第三話 進展無し
勢いで何てもの書いてしまったんだ…
_(:3」z)_<もうやだ
2人が逃げ込んだのは、木々の生い茂った深い森でした。湿気は高く薄暗いという居住性の低い森でした。
「いきなりすぎてまだ頭が追いついてないけど、これから2人でサバイバル生活ですよね?」
「そうだね。帰れるものなら早く日本に帰りたいけど、今は目先の状況をどうにかしなきゃ」
持ち物のなかに食料や水なんて入ってるわけではないので、このまま食料が手に入らなかったら詰みなのである。
「ひとまず現状把握ですね。よくわからんスキルとかも試さなければいけません。反物質の方はよくわかったんですけど」
「反物質って物質と触れると対消滅を起こして爆発というか、質量全部をエネルギーに変えちゃうんでしょ?」
「その認識でオッケーです。反物質は反粒子と呼ばれるもので構成される物質のことで、反粒子が対応した粒子と触れることで対消滅を起こして、ガンマ線などになります。エネルギー変換効率は驚異の100%で、きちんと操っておかなきゃ即座に自爆します」
「私のスキルは単純明快。不都合って何なのよ…」
「大丈夫ですよ。そんなスキルーー
「でも、私が義久の自由を奪ってるのよ!私がいなければ、王子様についてって安全に過ごせただろうし、今でも不都合なんて気にせずにいけるでしょ!?このスキルは最悪なのよ!」
「・・・」
「だから私を置いていって。そしたら義久は楽になるでしょ!」
月美の我慢していた気持ちが爆発して、全てを打ち明けた。スキルというおかしな能力が現実になって、自分の潜在的な恐ろしさを自覚したのだ。
スキルのせいで"運が絡む全ての事象"に悪運がはたらくのだ。シュレンディンガーの猫も確実に死ぬのだ。
「大丈夫です。じゃあ仮に僕を殺して肉を食べる事ができますか?」
「そ、そんなの、できるわけないよ」
「それと一緒です。運が絡む全ての事象?そんなの確率を全て排除すれば良いだけです。実際の事象が改変する事はありません」
「でも、運って結構作用するものじゃないの?」
「運とは確率によって作用するものです。生物の行動アルゴリズム選択など、人間の行動が変化したり、原子の崩壊などが挙げられると思いますが、その程度です」
「つまりどういう事?」
「王子様が殺意を持ったのも、今から手に取ったリンゴが寄生虫に侵されていても、全部運です」
実は王子がとち狂った行動に出ようとしたのも月美のスキルの影響なのである。
「絶対ダメじゃん!」
「でも、王子からは逃げ切れましたし、リンゴは切ったり焼いたりすればいいんです」
「でもダメじゃん!」
義久は説明が苦手なのである。絶望的に。義久が思う通りに話は進まず停滞してしまう。
「もう。私を納得させられる理由はないの?」
「僕のスキルと僕らの知恵を使えば対処可能です。しかも、裏を取れば最強のスキルなんですよ」
「え?どうして?」
「スキルには"死なない程度"と記されていました。つまり、不都合になるけど死なない、という事なのです」
「よくわからないよ」
あっちこっちする義久の説明に、理解に苦闘する月美。完全に月美はさっきまでの考えは忘れていた。
「とにかく!」
「貴女がいれば僕は死なないし、僕がいれば不幸から貴女を守る事ができるんです!だから絶対に僕は貴女を見放したりしません!愛してるんですから!!」
「うん。わかったよ。なんとなくだけどそうゆうことにしといてあげる」
「そういうことって…」
「そ、れ、に!義久って料理とか洗濯ってできないから、私が面倒見てあげなきゃね!」
「・・・そうですね。そういえばそうでした」
一応丸く収まったようである。
しばらく会話が途切れた状態で歩き進んでいたが、沈黙に耐えかねた義久が勇気を出して口を開く。
「ひとまず川など見つけるために歩きましょう」
「王子を脅しておけばよかったのにな〜」
「そうですね。惜しいことをしました」
「ねぇ。実際のところ、ここってどこなのかな?」
「そうですね。ともかく王子の言ってた王国ってところから、ここが地球だとした場合非常に絞れます。
中東やアフリカ地域は王国が多いですが気候的に排除です。ここの気候は常温多湿ですからアジアやヨーロッパ州の王国である事は確実です。そして、王子が金髪だった事を考えると、ここはヨーロッパ圏になります」
気温は体感で20度弱。多少は蒸し暑いが、深い森で日差しが遮られ、冷えた空気が流れてくるため
「だったらすごい絞れたね!アルデンヌの森とかかな?」
「だったら道路も張り巡らされてるので、一直線に歩けば助かるはずです。ただ…」
「ただ?」
「この世界が地球ではなく、異世界だった場合は絶望的です」
「そうだね。神器とかあんなの地球の技術じゃできないものね」
