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わたしの能力……興味あります?

 わたしの能力について、少々説明しておこうと思います。


 わたしの能力は、心を読むことができるという特殊なものです。

 これは、『ギフト』と呼ばれる特殊能力の一つです。ですが、ギフトそのものは別に珍しいものではありません。

 世の中に存在する魔術師は、それぞれに『火魔法のギフト』とか『水魔法のギフト』を持っているのですよ。そして戦士職の者であっても、『槍修練のギフト』や『剣達人のギフト』とかを持っていたりします。このギフトを持っているかどうかによって、武器を扱うにあたっての適性が大きく異なるのだとか。

 まぁ、中にはそんなギフトなんて関係ない、と必死に修練を積んで、ギフトと異なる武器での達人になる方もおられるそうですが、それは限りなく例外と言っていいでしょう。


 ただそんなギフトの中には、非常に珍しいものも幾つか存在します。

 例えば『瞬間移動のギフト』を持っている方――通称『瞬間移動士テレポーター』と呼ばれている方は、千里の距離を一瞬で渡らせる能力を持っています。わたしも詳しいことは知らないのですが、国と国を行き来するような職業の方には、必須の存在だそうです。しかし瞬間移動士テレポーターは数が少ないため、『瞬間移動のギフト』を持っている方は国のお抱えになるのが基本らしいですね。

 また他にも、『時間操作のギフト』を持っている方もおられるそうです。これは補助魔法として『加速ヘイスト』『減速スロウ』などを扱うことができ、また一定の時間を止めることもできるのだとか。かつて冒険者の中に、たった一人だけこの技術を扱うことができる人物がいたそうですが、現在は一人もいないそうです。

 そういったギフトと同じく、非常に珍しいギフト――それが、わたしの持つ『読心のギフト』です。

 名は体を表すではありませんが、分かりやすいギフトですよね。その名前の通り、心を読むことができる能力です。

 下級の男爵家に生まれた、極めて平凡な三女のわたしが、何故かそんな凄まじいギフトを授かってしまいました。

 まぁ、そのせいで色々事件もありましたし、色々困ったこともありましたが、旦那様と出会ってここに住むようになってからは日々を穏やかに過ごしています。


 そもそも、わたしのギフトは操作が難しいんですよ。

 基本的には、周りにいる心の声が全部聞こえます。ですから、それはもう苦労しましたとも。横になっていても全部聞こえるんですから、睡眠不足に何度悩まされたことか。

 しかも人混みに行ったら、もう周りから心の声が聞こえまくりですからね。ノイローゼになりそうでした。

 今は旦那様しかいませんから、聞こえる声も旦那様のものだけですから、とても静かに暮らせますけどね。ティガス村への行商も、まぁそれほど人の多い村ではありませんので、なんとか耐えることができます。

 ですから、わたしの望みは一つ。

 これからも、この家で心穏やかに過ごすこと――。


「ふんふーん」


 パスタが茹で上がりました。

 旦那様の肩に乗って、急いでおうちまで戻ってから、頑張って竈に火を点けてご飯を作っているところです。七日に一度は炭を売りに行っていますが、勿論我が家で使う分はちゃんと置いてあるのですよ。

 旦那様の分を多めに、わたしの分を少しだけ、パスタを茹でました。

 クリームソースは既に作ってあります。結婚したばかりの頃は火加減が難しく、何度か焦がしてしまいましたが、今はもう慣れたものです。そして茸も炭火で網焼きしておりますので、こちらが焼けたら絡める形ですね。

 旦那様が椅子に座って、そわそわしています。美味しそうな匂いがする、と楽しみにしてくださっているのがよく分かりますね。


「ささ、旦那様。もうすぐ出来ますよー」


「……」


「うふふ。そんなに楽しみにしてくださって、嬉しいですね」


「……」


 わたしの言葉に、ふい、と旦那様が目を逸らしました。

 目を逸らしても、ちゃんと心の中で「クリームソースパスタ、いい匂い……うまそう……食べたい……」と考えているのが聞こえますよ。

 旦那様、本当にクリームソースパスタがお好きなのですね。


「さ、では絡めていきますよー」


 ちなみに、旦那様は本当は食べなくても平気だそうです。

 魔物というのは、本来は大気中に存在しているマナで栄養をとるのだとか。そしてマナをより効率的に摂取するために、魔物は自分の縄張りを築くのです。

 ですが、わたしが旦那様と食事をご一緒したいと我儘を申し上げまして、渋々一緒にごはんを食べてくれるようになりました。別に食べなくても平気なんだが、と仰っていましたが、わたしからすればなんとなく罪悪感だったのですよ。自分だけ食事を楽しんで、旦那様は全く食べないというのは。

 もっとも、今は旦那様も食事を摂ることに慣れて、ごはんを楽しみにしてくれていますけど。


「旦那様、できました」


「……」


「どうぞ」


 旦那様の前に、大きなお皿に載せたパスタを置きます。

 ほかほかのクリームソースに茹でたてのパスタを絡めて、彩りに炭火焼きの茸を添えたもの――茸のクリームソースパスタです。

 作っていた量は、旦那様の分が九割。わたしは残りの一割です。旦那様は健啖家ですので。


「……」


 もぐもぐと、旦那様がフォークを使ってパスタを召し上がります。

 ちなみにこのフォークは、ティガス村の職人にわざわざ作ってもらったものです。旦那様の体の大きさに合わせた、非常に大きなフォークです。同じ大きさのスプーンもありますよ。

 職人に頼んだときには、「こんなもん何に使うんだ?」と呆れられたものですが。


「うん。美味しいですね、旦那様」


「……」


 わたしも食べます。

 うん。今日のクリームソースも、なかなか上手に出来ました。

 旦那様と暮らし始めたばかりの頃は失敗ばかりだったお料理ですが、もう一年も経つので上達しましたね。わたし成長中です。ぶい。

 旦那様も無表情で召し上がっていますが、心の中では「うまい! うまい!」と叫んでくださっています。

 美味しそうに食べてくださるのが、作った者としては何より嬉しいことですね。


「クリームソースが少し余りましたので、明日はチキンのクリーム煮をしますね」


「……」


「うふふ。旦那様、本当にクリームソースがお好きなのですね」


 こんな風に、旦那様と二人で過ごす夕餉。

 旦那様がお仕事をして、わたしが家のことをして、穏やかに過ごす毎日。


 これが、わたしの幸せな日々なのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは…人の世じゃ住みにくいギフトですね…
[一言] 平和な日常… ごく普通の貴族に生まれ、 ごく普通に流刑に処され、 ごく普通に2人は出会い、 ごく普通に結婚しました。 でも、ひとつ違っていたのは…旦那様はミノタウロスだったのです… っていう…
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