100 命名『召喚少女』
よろしくお願いします
山門クララ・・・元冒険者パーティ『ハイ・D・レンジア』のメンバー。ドラゴネットの騎手。
ゴーレムにも幾種類ものゴーレムが存在する。
砂でできたサンドゴーレムから、土や泥で出来たモノ、鋼鉄でできたゴーレムも存在するらしい。そして、今回のロックゴーレムだろう。
おそらくはそびえ立つ崖から作られたであろう、このゴーレムは、魔石や魔宝石を核とし、さらにそれをエネルギーとして動いている。
このC級ダンジョンは、名前のないダンジョンだったが、一応○○町ダンジョンという適当に言われていたが、この度、センガイダンジョンと呼ばれることとなった。
ダンジョンの十階層にある、最重度危険区域の聳え立つ連なる崖により、そう呼称されたのだった。
そのセンガイダンジョンに、数百人の冒険者パーティが列をなして集まっていた。
それまでなんの特産品もない、寂れる一歩手前の変哲もない町だったが、冒険者が集まり、町民は困惑した。町の市役所も一気にダンジョンに集まる冒険者達の群れにどう対応していいかもわからなかった。
いつの間にか警察も動き出し、ネットでは頼まれていないのに対応が遅い、誘導が甘いと叩かれる始末だ。
そんな小さな町を巻き込んだトレジャーラッシュは、テレビ局や海外メディアが動き出すほどの大賑わいと化していく。
それにしても、と口にする。
あの冒険者パーティが襲われて逃げる際、崖の壁が偽装されて採掘場があるのはいい。では、誰が作ったのだろうか、と。
僕こと、乙橘勇大は、冒険者の群れを見て溜息をつく。
露見ちゃったかあ。
そう、このC級ダンジョンの最重度危険区域に入り、最初に魔石、魔宝石を採掘していたのは僕だった。
魔石、魔宝石の採掘場の入り口を解錠し、こっそりと価値のある魔石、魔宝石を乱獲していたのだ。
ここのロックゴーレムは、魔力のある生き物に襲い掛かるようできており、当時レベル0の僕は空気のようなものだった。さらに、崖の入り口に掛かっていた結界やマジックロックも『ダンジョン超裏技大辞典』で解錠し、すんなり入ることができた。
その後、『絡繰りの魔女』ファブリケの尽力により、僕と仲間達だけ顔パスで通ることができるようになる。
まあ、いずれは誰かに発見されるとわかっていたし、あらかた高価な魔石、魔宝石、鉱石は全て持ってったし、他にも幾つかの鉱脈は確保しているし、足は残していないし、問題ないといえば、問題ないんだけどね。
こうやって、自分の中では終わっている採掘場に冒険者が集まると、感慨深いものがある。
正直、このC級ダンジョンに足を向けることはもうないと思っていたし、まあ、外側から眺めているぐらいが丁度良いと思っていたのだが、ここで津上社長からお願いをされるようになる。
他ギルドから移籍していた冒険者と一緒に、センガイダンジョンを探索してはくれないか、と。
正直、そろそろドキューダンジョンを攻略したいと思っていた僕にとっては、津上社長の依頼を丁重にお断りしようと思っていたのだが、その名前を聞いて断りづらくなってしまった。さらに、もう一つお願いをされて、ちょっと辟易している。
そういうわけで、僕はセンガイダンジョンに、他ギルドから移籍してきた冒険者と一緒に潜ることになった。
「よろしくお願いします」
彼女が頭を下げる。
山門クララ。
元大手ギルドに所属するガールズ冒険者パーティ『ハイ・D・レンジア』の冒険者。
彼女は、『ハイ・D・レンジア』の仲間の罠により、呪いの迷宮に閉じ込められた経緯がある。そこを僕が救ったわけなのだが、世間では『ハイ・D・レンジア』の内輪もめが原因となっている。
大手ギルド『ギガス』は、ブランドである『ハイ・D・レンジア』に傷つくのを恐れ、全ての責任を辞めた山門クララに押しつけたいが、それだと呪い返しで生き残った『ハイ・D・レンジア』のメンバーとマネージャーに呪いが降りかかる恐れがあるため、おいそれと軽挙妄動を起こせない状況にある。マスコミやネットには規制を掛けているものの、噂だけは広がり、大手ギルド『ギガス』に不信感が積もる状況となっている。
そういう経緯でソロとなった山門クララだが、新しいギルドへの就職先がみつからず、そこへギルド『エウメニデス』が声を掛けたわけである。
とはいえ、ギルド『エウメニデス』がもっとも警戒している、元大手ギルド『ギガス』に所属していた冒険者である。世間では、冒険者パーティを脱退した理由もあやふやになっている。そんな彼女を即決で加入をみとめるわけにもいかず、こうしてしばらく『エウメニデス』の冒険者が付き添いダンジョンに潜ることになったのだ。
