彼女は鈍感?
「え?」
突然の事できょとんとしている美春は、どういうことですかと話の詳細を尋ねるかのようにこてんと首をかしげた。
その様子を受けて慌てて真冬は言葉を付け足す。
「…いや何、俺も勉強で悩んだ時期はあったから…手助けになるかと思って。」
我ながら論理的でなく完全に見切り発車をしてしまった、と思った。そもそもなんの接点もなかったいちクラスメイトの男子が、異性に勉強を教えるなんて傍から見れば好意があると思われるだろう。
実際真冬にはそんなつもりはなく、今目の前にいる一生懸命な少女が過去に悩んでいた自分と重なって、つい何とかしてあげたくなったという単なる善意から出た発言であった。
しかし美春にとって、当然そんなことは知ったこっちゃない。この時真冬が何を考えているかなんて理解出来るはずもないので、あらぬ誤解を生む前に、撤回をしようと思った……のだが。
美春は、先程涙を浮かべていたことによる相乗効果もあるだろうが、ぱあっと目をキラキラさせて、自分の腕を掴んでいた真冬の手を両手で懇願するように包み込む。
「是非お願いしたいです!家庭的な理由で塾には行かれなくて、先生にはなんか相談しにくいしで………本当に悩んでたんです!!」
胡桃色の目をぱちくりとさせて、まるで遊園地に連れて行ってもらえる子供かのようにあどけない顔でそう言った美春に対し、一瞬たじろぐも変に思われてないことを理解して、ほっと胸を撫で下ろす。
「…あ、でも、藤田さんにだけ負担をかけることに」
「いや、その点に心配は及ばない。俺も塾に通っている訳じゃないし、教えることは復習にも良いからさ。」
いつもなら打算的に優しい言葉をかける真冬だが、この時は美春の嘘偽りない素直な感情表現につられて、上辺を取り繕う雰囲気はなく素に近い形で返答した。
しかしその様子は、美春が普段クラスで見ている気さくで明るい彼と結びつかず、「本当ですか?…無理はしなくていいですからね。」と少し怒っていないだろうかと心配するように、おずおずとか細い声で言った。
その様子を不思議に思いながらも、大丈夫だよ、と返答をしようとするが、未だに真冬の手が美春の小さく柔らかい手ににぎにぎと包まれていることに気づいたのもつかの間だった。
突然図書室のドアがガラッと開いて、なかなか鍵を返しに来ない真冬を心配した、先程戸締まりを押し付けてきた教師が、「おーい、まふ………。」とこちらに気づくや否やにたにたとした何とも趣味が悪い顔で、うんうんと納得したかのように図書室を出ていった。
真冬は頬を紅潮させてパッと手を解くと、「そういうあれじゃないですから!!」と声を荒らげる。
ちなみに美春はというと手のやり場をなくして、暫く呆然として頭を整理した後に、自分のしていたことと、真冬が口にした「そういうあれ」と、教師の無言で出ていった理由を遅くはあるが丁寧に結び付けて、真冬が美春の様子を見た時には、耳まで真っ赤にして下を向いていじらしく手をもじもじさせていた。
(……くっそ………なんでこいつはこういう理解はできるんだ……。)
勉強苦手キャラなら、そこは典型的に鈍感な女子でいろよ、と理不尽なことを思いつつ、真冬は呆れて頭をかいた。
いつまで続くかな笑