98 彼女達のわがまま
よろしくお願いします
若鶏ヒナナ・・・元アイドルの芸能人。けっこう有名人らしい。
稲実アスカ・・・乙橘勇大が通う高校の一年先輩。ギルド『エウメニデス』の芸能班に所属している。
僕こと、乙橘勇大は、芸能人の若鶏ヒナナさんの誕生パーティに参加している。
ちょっと前までの自分では考えられない状況だ。なにしろ、ダンジョンでほとんど過ごし、家と学校はおまけみたいなものだったからだ。友達の誕生日に誘われたのはいつ振りだろうか。
・・・あれ、なかったかもしれない。
それなのに、初めて人の誕生パーティ出席が芸能人とは、ありえない状況である。
実は、この誕生パーティは、稲実アスカ先輩から誘われたものであるが、本当のところ、断ろうと考えていたのだ。
しかし、それを聞きつけたハイエルフのパフェ・ジ・スィートやケンタウレのステラ・ジ・サジラリウス、花の妖精のアンティア・ジ・チアフラワー、セイレーンのメルジナ・ジ・ネレイスが、自分達も参加したいと直訴してきたのだ。
「ちょっと、若鶏ヒナナの誕生日パーティに誘われたわよね。それにあたしも参加されなさいな!」
開口一番パフェが切り出す。
「私も」とステラ。
「私も」とアン。
「わたしも」メル。
「いや、お前等、若鶏ヒナナ知ってるの?」
「知っているもなにも、テレビやネットの動画サイトで有名人よ!あたし、彼女のドレス作りの動画を毎週視聴してるんだから」
「そうなの?僕はあまり知らないかな。そういう芸能人がいたなあ、としか」
「我が君、それは情報不足だな。もっと世間を知った方がいいと思うぞ」
嘆息混じりに指摘するステラ。
いや、地上に住んでる自分よりも、ダンジョンに住んでいる彼女達の方が地上の情報に詳しいなんて、どうなんだ、これ。
「そうですよ!若鶏ヒナナちゃんは元アイドルとしても有名人なんですから。彼女がセンターで踊りながら歌う姿は格好良いですよ!」
そう、興奮しながら語るメル。
「彼女はプリブレマキシマムスピードの前前作プリブレフォーチュンの映画でゲスト声優をしたことがあるんですから!」
アンもメルと同様に語り出す。なんだかわからないが、若鶏ヒナナが結構な有名人というのはわかった。
「それで、彼女の誕生日パーティに飛び入りで参加したいと」
「そうよ」
「いや、無理だろ」
「なんでよ!」
目くじら立てて、怒声を放つパフェ。
「アスカ先輩の話だと、後一ヶ月で誕生日パーティをするらしいじゃないか」
「そうね」
こくりと頷くパフェ。
「しかも、皆ドレスを着て」
「そうです。そのパーティに参加する全員が若鶏ヒナナがデザインした、異世界風ドレスなんですよ!」
「彼女が手掛けた衣装を着れるなんて幸せじゃないですか!」
メルもアンも鼻息を荒くして興奮状態に戻る。
いや、幸せもなにも、僕はその、若鶏ヒナナのことをあまり知らないのだが。
「だったら、後一ヶ月しかないのに、五人分のドレスなんて無理じゃないか?」
「うっ、確かにそうかも」
「それにこの誕生パーティは知人だけを集めたものらしいし。正直、僕はイレギュラー以外のなにものでもないし。いくらアスカ先輩のお誘いだからって、若鶏ヒナナの事を知らない自分が出席するのは間違っているんじゃないか?」
「じゃあ、アスカって女性を介して一度だけ頼むことはできないかしら?」
「頼む?なにを」
「だから、若鶏ヒナナに会わせてくれないかって。そこで私達をパーティに参加してもらうよう、本人に直接会ってお願いするのよ!」
「えええ」
なんと無茶な。友人の紹介の、ほぼ他人の誕生パーティなのに、さらに亜人種を参加させるようお願いするって、厚かましいにも程があるだろ。
「頼む、我が君。我儘なのは無理も承知だ!だが、私達は若鶏ヒナナに一目でいいからお目通りしてみたいのだ!」
頭を下げるステラ。
「それって、ミーハー・・・」
「違うわよ!・・・いや、まあ、そうなんだけど・・・、確かにヒナナンに会いたいというのは事実だけど、彼女の製作した衣装を見てみたいのも間違ってないし、なにより、彼女のドレスを着てみたいと思ったのは事実だし」
