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かけがえのない家族の風景  作者: 逢坂 透
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エピソード2 かわりばんこに

じいじいが旅立った日は、

空が何処までも澄んで、陽射しが眩し過ぎるほどに感じる秋の日だった。


末期の癌と診断を受けての闘病生活。

病院では、いつも通りの笑顔のじいじいで、

子どもたちに会えるのを楽しみに待っていてくれた。


その日の朝は、じいじいに見てもらうための七五三の写真を撮っていた。

娘の白いドレス姿をみたいというリクエストだったのに、ピンクのドレスしかなくて。

写真嫌いの娘のいい表情を撮るのに四苦八苦して。


写真館をでて病院に向かっていると、時間がないかもしれないという電話。


苦しそうな息だったけれど、待っていてくれたじいじいに写真館の様子をビデオで観てもらった。

途中から画面を見続けられず、音を聴いて子どもたちの声に微笑んでいたじいじい。


病院の窓の下には隣の大学のキャンパスの紅葉が見えていた。

晩秋の太陽が傾いて、黄金色に風景が染まっていく。


世界がどうしてこんなに美しく見えるのだろうという、そんな夕方のお別れだった。


※ ※ ※


次の日、東横線で川崎のおうちに向かっていた時、


「夜、体から出ていって、朝戻ってくるものって何だった?」


次男が、突拍子もない質問をした。


まさかと思って「たましい?」と応えると、「そうそう、それ」と。


「眠っている間は、体から出て、夢の世界にいっているから、いろんな夢を見るんだよね」


と長男。

二人とも、何処でそんなことを聞いたのだろう。


「でも、どうやって体に戻るのかな?」


「体から出ても、つながっていて、朝起きる瞬間に体のところにすっと帰るらしいよ。

でも、じいじいのたましいは、体が動かなくなったから、戻れなくなってしまったんだ」


「そうしたら、じいじいのたましいはどこにいくの?」


「神様のところへ行くよ。天国でもいろいろお勉強したり、お仕事もあるからね。

そしてまた、赤ちゃんになって戻ってくる」


「また、じいじいに生まれるの?」


「そうじゃなくて、今度は逆になるように生まれてくることが多いよ。

今度は、赤ちゃんのじいじいを見てあげるんだ」


「そうだよね。お世話になったから、今度はお世話をするんだよね。

かわりばんこだね。」


「そう、でもその時は、前のことはお互いにすっかり忘れているんだ」


そんな話に、とても納得していた長男。


じいじいもお棺に入れるお手紙には、


“とても、お世話になりました”


という一筆。


いつもニコニコだったじいじいのこと


子どもたちは、ずっと覚えている。

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