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The First Avenger

 吹っ飛んだ先で、譲治の頸動脈はまだ流血を続ける。

 僧侶クラスとして基本である回復術式を展開するも、実害に対しての回復が追い付かない。


「使うしかねぇわな……予定よりずっと早いが、大した問題じゃない」


 取り出したるは例のコイン。

 コイントス以外に、まだできることはあるのだ。


「さぁ十分眠ったろ。────()()()


 プロテクターのをいじり、胸の部分にコイン1枚分が収まるほどの丸いくぼみが現れる。

 そこへコインを入れると、プロテクターは吸収するようにそれを内包した。


 そこからだった────。


 無機質なプロテクターがなにかに目覚めたかのように『脈動』を始める。



 一方、真理亜たちは陣形を組んで、譲治が吹っ飛んだであろう先を睨みつけている。

 周囲からの敵影はなし、だが真理亜からしたら無数の目に見られているような気分だ。


 特に視線の先からの重圧はすごい。

 これまで数々の強敵をほふってきた真理亜であったが、これほどまでに逃げ出したいという気持ちになったのは初めてだ。


 目覚めさせてはならない怪物を叩き起こしてしまったように生きた心地がしない。

 

「ん、今人影が……」


「こっちへ飛んでくるぞ!!」


 ジェット機能独特の轟音を上げながら、それは飛翔してくる。

 真理亜たちにかなり接近したところで、一気に急上昇してから地面へと舞い降りてきたそれはまさしく譲治なのだが、様子が変だ。


「譲治、────はっ!?」


 真理亜や近くにいた副将は思わず息を吞む。

 呼吸の乱れが著しい中、真理亜に斬られた首の部分から『妙な管のような生き物らしきもの』がビチビチとその身を跳ねながら傷を縫合していたのだ。


「残念、首を刎ねてりゃワンチャンあったかもな……」


 うずくまったままの軽口は、どこか重々しい雰囲気がある。

  

「ジョージ、それは……一体……」

 

 さらには彼が身に着けているプロテクターの様子にも気がついた。

 まるでひとつの生命体だ。


「ま、俺を殺してもさほど意味はないんだなこれが」


 譲治が顔を上げると、そこにはあるべきふたつの眼球が消失し、どこまでも続く暗黒と滴り落ちる涙のような血が顔を流れていた。


「たとえ俺を殺したとしても、俺の死は現実に残る。それは記憶となり、記録となり、言葉となる。形なきクライング・フェイスとして血を巡り、お前らの中で次の時代へと生き続ける!!」


 グチュグチュと音を立てながら眼球が再生するも、それは最早人間のそれではない。

 ひとつの真っ赤な眼球の中に無数の瞳、重瞳(ちょうどう)と言われるものだ。


 誰もが恐れ戦く中、真理亜は皆を守るように前へ出て構える。


(どういうことだ。彼のステータスやレベルは変わっていない。なのに、この押しつぶされそうな邪悪な雰囲気は……ッ!)


 睨みつけながら考えている内に、譲治の肉体はさらなる変化を見せる。


「ぬぅぅぅおおおおおおおッ!!」


 右腕は弾け飛び、巨大な機械仕掛けの悪魔の翼が。

 それと対をなすように左肩甲骨あたりからは、3枚1対の腐敗した天使の片翼。


 欠けた左足を突き破るようにして無数の触手がうねり出てくる。

 機械とも生物ともとれないそれは不気味な動きと軋むような音を立てて、見る者に悪寒を与えた。


 そして最後の仕上げと言わんばかりに、譲治の額からはドリル状の角が生える。

 完全なる異形の存在と化した譲治に、大勢の兵士たちが発狂した。


 人がしてはいけない姿の中に、どこか形容できない美しさがそこにあった。

 魅了に近いそれは、精神的に弱い人間をその場で狂わせていっている。


 ────復讐そして憎悪の持つ甘美、その具現とも言える姿に。


「そういうことか……今までそれは多機能プロテクターだと思ってたけど、違ったんだね。道理でデザインとか変わってたはずだよ」


「ゆ、勇者殿?」


「……なにかを媒体にして創造物を召喚する。ゴーレムや、さっきの聖霊兵と同じだ。……ジョージ、君はこれまでつけていたプロテクターを媒体に、『別の生命体』を作り上げていたんだね!」


「ご名答。【魔女の叡智】でちょいちょいだ。このクイズは簡単すぎたか?」


 譲治はプロテクターをひとつの生命体として創造した。

 普段は文字通り身にまとうものとして、しかし、いざというときコインの中にある魔女の力をスイッチに目覚める仕掛けにしておいたのだ。


 譲治は今この生命体を自身に【寄生】させている状態だ。

 脈動するプロテクターの姿をしたなにかは、譲治の内部に侵食し一体となっている。


「ホントはもっとあとからお披露目をしてやるつもりだったが……ちょいと予定が早まった」


 触手を器用に地面に打ち立て、譲治は高い位置まで反り立つようにして真理亜たちを見下ろす。

 そして角の先端に凄まじい炎の渦を溜め込んでいった。


「ふ、副将殿! 勇者殿! 奴の角の先端から凄まじいほどの高エネルギー反応確認! 退避をッ!」


 部下の魔術師が叫ぶ。

 それにハッとなった副将と真理亜が指示を出そうとしたときだった。


「────怒り狂え(クトゥグア)


 呪文のようにひと言。

 たったそれだけで、角から圧縮された炎の光線が飛び出す。


 ほんの一瞬の出来事のように感じるそれは、死を感じさせるには十分過ぎるほどの長さだった。

 

 地面を抉り、建物を砕き、遥か遠くにある山脈に当たったかと思えば大爆発を起こして、山の形状そのものを変えてしまった。


 逃げ遅れた兵士たちは塵と消えたか、炭化してわずかに人型をとどめたまま死んだか。


 運よく回避できた真理亜はそれを見て息を吞んだ。

 死の聖母が自身の死を深く恐れた。


 ダニーやクラン、蘭法院綾香、そしてミスター・ファイアヴォルケイノとの戦闘がまるで霞んでしまいそうなほどに。


悪夢よるはまだ長いぞ。クライング・フェイスの復讐、とことんまで味わわせてやる」


「ジョージッ! クソッ! もう、どうして……どうしてッ! クソッ!」


 真理亜は立ち上がる。

 本当の意味で、これが最終決戦だ。


「俺はこの世から、幸せを『駆除』する。言葉、思想、概念に至るまですべてだ」



残り5話前後を予定しております。

最後までどうぞよろしくお願いいたします。

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[良い点] リベンジじゃなくて本当にアベンジなのかどうか
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