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よふかし同盟  作者: 巫 夏希
第一章 同盟結成
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初めての失敗。

「……いや、え?」


 再度踵を返し、僕は状況を確認した。

 そこに立っていたのは、女性だった。

 さっき死んだことを確認したはずなのに、何故かゆっくりと立ち上がっていた。


「あーあ、せっかく買った服が汚れちまったよ。どうしてくれるんだ、全く」

「いや……その、何で……?」


 漸く絞り出した言葉は、しどろもどろで、はっきり言って情けないものだった。

 もう少しまともに発言出来れば良かったのだけれど、しかし簡単に出来る訳もない。

 そもそも、あのツボを突けば――人は死ぬはずだったのではないか――。


「いや、ちょっときついなって気持ちはあったけれどね。もしかして、今突いたのって人間における急所だったりするのかな? だとしたら、間違っていないよ、君の考えはね」

「……間違っていない? いや、どういうことだ――」

「――誰から聞いたか知らないけれど、急所を突くやり方は間違っていないよ。どうやって教わった? まさか、急所を見ることが出来るなんて、そんなチートなやり方があるなんて言い出さないだろうね?」


 しかし、饒舌な女性だ。

 僕は何も話していないのに、どんどん相手が情報を出してくる。

 それぐらい僕に余裕がなかったのかもしれないけれど。

 とにかく今は――どうやって逃げるべきか、そんなことばかり考えていた。


「……逃げようと思ったって、きっと無駄だと思うけれど? 恐らく、マグレじゃないか――或いは、もう一度急所を突けば死ぬんじゃないか、なんて思っているかもしれないけれど、それは不正解。何故なら、私は……絶対に死なないからね」

「絶対に死なない?」


 おい、そんなことって有り得るのか。

 人間は絶対に寿命という概念があるはずだ。そして、外傷などでその寿命を削ることだって十二分に有り得る訳だ。

 しかし、どんな人間だって頑張っても百二十年が寿命の限度だって言われている。

 ま、これは実験した訳ではなくて、実際に生きている人間の寿命から判断しただけに過ぎないのだけれどね。


「……逃げないでとどまろうとするのは、悪いことではないと思うけれどね。場合によっては手詰まりだとも認識してしまうかもね?」


 女性はポケットから煙草とライターを取り出して、火をつけた。

 百円ライターとかじゃなくて、銀の箱のライターだ。

 確か、結構高いライターだったと思うけれど。

 ふう、と息を吐くと白い煙が女性の上に浮かび上がった。


「……やっぱり煙草は旨いねえ。あ、未成年だっけ? だったら悪いことしちゃったな。未成年の傍に居ると受動喫煙になっちゃうし、今はその法律だって厳しくなっているんだよね。だから、あんまり堂々と吸える場所が少なくなってきているし……。肩身が狭いよ、全く」


 肩身が狭いとは言うけれど、年々喫煙者がそう思うのは致し方ないんじゃないかな……。だって、健康に悪いことは事実だし。

 でもきちんと受動喫煙になってしまうことを懸念しているのなら、別に悪い人でもないのかも?

 ……いや、そもそもの話、この人は人間なのか?

 急所を突いても、死ななかったんだぞ。それに、自分自身死なないと明言している。百獣の王よりも信憑性が薄い。薄いというか、ゼロだ。完全にゼロ。ゼロと言い切って良いのか分からないけれど、少なくともあまり考えない方が良いな。


「……何を一人で自己解決しちゃっている訳? 少しはお姉さんの話を聞いてくれやしないものかねえ」


 少なくとも、きちんと話は聞いていると思う。思うが――しかし不安と疑問しか残っていない。それが解消されるのは、そう簡単ではないし、きっと世界一深いマリアナ海溝を潜ること以上に難しい。

 ――変な話が出てしまったのは、きっと僕の不安度がマックスになっているからだ。そうに違いない。


「聞いたことはないかな。……ある種族は寿命を格段に引き延ばすことが出来る、って」


 聞いたことがない。

 そもそも、そんな話はおとぎ話の領域じゃないのか。

 少なくとも――この世界に居る種族で一番の長寿は人間のはずだ。


「人間は百年、せいぜい生きてそんなもんだと思う。けれどね、そんな寿命の限界を遙かに凌駕する存在が居る訳。かつては中世の古城に住んでいるイメージもあったらしいけれど、今では普通に人間社会に溶け込んでいるんだよね。思っている以上に制約だってないし。十字架を見たら消滅する訳でもないし、ニンニクが嫌いな訳でもない。出来れば経験したくないけれどね」


 十字架、ニンニク――そして不死の存在。

 そこから導き出される一つの結論は――思ったよりもあっさりだった。


「……もしかして、吸血鬼?」

「おや、流石に吸血鬼は知っているか。勉強熱心で良かった。……でも、吸血鬼を直ぐに理解出来るのもそれはそれでどうかと思うけれどね?」


 いや、そういう問題ではないと思う。

 そもそも、吸血鬼って夜にしか出現しないし……あ、今は夜か。

 ということは、人間の血液を欲していると――いうことなのか?


「吸血鬼だから血を吸いに来たんじゃ、なんて思っているだろうけれど、それについては否定しておくよ。誰でも吸血鬼は血液を吸いたい訳じゃない。今じゃインターネットで血液パックは売っているからそれを購入すれば良い訳だし。……第一、リスクが高すぎる。そりゃあ、人間から吸ったばかりの血液は最高に旨い代物だ。世界三大珍味にも並ぶだろうね、これは絶対に理解出来ないだろうが。……しかし、だからこそそのリスクを負いたくないという訳にも繋がる。何故だか分かるかな?」

「そりゃあまあ、傷害事件に発展するからじゃないですか」


 殺人を日々犯している人間にそれを言わせるのか、なんて思ったけれどこのお姉さんはそれを知らないのだし、それについてはあまり言わないでおこう。

 

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