「王子の持ってた剣は軍刀などではなく、実用性の高い剣です。銃が普及せず、剣が主兵装となっているのであれば、相当文明は低いとみるべきです」
「そういえば10人の魔術師が死んだとか騒いでたよね。魔法でもあるのかな?」
「僕たちがここに来たのもあの魔法陣が原因でしょうし、そうでしょうね」
自分たちのせいで10人死んでいる事実を、ものともしない図太い2人である。
「ひとまずこの世界に文明がある事がわかっただけでも万々歳です。遠くないはずなので、今は信じて進みましょう」
「そうね。夜になるまでには抜けたいところだけど、ただの森じゃなくて巨大な森林とかになると、簡単に抜けられないからね」
さまよっている森は人間が手入れをした形跡はなく、地面は荒れて障害物が多いため踏破には厳しく、方向感覚が狂う可能性があるため、危険性は非常に高いようです。
〜〜〜〜〜3時間後
「川だ…。川を見つけましたよ!」
「おお!ようやく真水と食料にありつける!早く魚とろうよ!喉も乾いたし、森なら水もおいしいのかな」
「待ってください!!」
「え?」
川の水を飲もうと川に近づいた月美を、ものすごい形相の義久が止めた。
「その水は硬水かもしれません!日本の水道水のほとんどが軟水だから、もしも僕たちが硬水を飲んでしまったらお腹を壊します!」
「えっ!危なかった〜。ならどうやって見分ければいいの?」
「煮沸すれば簡単に分かります。もし硬水だったら沈殿物が出てきますので、その場合は蒸留ですね」
「でも、どうやって煮沸をするの?容器がないから難しいんじゃない?」
「・・・・・・・・・」
「ダメじゃん!!」
さっきの義久と同じくらいの大きさで叫ぶ月美。
「あ!」
再び大きな声を上げる月美。
「ポケットのなかに、コンビニでシャーペン替え芯を買った時についてきたビニール袋があるよ!」
「ナイスです!早速煮沸を…、あっ…」
僥倖に歓声を上げていた2人ですが、ここで肝心な事に気づきます。火がないのです。煮沸するために必要な火がないのです。
「どうしましょう。木でも回して火を作りましょうか」
「反物質でなんとかならないの?」
「反物質と言ったって……、あ、できます」
「できるんだ……」
反物質を反応させた後、発生するエネルギーを全て熱にすれば、水温を上げる事が可能である。
これは非常に力押しに近いため、とても慎重になる必要がある。
「それじゃあ水汲んどくね。たくさん入れた方がいいかな?」
「はい。お願いします。熱はこの木の枝を差して伝えていこうかと思います」
水を入れたビニール袋を木で吊るして、水の中に先端を燃やした木の枝をぶっ差して、ちょっとずつ温めていく作戦だ。
「まずは火元をつくります。何か乾燥した有機物はありますか?」
「木のパリパリした木皮はどう?あれなら簡単に取れるよ」
火の燃料となるために、即応性が高く乾燥した有機物は限られてくる。その中で選択した木皮は、手頃な石で削り取り、理想的な燃料として集まった。
後は慎重に火を与えればいいのだ。
「よし。いくぞ…!」
スキル反物質で、反物質を集めた木皮の中に生成する。ナノ単位の質量で生み出さなければ燃料が気化してしまう。
木皮の山から微かに煙が上がり、瞬く間に火が広がっていった。
「やった!成功だ!」
「やったね!これで水が飲めるかどうかわかるんだね!」
「はい!これで水を温めればいいです」
〜〜〜〜〜2時間後
延々と効率の悪い温め方で、ビニール袋の中の水を温めること2時間超。ようやく触れないほどの水温に達した。
「アッツ!!」
「60°Cくらいはありそうね。白い沈殿は出てきてないし、これは軟水でいいんじゃない?」
ビニール袋に白い沈殿は見られず、川の水が軟水であることを示していた。
「それじゃあ、川の水飲んでいい?」
「ええ、いいですよ!寄生虫とかに気をつけて、手ですくって飲んでくださいね」
「はーい」
月美が水を手ですくって飲み干す。冷涼で濁り一つなく、透き通った綺麗な水だった。それに続いて義久も水を飲む。
「んー!おいしー!川の水がこんなに美味しく感じるなんて初めてだよ!」
「あー。生き返った〜」
「そろそろ出発する?」
「そうですね。出来るだけ早くこの森は出たいですし。魚が取れなかったのが残念ですけど」
「それじゃあ行こっか!で、どっちに進むの?」
「川に沿って下流に向かいましょう」
「わかった。それじゃあ出発!」
川の下流に向かって2人は歩き始めた。下流に向かう理由は、大きな川と合流できる可能性がある。また、海に出る可能性があるからである。
海や大河川の周辺は人間にとって住みやすい環境となるため、人に会えるかもしれないからだ。
反物質の対消滅反応で馴染み深いのは、
ダン・ブラウン氏著の「天使と悪魔」
新世紀エヴァンゲリオンにおいて、
ヤシマ作戦で使用されたポジトロンスナイパーライフル
などでしょう