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贈る言葉



帝都もまた聖都に匹敵する超巨大都市である。当然、そこには多種多様な人々が生活していた。広大な平野を埋め尽くすように建物があり、その中には孤児院もあった。


その孤児院は教会系孤児院とは違い、貴族たちからの義援金によって経営されている。


「なあ、先生。それでローラはその後どうなったんだ?」


少年は尋ねる。

つい先程、他所よその子供たちと殴りあいの喧嘩し、顔や身体に傷を残したままの少年。

先生に呼び出しをくらい、延々と話を聞かされていた。


「その後のローラの人生は、これまでの話が序章のように波乱なものでしたよ」


「まじかよ……!?」


「えぇ……本当に」


先生は簡単に説明した。


ローラが姿を消してから、再び世界の表舞台へと戻ってきたのは、数年も経ってからだという。

驚くべきことに、ローラはそれまで人類が到達したことのない未知の大陸にいたらしい。


「それって、あの新大陸か!?」


少年は目を輝かせながらいう。

それに対して先生はゆっくりと頷いた。


「にわかに信じられないことですが、ローラは新大陸で手に入れた数多の宝物を持って帰ってきました」


それは世界に衝撃を与えた。

その宝物は超古代に失われたとされる技術が使われており、今まで伝説とされていたものだった。

ゆえに、世界に覇を唱える列強国が、こぞって新大陸を目指すきっかけとなる。


だが、その過程は決して楽な道のりではなかった。そもそも、新大陸へは魔の海と呼ばれ、凶悪な魔物が蠢めく海を越えなければ行けない。

だからこそ、今まで人類には到達不可能だと思われていたのだ。

そして、その大陸は神話に出てくる伝説に過ぎないと人々は納得していた。


「どうやってローラは越えたんだ?」


「ローラ曰く、初めは偶然らしいわね。たまたま乗ってた船が沈没し、気がついたら新大陸にいたらしいから。でも、帰ってきた方法はローラが発見した技術よ」


「おお! それはどんな技術なんだ?」


少年の素朴な質問に、先生は首をふる。


「それは分からないわ。なぜなら、ローラがその技術を伝えたのは、限られた相手だけだもの」


「なんだよ、ローラはケチなのか」


「違いますよ。その技術は一般に公開出来ないくらい、危険を伴うからです。実際、それを知った大国ですら、驚くほどの犠牲を積み上げてます」


少年を諭すように先生はいう。

その技術は絶対の安全性がある訳ではなかった。

命懸けでも無理だったことが、かろうじて命懸けで達成出来るレベルになる技術である。


だが、そこには国家権力者だけではなく、人類全体で考えた場合でも、大きく違った意味があった。

だからこそ、その技術は使われたのだ。


「ふーん。人の命を犠牲にしてまで必要な宝物なんてあるのかよ」


「無いと思いますか?」


「……あってたまるか」


その少年の純粋な気持ちを、先生は嬉しそうに聞いていた。


「そうですね。ですが、忘れてはいけないことがあります。それはローラが持ち帰った宝物には莫大な価値があり、それらを売却することによって、ローラは世界有数の資産家になったということです。そしてその資産を運用した結果、この孤児院が建てられているのだということを」


「え……じゃあ、ローラが居なかったら、この孤児院が無かったってことかよ」


「えぇ。その通りです。それにローラが莫大な資産を使ったのは、この孤児院だけではありません。帝国のみならず、各地にある病院などもローラのおかげです」


宝物を売却した潤沢な資金を活かし、新技術を餌にして権力者たちとの人脈を構築したローラ。

彼女はそれを遺憾なく発揮した。


生涯独身を貫くローラにとって、孤児院の子供たちは我が子なのかもしれない。

その大きな違いとして、教会系孤児院と違い、ローラが作った孤児院は里親を募集していない。


それはまるで親が子供の面倒をみるように、子供が成長して大人になるまで、キチンと育てられるような仕組みが出来あがっていた。

かつて自分が名家から追放されているというのに。


「マジかよ。ローラすげえな」


「そうですね。かつて悪女と呼ばれた彼女。それこそが伝説の聖女ローラの生き様だったのです」


心の底からローラを心酔している先生は、そう語る。


「君がなぜ暴力を振るったのか、それについては君なりの理由があると思います。だからこそ、私からこれ以上はとやかく言いません。ですが、この孤児院で生活する以上、正面玄関に飾ってある言葉、その意味を自分なりに考えて答えを出しなさい。その言葉こそ、ローラが残した言葉なのですから」


先生は暴力を振るった少年にそれだけを伝えた。

この先生を含め、ここで働く職員は全てローラの信念を受け継いでいた。

それこそ子供がどんな子であっても、なにがあっても、決して見捨てるような真似をしないことであった。





孤児院の正面玄関に飾ってある言葉。

それは自分の銅像や肖像画を飾ることを許さなかったローラが、呆れるように大目にみた物だ。

そしてローラに心酔した職員たちによって、大切に飾ってあるものだった。


そこにはこう記載されている。




『好きに生きなさい。私は好きに生きたわ』



この言葉の意味にこそ、我が子のような孤児たちに向けて贈る、ローラからの想いが込められているのだろう。










おわり



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