第二話 逃げるが勝ち
2人が意識を覚醒された時周りは教室なんかではなく、屋外のようでした。しかも自然しかありません。
なお、2人は制服のままです。
「ここは…どこだ?・・・月美さん!大丈夫ですか!?」
「う、うん。義久、ねぇ私たちどうなるのかな…」
「・・・大丈夫です。僕が守りますから」
「もう…。たまーにそういうこと言うんだから。・・・・・・ありがと」
「・・・・・・。ここってどこでしょうね。ひとまず状況を整理しましょう」
2人は、周囲を森に囲まれた石造りの遺跡のような場所の、祭壇と思わしき場所に転がっている。遺跡は全体的に風化していて、人の気配など全くない。と、思われたのだが。
「君たちが日本から来た勇者だね。歓迎するよ。私の名はカザフ・タジ・トルクメニス。王子だ」
スタンスタンしてる名前の20歳前半に見える、金髪イケメン王子が登場しました。
「どうも、反田義久と…」
「天木月美です」
「ふむ。義久と月美だな。これからよろしく頼む。いきなりで混乱しているだろうけど、ひとまずこの水晶に手をかざしてみてくれないかな」
カザフ王子は地球儀くらいの大きさの透明な水晶を持ってきた。
「では、僕からいきましょう。・・・・・・こうでいいですか?」
「ああ、そのままで少し待ってもらえるか」
しばらくすると水晶が薄く輝いて、ホログラムのよ
うに、かざした手の甲の上から字が現れた。
(以下水晶が出した字の情報)
<反物質>
物質を反物質にする。また、反物質を操る事ができる。反物質から変換されたエネルギーなども自由に操作できる。
「な!何だこれは!網膜に直接投影されているわけではなく、媒体もない空間に情報を出現させるなんて!しかも反物質を操る……ッ」
「驚いたかい?これは君たちのように異世界から人が得た特別なスキルを映し出す特別な神器なんだ」
「?・・・・・・ッ!!?」
王子の目から光が消え、瞬きをしなくなり凝視するような目つきに変わった。そして、義久はそれに気付いたのだ。義久は超常現象そっちのけで恐怖を覚えた。
「次は月美さん。お願いします」
「わかりました」
「月美さん。警戒しといてください」
「了解」
義久が小声で月美に警戒を促す。バレないように月美も相槌をうつ。
(以下水晶が出した字の情報)
<不都合>
運が関わる事象が全て、死なない程度に不都合な事象になってしまう。
「危ない!!」
いきなり義久は月美の手を引っ張った。
その後すぐに、月美が元いた場所に王子が剣を振り下ろした。
「いきなり何をするんですか!?」
「そうよ!私たちは何もしてないじゃない!」
すかさず2人は王子から距離をとって、王子を問い詰める。
「何もしてない?お前らの存在自体が罪なんだよ。お前たちを召喚するために優秀な魔術師10人が死んだんだ。お前たちも多少の糧にはなるなら、死ぬ魔術師が1人は減るだろう」
さらっと語られた衝撃の真実。2人は王子によって人為的に召喚されたもので、それに際して人が死んでいたのだ。
何もしなければ殺されてしまう状況で、義久はあるものを見つけた。
「(あれは僕の鞄だ!召喚の時に一緒に付いてきたのか。でもあの中には何があったかな…?入学用書類に筆記用具、気に入った小説と…、有り金全部注ぎ込んだ電子辞書と電子書籍!!)」
実は召喚の際に無意識のうちに義久の手に触れていた彼の鞄が召喚に紛れ込んでいたのだ。
「待ってください!僕たちは貴方に協力する事ができます!地球の技術や学問を提供できます!」
「ほう。なら義久だけ生かしてやろう」
「「えっ?」」
「確かに日本の卓越した技術は魅力的だが2人もいらんだろう。下手に日本の技術を取り入れると平民どもが賢くなる危険もあるしな。不都合とかいう面倒なスキルを持つ女よりは義久の方がまだましだ」
王子の狂気を垣間見た2人は恐れ慄いた。希望がなくなった義久は逃亡を試みようとする。
「逃げましょう月美!話になりません!」
「で、でも私が死ねば、義久は安全でしょ…。だって私不都合なんていうのもあるんだよ」
「そんな事ありません!僕は貴女を見捨てるなんてできませんよ!」
「義久…」
絶望ムードもピンク色に変えるバカップルの鏡である。
「茶番は終わりか?」
「はい。ところで、反物質って知ってますか?僕はそれを操る事ができるんですよ?」
「それがどうした?そんな物質が何になるのだ」
「えっ!?」
先ほどの義久の発言で月美がとてつもなく驚いた。
「ん?どうしましたか月美さん」
「いや、義久って反物質を操れるの?」
「あの水晶が本当のこと言ってるなら、僕はそんなスキルを持ってますよ」
「なら私が死を覚悟した意味がないじゃん。私の悲愴な決意を返してよ!」
どうやら月美は義久のスキルを知らなかった模様。知った途端に余裕を取り戻した。反物質とは簡単に言えば爆発物である。世界最強の。
「また2人で何をふざけ合っている。で、女は死ぬのか?」
「いいえ。僕らは逃げさせてもらいますよ」
「ふっ。無駄だぞ。この遺跡の周りは王国兵が包囲しているんだ」
「非常識な猿に一つ教えてあげましょう」
「なに?」
「反物質とはーー
王子を猿呼ばわりした義久は反物質を説明するために、屈んで石ころを拾った。
「これくらいの重さで、都市一つ瓦礫にするくらいは余裕なんですよ」
「そんな戯言を誰が信じるというのだ」
「なら王子の地下100mで反物質2gを生成しますよ」
「え!ガンマ線とか大丈夫!?」
「実は既に実験は済んでますので大丈夫ですよ」
「い、いつの間に……。ああ!!あれの事だね!」
月美があれと言ったのは、王子の遥か向こう側で無数に上がっている光のことだった。光は一直線状に天に向かったり、斜めにとんでいるものもある。
あれは、スキルが反物質というのをみた瞬間から義久が、遥か遠くで対消滅のエネルギーの方向を指定した状態で反物質を生成していたのだ。
「じゃあいきますよ。はいっ」
義久が宣言した瞬間地面が揺れ始めた。震度にして6度強の強力な揺れに耐えられず全員が倒れ込んでしまう。
そして、大きな地割れが起こり遺跡が倒壊した。
「すっごーい!!すごいよ義久!もうこれ世界最強だよ!」
「そうですね!!すごいぞー!僕は最強だー!ハハハハハ!」
「なっ、何が起きた!」
「あばよ腰抜け王子!僕らはカップル水入らずでこの事態を把握させてもらうぞ!それと、これは僕の力の一端に過ぎない。そちらが敵対したらお前の国は無いものと思え」
「行こう!義久!そろそろ腰抜けたちが起き上がっちゃう!」
「そうですね。ではグッバイフォーエバー!」
2人は、きちんと鞄を回収して、遺跡の周りの森に逃げ込んだ。
荒いのは許してください。