歯切れの悪い言い方で言い訳みたいなことを言うパフェ。
そういうのをミーハーという。しかも質の悪い方の。
さて、どうするか僕は考える。
若鶏ヒナナの誕生パーティに参加するなんて無理だろう。相手は相当の有名人らしいし、冒険者でもなければ亜人種に警戒心を持つ人間は多い。
日本ではともかくとして、海外だと見世物になりかねない。
「わかった。じゃあアスカ先輩に頼み込んで、一度だけ紹介という形で会ってみるというのはどう?」
「本当?」
「さすが我が君」
皆、笑顔の花を咲かせ喜ぶ。
「ただし、アスカ先輩に借りを作ることになるんだけど、いいんだよな」
僕の言葉に、顔を強ばらせる四人。彼女達はどういうわけか、アスカ先輩に対して警戒心を持っているのを僕は知っている。
「うっ、確かに彼女に借りを作るのは嫌だけど・・・」
「でも、このチャンスを失うのは・・・」
「ヒナナンに会いたいし・・・」
「綺麗なドレスも着てみたいし・・・」
四人は円陣を組み、こしょこしょと話しをする。
うーん。なぜこんなにもアスカ先輩に対して、距離を置くのだろうか。
「わかりました。これは必要なことだと思いますので、彼女に礼を言おうと思います」
アンが前に出て言う。そんなにアスカ先輩に借りを作るのは嫌か。
「わかった。とりあえずアスカ先輩に相談してみるから、結果は上手くいくかわからないからな」
「わかったわ」と、パフェ。
「ありがとう、我が君」と、頭を下げるステラ。
「敬愛しております」と、メル。
「愛しています」と、アン。
「いや、ちょっと、なにさらっと告ってんのよ!アン!」
「アン!君は!」
「ずるいですよ、アン」
「メル、君も大概だ!」
四人が騒ぎ出しているのを余所に、僕は稲実アスカ先輩に連絡する。
正直、今回の頼みは上手くいかないだろう。いくらなんでも無作法すぎるし、頼み方も無茶がありすぎる。謝罪する必要があるかもしれない。
後日、僕達は若鶏ヒナナと出会い、なぜか誕生日パーティへの参加が認められたのだった。
どゆこと?
わからん。
BWダンジョンでは、そこそこ大きいお屋敷で若鶏ヒナナ誕生日パーティが行なわれていた。
ハイエルフのパフェ・ジ・スィート、ケンタウレのステラ・ジ・サジタリウス、セイレーンのメルジナ・ジ・ネレイス、花の妖精のアンティア・ジ・チアフラワーは、それぞれの似合ったドレスを身に纏い、パーティの華となっていた。
パフェが光りの魔法で天井に星の光を描き、アンティアが綺麗な花弁を優しく吹かせ、メルジナが即興の歌を歌う。
パーティは思いの外、大盛り上がりであった。
僕は、少し離れた場所で、その様子を見ていた。
僕もステラほどではないが、異世界ファンタジー風の礼服を身に纏っている。女性が多い誕生日パーティで男は自分一人だけだが、皆パフェ達に視線がいき、モブの自分のことは気にならないようだ。
「今日はありがとうね」
気がつけば、琥珀色のドレスを着た稲実アスカ先輩が隣にいた。
「いや、こちらこそありがとうございます。本来なら部外者の自分達が参加できないと思っていましたから」
「そんなことないよ。ヒナナさんも喜んでくれてるし、来てくれてよかったと思ってる」
「そう言ってくれると嬉しいです」
それは正直な気持ちであるが、複雑な気持ちでもある。
なにしろ、今回のパーティの主役は若鶏ヒナナなのである。なのに、パーティ会場では、完全にうちの娘達が会場の主役みたいに闊歩している状態である。後で叱る必要があるだろうと僕は思う。世の中には相手を立てることも必要なのである。
「私も嬉しかった。勇大君が参加してくれて」
「完全なモブですけどね」
「そんなことないよ。私としては勇大君が参加してくれたことが、とても嬉しい」
「ありがとうございます」
そんなことは無いと思うが、社交辞令として受け取っておこう。僕は照れくさくなり、首襟のホックを外す。
「それでね、勇大君、実は・・・」
そこでアスカ先輩は、言葉を止める。そして、僕の顔の下を凝視する。
「その首の傷はどうしたの」
アスカ先輩が僕の首を指さす。
首の傷?