「こちらこそ、よろしく。でも、どうして今回はこのダンジョンに?」
そう、今回は彼女の指定でこのC級ダンジョンと僕を選んだのだという。
「そうですね。あの一件以来、ソロで活動していたんですけど、やはりソロ程度で探索できるダンジョンとなると、稼ぎが少なくて、正直生活費やダンジョンの装備諸々に負担が掛かってしまって」
山門クララは言いにくそうに応える。
なるほど。と、僕は理解する。
ギルドを抜けたということは、今までのことを一人でしなくてはならなくなる。例えばダンジョンの食料、道具等は、ギルド支給で賄えていたものが自分で購入し、取り寄せる必要があったり、装備品の手入れもギルドが手配した会社ではなく、自分でその手の専門職に依頼する必要がある。
ちなみに自分は全てギルド『エウメニデス』に頼らず、自分で食料、道具、装備を揃えたり、手入れはドワーフに頼んでいる。ギルドに頼むのは税金、保険金等の事務作業とか、一般人では購入するものが難しい。
「それで、今回のC級ダンジョンに?」
「ええ、そうよ。ちょっと出遅れた感じではあるけど、重要度危険区域に指定されているし、今から入っても高額な魔石、魔宝石の確保はできると思うの」
「それで、僕を付き添いと試験管に?」
「うん。正直、重要度危険区域に指定されているだけあって、ゴーレムは手強いというか、勝てる相手ではないわ。でも、あなたとあなたの持つ召喚少女達ならなんとかなると思って」
「召喚少女?」
初めて耳にする言葉だ。
「そう。私、近頃、パフェちゃんとよく会ってお話ししているんだけど、最初はエルフってことで緊張したけど、買い物とか一緒にする内にエルフじゃなくて普通の女の子なんだって思ったの。そういう女の子を召喚モンスターなんて呼ぶのも嫌だったし、だったら、私の中で召喚モンスターじゃなくて、召喚少女って呼んだ方がいいと思ったの」
なるほど。確かに彼女達のことをモンスターと呼ぶことに忌避感を感じていた自分がいたが、召喚少女か・・・。
「そうでしたか。彼女のことを考えてくれていたんですね。ありがとうございます」
召喚士のマスターとして礼を言う。
「いいよ。私がそう思っただけだから」
山門クララは、そう言って笑う。自分が一本もらった気持ちだった。
「では、改めてあなたに付き添わさせていただきます」
「うん。よろしくね」
山門クララは、大きめのリュックを担ぐ。
「大荷物ですね」
「そうでもないよ。ここから最重度危険区域である、採石場まで一週間ほど掛かるから、それなりに持っていかないとね」
一週間分の食料に水、防寒具も入っているのだろう。大手ギルド『ギガス』に所属していた頃は、マジックポシェットやマジックバッグが支給されていたらしいが、ソロである山門クララにそのような高額なアイテムが手に入るはずがなく、僕のようにダンジョンで見つけてくるわけでもないのだ。
ダンジョンは階層ごとに分かれているが、階層は広大であり、一直線に階層から次の階層に行けるわけではないのだ。冒険者は、ギルドが提示した、比較的危険ではない、それでいて近道となるマップを使用して階層を探索する。ソロとなれば、全て一人での手探りとなるので、広い階層を探索するのは、一年以上掛かることもある。
山門クララは、大手ギルド『ギガス』から与えられた物資は全て返却しているので、さぞや大変だったろうと思う。
このセンガイダンジョンは、山門クララも『ハイ・D・レンジア』に所属していた頃、攻略しており、現在階層ボスと最下層ボスは倒されており、無風状態にある。
階層コアの転送を使えば、一階層から十階層のセンガイダンジョンまですぐに転移することができた。
だけど、十階層からトレジャーラッシュ場所まで移動する必要がある。
「山門さんは、馬に乗ったことはありますか?」
「昔、BWダンジョンで馬車に乗ったことはあるけど」
「なら、大丈夫ですね」
そう言って、僕は一枚のカードを取り出す。
「出でよ!ステラ・ジ・サジタリウス!」
カードが光り、照らされた場所から魔方陣が浮き上がり、半人半馬のケンタウレ、ステラ・ジ・サジタリウスが召喚される。
煌びやかな装飾が施された軽甲冑を纏った、中世的な美貌の持ち主。だが、その下半身は馬の体であり、まさしく幻想生物に相応しい。
「お呼びでしょうか、我が君」
