Violence breeds violence
「ふざけやがってぇぇぇええ!! 鉄くずにしてやるぅうううう!!」
激しい攻防が繰り広げられる。
刃すら弾き返すそのボディの硬さに真理亜の拳が悲鳴を上げ始めた。
「こそばゆい!」
「ぬぉぉおおお!!」
真理亜の連続パンチが火花を上げながらトラビスのボディに叩きつけられるも、一向に怯む様子はない。
そればかりか鋼鉄の歯をギラつかせながら笑い、彼女の手首を掴んで、まるで大太刀を振りかぶるようにして後方の地面に叩きつけた。
「死んだか……────ぬ!?」
砂埃の中で真理亜の驚異的な身体能力に度肝を抜かす。
背中を叩きつけられないように身を返し両足を立てていた。
のけぞるような体勢から一転。
女性特有の身体の柔らかさを駆使し、少し無理がありながらも柔術めいた投げ技で、逆にトラビスを瓦礫の方へと投げ飛ばしてやったのだ。
「まだだ、まだ終わらんぞ!!」
「それはこっちの台詞だよ!」
瓦礫を弾き飛ばしながら起き上がるトラビスに、真理亜は空間からあるものを取り出す。
金属製の短い棒2本を鎖でつないだ武器、ヌンチャクだ。
「馬鹿め、ブルース・リーの真似事か? そんな子供騙しで元軍人の俺に勝てるものか!」
「なら試してあげるよ。これ使うの、今日が初めてだからさ」
トラビスの動きが早かった。
ゆっくりと円状に振り回す真理亜の背後に、瞬時に回り込んで掴みかかる。
その直後────。
「ア゜ア゜ァ゜ァ゜ア゜ア゜ア゜ッ!!」
甲高い奇声めいた叫び声とともに、百戦錬磨のトラビスでさえ反応できないほどの速度でヌンチャクが振るわれた。
一瞬なにが起こったのかわからず、もろに顔面に喰らうこととなり錐もみ状に吹っ飛ぶ。
なんとか受け身をとるも視界と頭がぐらついた。
(なんだ……今のは!? ただの武器ではない。まさかあれは……)
トラビスの脳内に浮かぶ『レアアイテム』の文字。
彼女もまた世界に散らばるレアアイテムを手に入れていたようだ。
いや、あれだけ世界をまたにかけておいて、実際手に入れていなければおかしい。
恐らくは自分が持っていることを悟られないように情報を遮断していたのだろう。
「小賢しい……なめた、マネを」
ヨロヨロと立ち上がり体勢を立て直すトラビスは、真理亜をギラリと睨む。
ゆっくりと両手で持つように構える真理亜、そして────。
「────ッ!!」
それはトラビスがかつて巨大なスクリーンで見たあの映画のワンシーンのよう。
歴戦の目をもってしてもその速度を見切ることができないほどのヌンチャク捌き。
空を切る音が周囲の炎のボウボウと燃える音すらも遮るようで、あまりの迫力に一瞬魅入ってしまった。
そして華麗なポージングでヌンチャクを止めて、ゆっくりと舞うように構える。
右手でヌンチャクを持ち、もう片方の棒は脇に納めるようにし、そして左手で無言の挑発。
真理亜の持っているヌンチャクはまさしくレアアイテム。
能力は攻撃速度と威力を格段に上げるという素晴らしくシンプルなもの。
一気に雰囲気が変わった真理亜にトラビスは戸惑うも、自らも構えに転じる。
この鋼鉄の身体が負けるはずなどないと思っていても、あの邪龍が如き眼光と隙のない構えにあと一歩が踏み出せず、円を描くようにじりじりとにらみを利かせていた。
真理亜もまたこれまでに受けたダメージに悲鳴を上げる身体に鞭を打ちながらも、けして集中は途切れさせない。
勝負はここで決める。
「このクソガキがぁぁぁあああ!!」
「ア゜ァ゜ァ゜ア゜ア゜ア゜チャァァアアアアアア!!」
互いに先ほどまでの動きとは段違いのものになる。
だが決定的な違いは、形勢が逆転している点にあった。
「ぐっ! ぬぉおお!!」
ヌンチャクの軌道や真理亜の動きにまったくついていけない。
鋼鉄の身体にヌンチャクが撃ち込まれ、ついに軋みを上げ始める。
血液じみたなんらかの液体が流れ落ち、顔面からは余裕の表情は消えて、かわりに血塗んられた苦悶の表情が浮かんでいた。
「ウ゜ォ゜ァ゜ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜タ゜ァ゜ア゜ア゜ア゜ア゜ッ!!」
グシャアァアアアアアア!!
攻撃力の上がった真理亜のヌンチャクと回し蹴りのコンボがついに右腕を砕いた。
たまらず叫び声を上げるトラビスだったが、負けじと反撃を繰り出す。
もはや接近戦の殴り合いなどどうでもいい、勝てばいいのだと。
左腕の手首が開いてそこから巨大な銃口が開き、真理亜に向けられた。
だが、けして怯むことなき真理亜の追撃がトラビスの狙いを歪ませる。
放たれた弾丸はあらぬ方向へ。
その隙に脇腹や首、そして頭部にヌンチャクによる高速連撃を浴びせた。
そして最期のトドメとして、前方へ力の限り蹴り飛ばす。
「アガァァアァアアアアアアアア!! ────ぐぶぅうう!?」
トラビスが蹴り飛ばされた先にあったのは尖った巨大な鉄片。
それが背部から胸に貫通し、宙吊り状態にさせている。
トラビスは目を見開いた驚愕の表情で、事切れていた。
負けるなどとは思っていなかったのだろう。
鋼鉄の身体はバチバチと火花を散らして、やがては炎を噴き出して燃え上がっていった。
元の世界からやってきた地獄の使者は、死の聖母によって落ちるべきところへと落ちていったのだ。
「これで……全員、か? 待ってて……ジョージ……もうすぐ、だから」
緊張が一気に解けて息せき切らしながらも進む真理亜。
どこかで回復はしたいがそんなものはあるはずがないと望み薄の中、譲治を求めてまた歩く。
今になって気がついたが、ここまでの戦闘で大分レベルが上がっているらしい。
もう【レベル1558】と、えげつない値にまでなっていた。
実質人類最強レベルかとも思ったが、そんなものはどうでもいい。
(そう、どうでもいいんだ。ジョージ、ジョージ……君を取り戻しさえすれば……この世界からも復讐からも、そしてあの魔女からも)
真理亜は気を入れ直しながら周囲に注意を払って彷徨い歩く。
次こそは彼との直接的な対面、いや対決となるのだから。
「あーらら、大将やられちまったか」
場所を移動して、街中を堂々と歩いていた譲治。
手駒のほとんどを討ち取られ、実際のところ劣勢に立たされていた。
しかし彼はそんなことは気にもとめていなように吞気している。
「午前3時まであと30分ってところか。俺も定位置に着こうか────およ、こりゃ珍しい。アンタと出会うとは」
ふと足を止めると勢いよく足を踏みしめて眼前に立つのは。
「見つけましたわよ! この裏切り者めぇえ!!」
父親にしてこの国の王、その娘たる存在。
「まぁまぁ落ち着きなって"王女様"。まぁ座れや」
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