ダンジョンができて以降、傷のほとんどはポーションで治すことができる。例え大怪我を負い、一生消えない障害になったとしても、ダンジョンに連れて行き、高めのポーションを飲ませるか、魔術師によるヒーリングを受けることにより、次の日には以前と変わらない生活を送ることができるようになった。といっても、半身不随とかだと、ハイポーション級の0が四つ必要な金額が必要になるわけだが。
まさしく医者泣かせのアイテムと魔法である。人がダンジョンに対して危険と言いつつも、便利アイテムの宝庫であるため、冒険者という危険な職業を否定できない要因の一つである。
自分もダンジョンに潜っているわけだから、傷を負った際は安いポーションを飲んでいるため、傷の跡も残らず消えているはずだが、はて?
「ああ、これはパフェの噛んだ傷だな」
以前、召喚モンスターを奇跡の滴を使用して合成、強化した際に、パフェに噛まれた首痕が今もくっきりと残っていた。普段は湿布を張って誤魔化していたが、今日は張るのをすっかり忘れていた。
「パフェ?あのエルフの」
アスカ先輩が信じられないという顔をする。
「まあ、あれは僕が悪かったからね。その罰みたいなやつ?」
「私にはそう見えないかな。どちらかというと・・・」
「えっ?」
アスカ先輩の声が小さすぎて、最後の方は聴き取りづらかった。
「ううん、なんでもない。あ、そうだ、私ちょっと用事があるから、じゃあね」
そう言って、アスカ先輩は「実は・・・」の後を言わずに戻っていってしまった。
稲実アスカは乙橘勇大から少し離れた後、独りごちる。
「愛情表現だよね、あれって」
召喚モンスターは、召喚士に敵意を向けないと聞いたことがある。例えば、召喚士が召喚モンスターに対して、無理強いを行なったとしたら、召喚モンスターは召喚カードから出てくるのを拒否するのだという。最終的に召喚士は自分が持つカードを一枚失い、ギルドから日本ダンジョン協会に送られるのだとか。
エルフは、彼に対しての好意とマーキングの意味で残る傷跡をつけたのだろう。
よく見ると、他の亜人種達も尋常じゃない好意を向けているのがわかる。気付いていないのは乙橘勇大だけだろう。
「私も負けてられないなあ」
稲実アスカは笑みを浮かべながら、乾いた喉を潤すためにジュースを口にするのだった。
なんだかんだで100話まで話を進めることができました
それもこれも読んでくれる方々のお陰です
読者様がいてくれたからこそ、ここまでこれたと思います
当初書き込んでいた頃は、今より説明不足で、説明がくどかったり雑だったりした箇所が多々あった
と思います
思い残すことがあるとすれば
ダンジョン超裏技大辞典と謳っていながら辞典の内容が少なかったり
サッキュバスクィーンのリリカ・ジ・モリガンをさくっと進め過ぎて出番が少なかったりと
急かしすぎた所が多くあります
時間があればそういう部分を直していきたいと思います
また題名の方ももう少し手心を加えたいなとも考えています
乙橘勇大と召喚少女のダンジョン探索はまだまだ続きます
これからも御一読してくださると、とても嬉しいし励みになるのでよろしくお願いします




