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嘘つき優等生の春一番  作者: 胡桃ゆべし
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彼女はがんばりや

(…………あれは)


以前に借りた英和辞典を返しに来た藤田真冬は、図書室の机の隅っこにポツンと座る見覚えのある女子に視線が留まる。


図書室で1人黙々と、他を寄せつけないように真剣な眼差しで勉強をしている彼女、真中美春は………こう言ってはなんだが頭があまり良くない。


普段からあまり目立たずに、1人机の上で黙々と勉強をする所をよく見る。ここまではいいのだが、いざ授業で先生に当てられると素っ頓狂な答えを返すのだ。


勿論いままで全部の答えが間違っていた訳では無い。しかし普段から地味めな丸メガネをかけていて、人と話すこともあまりなく、勤勉そうに見える美春が、笑いを取らんとばかりにおかしな答えを言うので、よく陰でヒソヒソと小馬鹿にされていた。


「…………真中さん、そろそろ図書室も閉まる時間だよ。」


一生懸命勉強している彼女の邪魔をするのは申し訳ないが、ここに向かう途中でついでに図書室の戸締りをしてくれと、現文の教師に鍵を押し付けられたため、一刻も早く帰りたい真冬としては、本来の閉まる時間までの15分なんて到底待てなかった。


突然声をかけられビクッと身体を震わせた美春は、慌てた表情でわたわたと帰る支度をしようとするも、あまり急いだせいかカバンを倒してしまい、中の教科書やらノートやらが散乱してしまった。


内心まじかよと思いつつも、顔に出さないようにして仕方なくそれらを拾ったのだが、その教科書やノートには、自分のものとは比べものにならないくらい、かなりの付箋と使い古したあとが見て取れた。


「あの………すみません、ありがとうございます。」とじっとボロボロの教科書を見つめる真冬に、美春が少し気恥ずかしいのか返して欲しいと言わんばかりに瞳を俯かせながら手を差し出す。


華奢で小柄な女の子だったので、当然小さな手をしているのだが、その小さく頼りない手にはシャーペンをずっと握っていたであろう痕や、もっというならペンだこのようなものまで出来ていた。


「…本当に、勉強を頑張ってるんだね。」と思わず感心を口にしつつボロボロの教科書類を返そうとすると、美春は少し驚いたような顔をした後、はにかんだ表情をしつつ、だが暗い抑揚のない声で、


「…まぁ、頑張ってはいるつもりなんですけど、なかなか結果には繋がらなくて……藤田さんの足元にも及びませんよ。」


この前のテストも、結局どれも平均点まで届かなかったし、と真冬に聞こえるか聞こえないか位の声で付け足した。


確かに、真冬自身の成績はかなり良い方で、クラスの最高得点なんかがテスト返却日に発表されるのだが、その都度クラスメイトがわらわらと真冬の席に集まって、どうせお前なんだろ?と囃し立てるのが恒例となっていた。


しかし真冬自身、元々勉強が得意であった訳では無い。今目の前にいる美春を無意識に昔の自分と重ねて、何とかしてあげたいような気持ちになったのは確かである。


それでも、余計な接触はあまりしない方がいい、と真冬が思ったのは、目の前にいる彼女が苦手な訳ではなく、また面倒事を抱え込みたくなかった訳でもなく、単に、彼はかなり人目を気にする性格であったからである。


例えば、美春の勉強を見てあげることにしたとしよう。そうしたら他の男子にからかわれることは間違いないし、美春を小馬鹿にしていたクラスメイトからは気味悪がられるだろう。


後天的に養われた感覚ではあるが、日頃の生活から強くそれが根付いてしまった彼は、我ながら薄情な奴だな、とは思いつつもここは何となく流してしまおう、と、とりあえずその場で取り繕った表情と言葉で、彼女を励ます方向でいくことに決めた。


「あー、俺も元々勉強駄目だったし、真中さんもすぐー…」

そこまで言いかけてふと美春の方に目をやった真冬が声を詰まらせた。美春は相当悩んでいたのか、先程の美春自身の後ろ向きな暗い言動につられるように、俯きつつも胡桃色の目に涙を浮かべていた。


だがすぐにハッと我に帰って、胡桃色の目に涙を浮かべつつも、絶対にこぼさないと自分を鼓舞するようにすぐ、地味目であるが丁寧にまとまった黒髪をぷるぷるとふるわせ軽く上を向き、固まっている真冬からパッと教科書を受け取ると、


「変なこと言ってすみません、拾って頂きありがとうございました。」と、多少声が裏返りつつも力強く言葉を発した美春は、そそくさとカバンに教科書をしまってその場を立ち去ろうとした。


その瞬間、真冬は何かを思い出してあれこれ考える間もないまま、立ち去ろうとする美春の細い腕を強く掴む。


「俺で良ければ、勉強手伝うけど。」と、さっき頭で考えたこととは全く矛盾したことを、美春に言うのであった。




















初めて書きますので色々多めに見てくれると

助かります♪

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