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よふかし同盟  作者: 巫 夏希
第二章 よふかし指南
8/17

お宅訪問。

 市街地から少し離れたところにある雑居ビル。

 僕は梓に連れられて、そこにやって来ていた。


「どうして、僕をこんなところに……」

「ま、良いじゃないか少年。これから一蓮托生なんだ。お互いに隠し事はないようにした方が無難だろう? 別に出したくないなら、それはそれで構わないが」


 梓にそう言われてしまっては、僕も反論を出しようがない。

 確かに僕の部屋は殺風景だから、人を招き入れるには適していない。しかし、だからといって相手の家にいけしゃあしゃあと乗り込む程、僕も強欲ではない。

 メリットがあるかもしれないと思ったから、僕はそれに従うだけだ。

 それにほら、吸血鬼のすみかなんて誰も知らないだろうし。

 雑居ビルの三階に上がると、直ぐに扉が出てきた。

 どうやら、梓はこのワンフロアを貸し切っているらしい。

 かなりブルジョワな気がするけれど、一体どういう生活をしているのだろうか?


「中に入ってよ。ちょっと汚いかもしれないけれどね」


 そう言っている人間って、大半は結構綺麗にしているんだよな。

 あれで汚い、ってなったら――それって潔癖症じゃないか?

 中に入ってみたものの――中の様子はやはり綺麗に纏まっていた。

 というか、生活感が皆無だ。テーブルが大きく中心に置かれていて、ソファには毛布が掛けられている。……まさかとは思うけれど、ここをベッド代わりにしているのだろうか?


「だから、言っただろ。うちは汚いって」

「いや、何処が……。ゴミなんて見当たらないじゃないですか。強いて言うなら、生活している雰囲気があまり感じられないことぐらいですけれど……」

「そりゃあまあ、ここで寝食をしているだけだからな。仕事はしているようでしていないようなものだし」

「何の仕事をしているんですか?」

「ブロガー」

「……めっちゃ今風」

「もとい、探偵をしているよ」

「探偵、ですか」


 吸血鬼が探偵をするのって、何だかあんまり想像が出来ないんですけれどね?


「珍しいか、吸血鬼が探偵をすることが」

「いえ、別に……。ってか、何でそう思ったんですか。心でも読んだんですか?」

「読めるんだよ……って言ったらどうする?」


 梓は笑いもせず、たださらりとそう言ってのけた。

 何というか、冗談かそうじゃないのか、その区別がはっきりと付けられない……。


「ま、楽にしてよ。ソファに座ってくれても良いし、椅子に座ってくれても良いし。……流石に地べたに座るのはどうかと思うけれど。クッションぐらいは出しても良いよ」

「いや、流石にそんな常識がない訳じゃないですから……。取り敢えず、このソファに座りますね」


 毛布をどけて、ソファに腰掛ける。ソファはとてもふかふかしている。ベッドのそれと同じか、それ以上かもしれない。低反発という奴だろうか。何というかそのまま吸い込まれるような、そんな感覚すら感じられる。


「ふわふわしていて、気持ち良いでしょう? だから、私もそのソファで寝続けているのよねー。ソファで寝ると昔は身体全体が痛くなっていることも良くあったような気がするけれど、今はそんなことないもんね。ほんと、技術の進化というのは凄まじい……」


 梓は給湯室にあった電気ポットでお湯を沸かしていた。

 何か、ところどころ普通の人間みたいな所作があるんだよな……。もしかして、昔は人間と暮らしていたのか、それともこの現代社会に住み続けて、人間らしくなってしまったのか。答えは分からないけれど、少なくともまったく常識がないとかそういうことはなさそうで、少し安心する。


「あ、お構いなく……。別にペットボトルとか缶コーヒー一本あれば十分ですよ。理想を言えばエナジードリンクでも」

「お構いなくと言いながら自分の欲しい物を言ってくる辺り、あまりそこまで遠慮していないように見えるのだけれどね?」


 そう言いながら梓はテーブルにコーヒーの入ったマグカップを置いた。


「……どうも」

「別に毒も睡眠薬も入っていないから、安心して飲みなさい」

「……何で何も言っていないのに、そんな不安要素ぶち込んでくるんですか?」


 逆に不安になるよ、それ。

 高度な情報戦略なのかもしれないけれどさ。


「……さて、それじゃあ何処から話していけば良いのやら」


 梓は椅子に腰掛けると、コーヒーを一口啜って、そう言った。


「普通に考えて、吸血鬼の力を失った原因からじゃないですか? 一体、いつからその力を失っていたんですか。何か、つい最近って感じもしないですけれど……」

「ま、ざっと一年ってところかね」


 軽く流したけれど、一年ってまあまあ長い時間だと思うけれどな……。


「一年って言いましたが……、一年もああいう連中から狙われていたんですか? それで良く探偵の仕事が成り立っていますね」

「吸血鬼の力というのは、完璧に失われた訳ではないからね。生命力だってその一つなのだけれど……、ただ少年に殺された瞬間、一瞬こちらを見られてしまったんだ。吸血鬼には、存在を隠し続ける力を持ち合わせているからね。何と言えば良いのかな、石ころ帽子みたいな?」


 何でいきなり秘密道具が出てきたのか分からないし、言いたいことは案外分かるから的は射ているのだけれど――しかし、吸血鬼の力は完全に失われていない、という言葉が引っかかる。


「要するに、探偵という仕事をするのは、吸血鬼の力を取り戻すため……ってことですか?」

「冴えているな、少年。その通りだよ、ヴァンパイアポイント、略してVPを一ポイント進呈しよう」


 何ですか、そのローカル単位は。

 

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