲冑や防具で身を固め、剣や盾、ハルバード等の物騒な武器を持っているが、激戦だったのだろう。ほとんどの甲冑は歪み、亀裂が入っており、剣は折れ、盾が大きくひしゃげているのまである。おそらくは、僕達と同じ魔石と魔宝石の採石目的で、ここに来て、ロックゴーレムと戦ってきたのだろう。
数は五十人程か。かなりのクランだな。
「ギルド『グライアイ』のクラン・・・」
「知っているんですか、山門さん?」
「後ろにいる男に見覚えがあるわ。ギルド『グライアイ』に所属している冒険者パーティ『ヘルピース』のリーダーよ」
「あれが・・・」
確か大手ギルド『ギガス』と繋がりを持っていると言われている中堅ギルドだ。『ギガス』程ではないが、評判はあまりよろしくない。
そして、後ろにいた男が前に出る。
頭髪はなく、顔中に傷跡があり、どう見ても堅気には見えない男。全身を重装甲で武装し、大柄な盾と大きな包丁のような剣を持っている。
「お前達、二人だけか?」
男の問いに山門クララが応える。
「ええ、そうよ」
「信じられんな。たった二人でここまで辿り着くなんて信じがたいことだ。どこかに仲間がいるんじゃないのか?」
彼女の応えに驚きつつも、冒険者パーティ『ヘルピース』のリーダーは、周囲を警戒している。おそらく、仲間が隠れて隙を狙っていると思っているのだろう。
「おい、あの娘、山門クララじゃないか」
「そういえば、テレビや動画サイトで見たことあるかも」
「すごく可愛い」
「雑誌やテレビで見るより、綺麗」
「隣にいる男は誰だ?」
「まさか、彼氏?」
「はあ、んなわけねえだろ。案内人だろ」
「お前等、探索中の私語は禁止だ!」
後ろでざわざわと騒ぎ出し、中核メンバーと思われる一人が怒鳴る。そして、一人の男が僕達の前に出る。
「君がドラゴンライダーの山門クララか。噂はかねがね」
「こちらこそ初めまして。山門クララです」
見覚えがあるというのだから、会ったことがあるのだろう。でも、相手が忘れているか、それとも会っていないふりをしているかのどちらかと判断し、敢えて初めて会ったていを装う山門クララ。
「なるほど。ドラゴンライダーとしての山門クララの実力は本物だったということか。そして、隣にいるのが『ハイ・D・レンジア』のメンバーではないということから、パーティを抜けたことも、ギルド『ギガス』を退団したというのは本当でしたか」
嫌みを含んだ口調で『ヘルピース』のリーダーは言う。その端々に嫉妬が窺える。
なんの実力もない少女が最強のドラゴンを手に入れたことで、自分達を超えた事への羨ましさだろうか。だが、僕は知っている。ここに辿り着くまでのロックゴーレムとの戦いといい、彼女は冒険者として何倍も努力しているということを。
彼女がギルド『ギガス』を辞めたという情報は冒険者達の間では有名だった。ただし、彼女が何故辞めたかは、『ギガス』自体は口を閉ざしているため、真相は闇の中だ。
そのため、噂だけが一人歩きしている状態である。
「そうですね。今のところはソロという形で活動しています」
「そうでしたか」
「では、私達はこれで失礼いたします」
早くお暇したいと思ったのだろう。山門クララは僕を見て、そして僕も頷くことで、ここから去ることに同意する。
「お待ちください。ここでお願いがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「恥を忍んで申し上げます。現在、我々のクランは、ゴーレムの群れと激戦し、勝利を収めてきましたが、すでに半数以上の同胞が戦闘不能の状態にあります」
「はあ」
僕は彼等を再び見る。防具だけではなく、半数以上が満身創痍といった状態である。これではこれ以上の探索は無理だと思う。一刻も早く地上に戻り手当てを受けた方がいいだろう。
「余分のポーションも残っておらず、ようやく、この採石場まで辿り着いた次第です。しかし、ここのほとんどの高価な魔石、魔宝石は、あなた方が掘り出してしまった様子。これでは、我々がここに来た意味がありません」
「ええ・・・」
「ですので、あなたが掘り当てた半分を我々に貸し与えてほしいのです」
「ええ・・・ええっ!?」
彼の突飛な発言に目を丸くする、山門クララ。
『ヘルピース』のリーダーが出した提案は、様々な危険性を孕んでいたのだった。
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