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ロスト・エイジ  作者: 今雨 聡思
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始まり

ぼちぼち更新でいきたいと思います。

 時々壁面に現れる白く輝く鉱物が暮れる明かり以外一切の光がない洞窟を私はたった一人で歩いていた。その空間は言葉では言い尽くせないほど幻想的でこの世のものではないように思われた。実際、この場所はこの世ではないという仮説をいう人もいて、その数は決して少なくない。 


 突然、そんな幻想的な世界に似合わないモーターが回るような音が前方から聞こえる。ウィィィンという音は壁に反響して獣の唸り声のようで、聞き慣れた音とはいえいつも恐ろしく感じる。


 数は一機のみ。音からして敵はおそらくバイソンである。ならば…


 私は腰にさしてある短剣を鞘から引き抜き油断なく構える。洞窟の鉱物の明かりを受けその刀身の空色が美しく輝く。今いる道は前も後ろも先が見えない真っ直ぐな一本道。バイソンは急に曲がることが出来ないという弱点を抱える代わりに恐ろしいほどのスピードが出るため逃げるという選択肢はない。


 私が構えたと同時に遠くにほのかな赤い光が見える。その血のような光が瞬く間に近づき、今ではその全容がぼんやりと闇に浮かぶ。


 高速で回転する車輪がついた四本の脚の上に巨大な胴体、紅に染まった二つの瞳。そして頭部には鋭い二本の角。当たれば私の体はいとも簡単に砕かれるだろう。そしてその体躯はこの一本道の天井に届くかというほどの大きさ。 


 逃げられない。避けられない。誰にでもわかるほどの絶体絶命。だからこそ…心が躍る!


 バイソンの姿がはっきりと視認できたのと同時に私は地面を思いっきり蹴って走り出す。

 一瞬でその距離は縮まる。紅の瞳と私の目が交錯する。バイソンの角と私な体が接触する直前、

 ()()()()()()()

 空色の光が空間を切り裂く。私の背後に残ったのは頭部を失ったガラクタと紅の光を失ったうつろな瞳をもったバイソンの頭だけだった。




 フェルムンティア王国は数多の戦争に勝ち続け大陸一の座を獲得した国家だが、大陸一謎が多い国でもある。

 フェルムンティア王国が建国された年を1年とし、1年間を400日で数えるマリトゥス暦の1~500年の間に起きた事柄について記されたものがほとんどないのである。その空白の500年は巷では“ロストエイジ”と呼ばれている。

 唯一、その失われた時代を解き明かすカギとなるのがフェルムンティア王国の各地に存在している遺跡というものだ。遺跡からは王国を勝利へと導いた数々の兵器の原動力となった白雷石という白い輝きを放つ鉱物が採れ、その存在は王国が保管する最も古い文献にも確認され唯一現代に残っているロストエイジの遺物であると考えられている。

 大陸の戦争が終結したマリトゥス暦1202年にその時の国王が本格的に遺跡の調査に乗り出すことを発表した。それと同時に生まれたのが考古探索者という職業と、フェルムンティア王国の王都アルナにあるアルナ考古探索者育成学校である。

 育成学校には半年につき15人の選ばれた者のみが入学でき、卒業できるのは学校全体で10人のみ。在学期間は5年までという制限もある。その割には年齢制限などは特にないため、非常に狭き門である。

 しかし、その門をくぐろうとするものは後を絶たない。なぜなら、この学校を卒業することのみが考古探索者になるための唯一の方法であり、考古探索者になれば一生安泰どころか一獲千金まで狙えるという夢のような職業だ。

 そして現在、マリトゥス暦1520年、第12の月の最終日。育成学校の卒業生を決める選定の試験、その最終工程である考古探索者候補生同士による模擬戦闘試験が行われようとしていた。



 選定の試験、その最後を飾る考古探索者候補生同士の模擬戦闘試験。その試験に参加する候補生は一人につき一つ控室が与えられていた。そんな控室のうちの一つで私、フローラ・ウェルタリアは深呼吸を繰り返していた。

 この戦いに勝つことが出来ればおそらく首席卒業できるだろう。しかし、相手は天才と名高いレオン・アルバートだ。油断なんて一切できないし負ける可能性だって十分ある。ただ、自分の全力を出すだけだ。


「フローラ・ウェルタリア候補生、入場してください」


 やがて、総試験監督の先生の声が聞こえる。

 努力はした。あとは勝つだけ。私は、自信をもって戦いの場であるコロッセオへと足を踏み出した。




 コロッセオはその名の通りの円形闘技場であり、そこに備え付けられた大量の客席も今日ばかりはそのほとんどが埋まっていた。考古探索者候補生同士の模擬戦闘試験の最終日に出場できる生徒は未来を約束されたエリートといっても過言ではない。ある者は戦い方を参考にし、ある者は自分の仲間として卒業後に引き抜こうととその才能を見定めている。

 そんな中、行われる最終戦を飾るのは生徒でありながらその強さはベテランをも上回ると言われるレオン・アルバート。そして、そのレオンを相手取るのがあのウェルタリア家の鬼才フローラ・ウェルタリアだ。おそらく考古探索者を志すものでウェルタリアという名前を知らない者はいないだろう。


「皆様お待たせいたしました。今期の考古探索者候補生同士による模擬戦闘試験の最終戦、レオン・アルバート候補生とフローラ・ウェルタリア候補生による模擬戦闘が開始されます」


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