彼女は頭を下げ、右手は後ろに、左手を胸に当てて礼をする。その、見事なまでの所作に山門クララは恍惚とした表情で見つめている。
「ウォーリー召喚を頼む」
「わかりました。馬召喚!」
ステラはそう言うと、彼女の隣に魔方陣が現れ、足すねが白い赤毛の馬が現れる。
「大きい・・・」
ウォーリーは、地上の馬と比べても馬高が大きい。最初は普通の大きさの馬ぐらいだったが、ステラと僕が訓練を重ねているうちに、いつの間にか大きくなっていき、化け物級の大きさへと変わっていった。
地上の馬の馬高が2メートルで、かなり大きい方だが、ウォーリーは3メートル弱ある。さらに鍛え上げているので、筋骨隆々だ。僕が乗れば、まさしく子供が乗るようなものだ。
僕はウォーリーの鞍に跨がり、手で山門クララを招き寄せる。
「さ、どうぞ、山門さん」
「え、え、こんな大きな馬に乗るの?」
「これが一番早いですから」
ほんとはこれ以上にトレジャーラッシュ場所に辿り着くことは幾つかあるのだけど、現状これが一番目立たないといえる。
例えば、山門クララのドラゴネット。
これの上に乗って、空から向かえばすぐに着くことはできるだろうけど、彼女のドラゴネットはまだ小さすぎる。ドラゴンからすれば、まだ子供だ。成長すればそれなりの大きさになるだろうけど、今の幼い状態だと、空を飛ぶモンスターに群れで襲われて無事では済まない。下から投擲や矢を放たれて撃ち落とされる可能性も高い。
なんでも目立てばいいわけではないのだ。目立てば格好の標的になることは明白なのであり、美味しそうな獲物に過ぎなくなる。
馬のウォーリーは、でかいがダンジョンでは珍しくない。これよりもでかい馬に似たモンスターは多いし、角や翼、足が六本生えた馬もいるぐらいである。
正直、これらをウォーリーも含めて馬と定義していいものかもわからない。地上の馬に似た生物といっていいのかもしれない。
おどおどする山門クララの手を掴み、馬上まで引き上げて後ろに乗せる。
「あまり怖がらないでください。ウォーリーが不安になりますから」
「わ、わかったわ」
しばらくすると、落ち着いてくるのがわかる。さすがドラゴネットのライダーである。モンスターに乗りこなす度胸の持ち主だ。
「いいなあ、私も我が君の後ろに乗りたい・・・」
ステラが羨ましそうに小声でぶつぶつ呟いているが、気にしないでおく。
「ステラは、先導を頼む」
「羨ま・・・、え、ああ、わかった」
こくりと頷くステラ。
「一応、風の魔法を掛けますが、それでも気をつけてくださいね」
「気をつけるって、なにを・・・」
「行きますよ!」
僕はウォーリーに命じる。すると、ウォーリーはその巨体に合わないほどのスピードで駆けだした。
「わっ、あっ、ちょっとおおおおおおお!」
「喋らないでください。舌を噛みますよ!」
ウォーリーはさらに加速する。風の魔法で向かい風を遮断しているが、それでも勢いは凄まじいものがある。まるで地上を走るジェット機に乗っているようなものだ。
僕達の存在に気付いたモンスターが襲おうと追いかけてくるが、あっという間に見えなくなる。
しばらくすると、崖が見えてくる。崖下はかなり深く、向こう端までかなりの幅があるのがわかる。
「ちょっと、崖・・・」
「跳びますから、全力で掴まってください!」
言葉の意味を理解した山門クララは、ぎゅっと僕を抱きしめる。
ウォーリーはそのままの勢いで崖端から跳び、向こう側の崖端までなんなく着地する。そして停まることなく、駆け続ける。
この勢いで、僕達は徒歩で一週間掛かるトレジャーラッシュ場所まで、たった二日で辿り着くことができたのだった。
「おえ、おえええ、おぼぼぼぼぼぼぼぼ、おろろろ」
僕から少し離れたところで、美少女らしくない声を出して、胃の中の物を口から出す山門クララ。本当は一日で着くはずだったが、山門クララ体力が限界だったため、一日休んだためである。
「大丈夫ですか」
「な、なんとか・・・」
ダンジョンでは体力が落ちている場合、例えトイレであっても離れることは悪手である。着かず離れずが基本であり、彼女もこういう所は見せたくないだろうが、こればかりは仕方ない。後ろ向きでできるだけ見ないようにして、少しだけチラ見する程度にしとく。
十分後、げっそりと痩せた彼女が僕の方に戻る。
三キロは痩せたんじゃないだろうか。
「・・・大丈夫ですか?」
僕はもう一度同じ言葉を掛ける。
「ははは、うん、もう大丈夫、だと思う」
こうして僕達は、目的の場所に無事(?)辿り着いたのだった。




