河童に慕われてる私
私、村崎月乃はどこにでもいる平々凡々な高校1年生。
一応地元では有名な進学校に合格できたんだけど、入学式早々に遅刻しそうになって、通学路を走ってる真っ最中だ!
「お嬢!!!なんでおいらの愛を分かってくれないんすかー!!!!」
原因はコイツ、後ろから追いかけてくる河童。
河童?って思う人もいるかもしれないけど、後できちんと説明するね!
朝ごはんは食べ損ねたし、遅刻しそうになってるんだから、何も考えずに走らないと!!!!
私は後ろを振り向き一瞬でカバンに手を突っ込んで中身を取り出し、思いっきり学校とは逆の方向にぶん投げた。
ちなみに投げたのはキュウリだ。
河童といえば好物はキュウリなんて安直だって思うかも知れないけど、目の前のキュウリを目にした河童はキュウリをキャッチして美味しそうに貪り食べている。
今のうち!私は河童を置いて学校までダッシュした。
入学式を終え、私の平々凡々な高校生活を送る予定のクラスに入る。
村崎なので席は真ん中の辺り、なんとなくクラスを見渡してみると、早速グループは出来上がってるようだ。
入学式が始まる前の空き時間で距離を縮めたみたいだ。
クラスの担任となった先生が黒板になにか書いている。
「このクラスを1年間担当させてもらう佐々木だ。まー、見て分かると思うが、今からこのクラスを1年間引っ張っていってもらう委員長と副委員長を決めたいと思う。やりたいやついるか?」
無駄に顔の整った先生だ。
女子生徒が色めき立っている。
そんな中1人スっと手を挙げた男子生徒がいた。
「お、えーっと、飯島稔だな!委員長になってくれるか?」
飯島稔と呼ばれた生徒は「はい」とだけクールに返事した。
女子生徒達は『飯島稔』という名前に反応する。そりゃそうだ、地元1のイケメンで有名な飯島くん。
私でも名前は聞いたことあった。
否、聞いたことあるというより実家は隣同士、保育園から中学、そして高校も一緒の幼なじみだ。
いつからか避けられるようになってからは話してもないけど!
その後副委員長はクラスの女子の争奪戦で、ジャンケンで勝ち上がった子がその座を手にしていた。
放課後になり、誰にも話しかけることの出来なかった1日を反省しながら帰路に着く。
「お嬢!!朝はやってくれたっす!」
待ち構えていたと言わんばかりに今朝の河童が現れた。手にはキュウリを持っている。恐らくお母さんに持たせてもらったんだろう。
私はそんな河童を横目に今朝のことを思い出していた。
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心地よい暖かな陽の光が差し込み、神棚の前に敷かれた布団で目が覚めた。
欠伸をしつつ伸びをする。
今日は入学式、気合を入れて登校しよう!!
布団を畳み押し入れに仕舞う。
私は、死んだじーちゃんとばーちゃんの家に両親と弟と住んでいる。神棚のある部屋はじーちゃんとばーちゃんが大切に管理していた部屋だ。
朝の準備をしてから、神棚の掃除を軽く終え、お母さんの作ってくれていた朝食を食べようとしていた時、河童が縁側から入ってきた。
「お嬢ー!おはようっす!今日は入学式っすね!景気づけにオイラとっておきの物もってきたっす!」
「おはよ!河童!なにをくれるの?」
朝からヌルヌルてかてかとした肌を見せつけながら、ふんどしを巻いた姿で河童が縁側に腰かける。
「いやぁ、ほんと手に入れるの苦労したんすからねー!」
そう言って甲羅の中から河童が取り出したのは、ギュウギュウにカゴに詰められたカタツムリだった。
「へぁ!?」私は声にならない悲鳴をあげ、カタツムリ入りのカゴを河童に投げつける。
そして通学用バッグをつかみ、家を学校とは真反対の方角に飛び出した。
走り疲れて、胸のバクバクが落ち着いてきたところでスマホをみると、8時30分。
周りを見渡すと同じ制服で登校している生徒は誰一人いない。
スマホの位置情報をみて、大量の冷や汗が吹き出す。
入学式は8時45分から。ここから学校までは全力ダッシュすれば間に合うかな?といったところ。
「あんの河童め〜!!!!」
私は半べそをかきながら、学校まで走り出した。
そこで家の前で私を探していた河童に見つかって、追いかけられていたって訳。
「ただいまー!」
河童にブーブー文句を言われながら、帰宅して玄関を開ける
