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長い道のりの先に『彼』はいた

 回復薬である程度回復した真理亜。

 強敵はこれ以上勘弁願いたいと淡い祈りを抱きつつ、彼女はある場所でついに【彼】と再会する。


「ジョージ……」


「待ってたよ。数を揃えてみたんだ……好きなの読んでいいぞ」


 うすら高く積み上げられた瓦礫の上で、周囲の明るさを頼りに、譲治は積み重なった本の隣に座り込んで本を読んでいた。

 中学校時代の図書室でも見たことのある表紙だ。


 ────アガサ・クリスティー著、『オリエント急行の殺人』。


「戦闘中に読書とは感心しないな」


「そうだなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()


 真理亜の拳銃が譲治の額に向けられていた。

 それを見下ろすように視線を向けるも、本はけして閉じない。


「ダニーは殺した。クランも蘭法院さんも、そして頼みの綱だろうミスター・ファイアヴォルケイノも皆ボクが殺した! 君を守る者は今誰もいない」


「そうらしい。超絶ピンチだな」


 のらりくらりとした口調に真理亜の中で緊張感が走る。

 現に譲治もなにもしていないわけではない。


 本のページに挟むように『例のコイン』をいつでも親指で弾けるよう準備していたのだから。

 

 真理亜がなにもできないのは、彼がなにかの策をろうしているだろうと踏んでいるからだ。

 本を閉じないのには意味があると、もしかしたら本で隠れている部分になにかあるのかもしれないと。


 ただ、それがコインであるかどうかまでは見抜けない。

 コインの存在すら知らないのだから。


「ジョージ、ボクは何度でも言うよ。もうこんなことやめてよ。悪だとか復讐だとか……もう、そんな君を見たくないんだ。周りを見てみなよ! 君の復讐で皆死んだ! あの5人だけじゃない。この国の人たちも皆だ! これ以上の破壊は無意味だ!」


「まだだ、まだ『メインディッシュ』が残ってる。午前3時まであと15分くらい……。最高のイベントを用意してるってのに、シラけるようなこと言うんじゃあねぇよマリアちゃんよぉ」


「……そのイベントとやらがなにかは知らないけど、きっとろくでもないことだってのはわかるよ。でもね、やっぱりボクは君を止めなきゃいけない。君を助けたいんだ! なぜなら君は、君は、こんな悪事に手を染めていい人間じゃあないからだ!」


「まるで俺が善人だったとでも言いたげだな」


「そうだよ。そりゃあ聖人君子じゃなかっただろうさ。でも、以前の君はまぎれもなく他者のために優しさを持てる人だった。今の君は復讐に憑りつかれて周りが見えなくなってる。報いを受けさせたいって気持ちはわかるよ。でも、これは明らかにいき過ぎた正義そのものだ」


「ひどい言いようだな。勘違いをしてもらっちゃ困る。俺は復讐を正義だとも考えてないし、なによりいき過ぎた正義なんて俺はしていない。すべて悪とわかっての行動だ」


「なっ」


「はっきりと言っておくが────()()()()()()()()()()()()()()()()()()。字面からしてなんとも思わないのか皆は? 自分たちのやってることを取りつくろおうとしてるっていうか、人間の性が生み出した哀しい美談って感じにしてうまくまとめようとしてる。俺はそこに虫唾が走るんだ」


 悪を名乗っておきながらいき過ぎた正義に嫌悪を示すのは意外だった。

 思わず真理亜も銃口を向けたまま呆気に取られる。


「車と同じだ。無意味にスピード出して道路走るのと、なんか重大なワケあってスピード出して道路走るのは、字面からすりゃ後者に同情を寄せがちだが、やってることは同じだろ? それで人ひき殺したらたまったもんじゃあない。……『いき過ぎた正義』なんて『無自覚な悪意』を都合よく言い換えただけの悪事だよ」


「……名演説だね。君が破壊者なんてやってなきゃ、拍手を送りたいところだよ」


「こういう立場になるからこそ見えてくるものもある」


「こんなときでも、ボクとおしゃべりしてくれるんだね」


「お前だけは、特別だ。おい、嘘つきを見るような目はやめろ」


「……じゃあ、その本の裏に隠してる物、だしてもらおうか?」


「隠してないさ」


「嘘」


「本当だよ。大きさ的に本が上回ってるから結果的にそうなってるだけだか……らっ」


 チンッと小気味よい音が響くと、コインは回転しながら宙を舞う。

 真理亜はほんの一瞬、金縛りにでもあったかのように動けなかった。


 それがコインと見抜くや、撃ち抜こうと引き金を引くも、譲治は射線上に持っていた本を放ったため本を貫通し、弾丸の軌道がわずかにズレる。


 そして彼の手元へと戻ると、真理亜に一気に重圧がかかった。

 

「なっ! これは……!?」


「スムースオアラフ」


 譲治の掌が開かれる。

 邪竜オモテが見え、裁定が下された。


「────ッ!」


 刹那、真理亜の心臓がズキリと痛んだ。

 足が動かず、嫌な汗がどっと溢れる。


「……ハァ、ハァ」


 だが、肝心の死は訪れなかった。

 ほんの少しだけ動きを止めた程度のそれに、譲治は閉口したままコインをしまう。


 薄々結果はわかっていたようで、特に驚きもしなかった譲治は杖を手に取り、軽く打ち鳴らした。


「さて、概念的な死が通じないお前はどうやら物理的にぶっ潰すしかないみたいだ」


「あのコインが復讐道具の正体か! なるほど、コイントスをするだけで人を殺せるなんて……ッ!」


「うだうだ言ってる場合じゃあないぜ!」


 真理亜の周囲に現れるは5体の聖霊兵。

 各々武器を持ち、ジリジリと真理亜に詰め寄る。


「レベルが1000いってるね。大したものだよ。だけど……」


 真理亜は拳銃をしまい、双剣の予備を取り出す。

 これまで使っていたのと比べると威力が劣るが、真理亜の剣腕があればカバーできるだろう。


「これが最後だジョージ! もう、終わりにしよう!」


「フン、どう終わるかは俺が決める。ここでは俺が特異点だッ!」


 最終決戦。

 邪悪なる光で世界を惨禍さんかの色で照らす男に、少女はいよいよ牙を向く。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 死ぬなー(たぶんもっと酷いことになる)どっちも頑張れー(心剥き出してゾクゾクさせてくれ)
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