第2話 6月10日断誕生日 作者:ますあか
作:ますあか
(アトザ視点)
梅雨に入り湿った空気が風魔の里に流れるようになった。
アトザ「もう6月か」
私にとって6月は気を引き締めなければいけない季節だ。
私の直属の部下である忍の断は、6月に決まって不調をきたすのだ。
断は本当に仕事ができて、よくできた部下だと思っている。
それこそ私には勿体ないくらいのよい部下だ。
アトザ「断。いるか」
断「ここに」
すると私の背後に断が気配なく現れた。
アトザ「今日はお前の誕生日だったな」
断「はい」
電子音のような返事が聞こえてきた。この電子音のような変声音で、断が男性なのか、女性なのかも分からなかった。
だが、そんなことは関係ない。断は風魔の忍で私の優秀な部下だ。
その事実だけでいい。
アトザ「何か欲しいものなどあるか」
断「ありません。いつも十分すぎる物をいただいている」
アトザ「そうか」
断が必要ないといったら、必要ないのだろう。
しかし、何も祝わないというのは少し寂しい気がした。
アトザ「断、誕生日おめでとう」
私から断に贈れるのは、この言葉だけだ。
しかし断には気持ちが伝わったようだ。小さく頭を下げ、こう言った。
断「ありがとうございます」
無機質な電子音による返答。だが、少し照れているようにも感じた。
アトザ「今日はゆっくり過ごせ。あと、蛇ノ目たちがお前に贈りたい物があるそうだ」
断「……そうですか」
アトザ「今日は任務でいないから、代わりに渡して欲しいと頼まれてな。預かっている」
そう告げると、私は断に小包を渡した。
アトザ「あと、天界のとあるお方からもお祝いの言葉と贈り物があってな」
断「天界からもですか」
断は少し驚いたような様子をしていた。
アトザ「蛇ノ目たちと天界のお方達にお礼を言うように、以上だ。下がれ」
断「御意」
断は返答すると、風のように姿を消した。
アトザ「忍が誕生を祝われる日が来るとはな」
時代の流れに驚きながら、私は弟が待っている隠れ家に戻った。
※ ※ ※
(断視点)
私はアトザから受け取った小包を開けた。
蛇ノ目たちからは、新しい額当てが入っていた。
先日の戦闘で額当てに傷が入ったことを気にしてくれたのだろう。
蛇ノ目やカルマたちの細やかな気遣いを感じられて、よく見ているなと感心した。
次に天界のさるお方から受け取った包みの中身を見た。
包みの中には、篭手の組紐と電子部品が入っていた。
この贈り物の組み合わせに私はとても驚いていた。
私がどのような存在なのか、風魔の首領であるアトザすら知らないはずだ。
そしてこの電子部品は、今最も私が必要としていた物だった。
何故、天界のお方は私が欲しい物が分かったのだろうか。
やはり天界のお方達は、特別な存在なのだろう。
敬意を示しつつも、気を抜かないようにしなくては。
でも今だけは、私の誕生を祝ってくれた者たちに感謝をしたいと思った。
※ ※ ※
(カルラ視点)
カルラ「サットヴァ様。ご指示通りにプレゼントを用意しましたが、あれでよろしかったのですか」
サットヴァ様が断に用意したプレゼントは、電子部品と篭手の組紐だ。
とても不思議な組み合わせのプレゼントの中身に私は驚いていた。
カルラ「どのようにプレゼントを決めたのですか」
サットヴァ「カルラがくれたカタログだったかしら? それを一枚ずつ見て、直感で決めたの」
カルラ「あの厚いカタログを全て見たのですか?」
カルラが用意したカタログの厚さは六法全書なみに厚い。
全て目を通すにも、1ヶ月はかかるだろう。
カルラ「しかもプレゼントの内容を直感で決めたとは、サットヴァ様らしいですね」
サットヴァ「なんとなくね、これがいいなと思ったの! きっと喜んでもらえるわ。そんな気がするの」
サットヴァ様の直感は研ぎ澄まされている。
相手の心を見透かし、民草の悩みを晴らすのが得意な方だ。
きっと無作為に選ばれたように見えるあのプレゼントも意味があるのだろう。
やはり人とは一線を越えた存在なのだなと、私は改めてサットヴァ様に畏敬の念を感じた。
※ ※ ※
(サットヴァ視点)
私、サットヴァは機嫌が良かった。
私の直感だが、先日贈った断へのプレゼントはどうやら喜んでもらえたらしい。
人にプレゼントを贈る、人を祝うってこんなに感動することなのね。
私は長い間存在してきたけど、このような感動は味わってこなかった。
時代の変化を感じ、とても喜ばしいことだと感じた。
そんなことを考えながら、私は次の【ばーすでーぱーてぃー】を迎える忍びについて思いをはせた。
私の【ばーすでーぱーてぃー】の探求は、まだまだ続く。