「おかえりなさい、入学式どうだった?」
キッチンでお母さんが優しく微笑んだ
「母君ー!月乃ってば酷いんすよー」
河童がヌルヌルてかてかした体をくねらせながらお母さんに近寄る。フワッと河童の体が宙に浮いた。
「河童くん、君は月乃の恩人だからここにいれてるんだよ。僕の妻に何の用だい?」
「父君!誤解っすよー!ふんどしだけは!ふんどしだけは勘弁してください!」
後から帰ってきたお父さんに、ふんどしを剥がされようとしている河童をみて、、、笑いがとまらなかった。
その後部活から帰ってきた中学生の弟皐月と、家族みんなで、お母さんのご飯を食べた。
お風呂に入って神棚に手を合わせる。私の毎晩のルーティンだ。
「お嬢、朝は悪かったっす、おいらも悪気があったわけじゃないんすよ…」
部屋の隅っこで体育座りをしていた河童がぬるぬ…うるうるとした瞳で見てくる
「分かってるよ、気持ちはすごくありがたいよ。ただカタツムリは嫌だって中学の入学式の時も言ったでしょ!」
「3年も経ってたら克服したかと思ったんすよ、ていうかカタツムリの中でも河童のおいらが集めたカタツムリっすからね!!こいつはすんげえうまいんすよー!」
そういうと河童は、甲羅の中からカタツムリを1匹つまみ出して、中身をほじくって口にほおった。
そんな河童との出会いは私が3歳の時。つまり河童とは10年以上の付き合いなのだ。
3歳の時、両親に連れられた河川敷で遊んでいたとき私の靴が流された。
幼い私は靴を無くしたら両親に怒られると思って、急いで取りに行ったのだが、川の流れに足を取られ一瞬で水の中に沈んだ。そこを助けてくれたのが河童だった。
「お嬢!大丈夫っすか!」
近くの陸に、3歳の私と変わらない背丈の河童は引きずりあげてくれた。
「げほっげほ」
大量に飲んでしまった水を吐き、目の前にはよく分からない緑色のヌルヌルてかてかの人型のなにか。
3歳の私には当然受け入れることはできずに、怖くてびっくりして泣きわめいた。
河童はそんな私をあやそうと、小魚のとってきたり、綺麗なピンク色の小石をもってきたり、その辺に生えていた野花で冠を作ってくれて、泣き止んだところを両親に見つけられた。
河童は命の恩人だ。幼い私は単純だったので、花の冠をくれた河童を一瞬で受け入れた。
「おとーさん、わたしかっぱ飼う!!」
河童を力強く指さしてお父さんとお母さんに訴えた。
お父さんは河童と同じ目線にしゃがむと、
「君は…月乃のことを助けてくれてありがとうございます。」
河童に頭を下げた。慌ててお母さんも頭をさげる。
「おいらがいつまでも近くでお嬢と母君、父君、坊ちゃんのこと守るっす!」
そう言って河童は家族の一員になったのだ。
不思議なことに河童は私の家族以外には見えないようだった。
花の冠が枯れたとき、私はまた大泣きしたけど、河童があの時一緒にとってきてくれたピンク色の小石を、お母さんが知り合いに頼んでくれてブレスレットに加工してくれた。
肌身離さず身につけている私の宝物だ。
あとから聞いた話だと、じーちゃんとばーちゃんが産まれたばかりの私をみて
「この子の周りには友達がたくさんいるなぁ」
「ほんとだねぇ、皆さんどうか月乃と家族をよろしくね」
なんて言っており、不思議な友達はたくさんいるみたいだった。
お父さんとお母さんは、その友達の姿は確認できなかったけど、確かに家で寝かせておけば泣いてもいつの間にか泣き止んでたり、絶対に布団がズレなかったり、不思議なことは既に起きていたので、両親も素直に河童のことを受け入れたのだと言っていた。
むしろやっと姿が見えたことに喜びを感じたらしい。
だから私は、河童のことは家族だと思っているし、兄のようで弟のように感じている。
河童は3歳の時のサイズのままだ。
成長したら私が怖いと言ったので、不便だろうにずっとあのサイズで居てくれる。
でもたまに、カタツムリとかキュウリとか河童の性質を見せつけられて萎えるのだが。
「じゃあお嬢!明日も学校っすよね!おいらはもう帰るんで!」
そう言って部屋から出ていくと、庭の池からちゃぷんと音が聞こえた。
河童曰く、庭の池は不思議な力で河童の住処と繋がっているらしいのでこの家に住む必要はないらしい。
と言っても、相撲が大好きな河童は用のないときは基本家でテレビをみている。
私も布団を敷いて改めて神棚に手を合わせてから、眠りに落ちた。