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vs.ミスター・ファイアヴォルケイノ『トラビス・マクベイン』

 異世界でハインドと狙撃銃の撃ち合い。

 装甲がぶ厚く弾丸が通らない。


 そればかりかさっきから車が遠くからガトリング砲を撃ち込んでくるので思ったような射撃ができないでいる。


 どちらかに対応をしぼっても、もう一方がそれが隙と言わんばかりに激しい攻撃をしかけてくるのだ。


『どうした小娘。それで終わりか?」


「この……野郎!!」


 追い込まれた状況下でトラビスに小馬鹿にされるような煽りを受けて、さらに目を血走らせた真理亜の反撃が始まる。


 武器を狙撃銃から双剣に変え、そのまま車のほうへと突っ込んでいった。

 無数の弾丸を弾き返しながら距離を詰め、轢き殺そうとしたところを飛び上がりながら。


「うりゃあああッ!!」


 ガトリング砲を八つ裂きにし、1本を運転席のコンピューターらしき部分に突き刺した。


『なっ!?』


 コンピューターが機能しなくなり、自動運転から手動に切り替えざるをえない。

 ランボルギーニはおろか車の運転など知らないのだが、勢いのままアクセルを踏んでハンドルを切ってみるとなんとか動いた。


「うぉぉおおおおおおおおおおッ!!」


『俺の車を汚しやがってッ!』


 一本道、高速で走ってくるランボルギーニごと真理亜を撃ち抜こうとミサイルと機銃掃射を乱射する。


 それを巧みに躱しながら丁度よいくらいに傾いた瓦礫に乗り上げ、一気に飛んだ。

 まさしく映画のワンシーンでしか見られないようなアクション。


『なにぃぃいい!?』


 回避しようと機体を傾けるがあえなく激突。

 ハインドは横向きに回転しながら墜落していく。


 それより早くに車と真理亜が落下。

 爆炎を背後に着地した真理亜は、拳銃を手に取り墜落現場まで歩いていく。


(途中で奴が脱出していくのが見えた。……となれば次は地上戦だ。これで息の根を止めなくちゃ……)





 戦炎が踊る市街地。

 かつて軍人だった男は殺し屋となり、今ではこの異世界での殺しに荷担している。


 引き金を引けば、命の散り様というのは元の世界も異世界も変わらない。

 魔術やスキルなどがある世界とはいえ、戦争の火種は平等に育まれていくものだ。


 最早見慣れた景色、征服、報復。

 癌細胞のように増殖する戦火、変異していく戦況の中で、兵隊たちは正義の道具として終わらない歴史を行進していく。


 トラビスは知っている。

 決まって人は語り継ぐと。


 1度目は胸を引き裂く悲劇として、2度目はしょうもないサテュロス劇。

 幸せや平和の言葉を軸に、この二幕構成が延々と廻っている。

  

 彼はそういうとき、タバコをふかしながら次の戦争を待つ。

 他者を攻撃することを習慣にしている人間が、その国が、平和のために祈ったところで、結局は他者を攻撃することでしか祈れない。


 そこはジョージ=クライング・フェイスと似かよっている部分がある。

 シンパシーを感じるとまではいかないが、トラビスとしては引き金を引くことに抵抗はない。


 ただ、ひとつの願望を除いて。



「さすがだ小娘。連戦だというのに、よくもあの状況から逆転できたもんだ」


 声だけが聞こえる。

 真理亜は無言を貫きながら、周辺に気を張る。


 トラビスはまだまだ健在だ。

 ハインドを墜としても、大したダメージは与えられていない。


「隠れてないで出てきなよ。お前を殺す。殺して、ジョージのところへ行くんだ」


「行ってどうする?」


「こんなことを止めさせる!!」


「止められると思っているのか? 雇われの身でなんだがこの際はっきりと言ってやる。アイツはもう殺したほうがいい。生きていることそのものが有害だ」


 トラビスの言葉で真理亜の表情はより般若に近いものになる。

 冷静さを失っているのは明白だが、そのぶん殺意が増していた。


 ゆっくりと背後に回り、二挺拳銃の用意をする。


「俺はずっと近くにいたからよくわかる。あれはもう人間にカウントしていい奴じゃない。……元の世界に連れ戻すか? やめておけ、日本をこんな風にしたいのか?」


 真理亜は気配を読み取り、振り向き様に拳銃を発砲。

 トラビスも別の瓦礫に移動しながら、二挺拳銃で迎撃する。


 両者1歩も譲らぬ間合いからの銃撃戦で、周囲に風穴が開いていった。

 あまりの激しさから周囲の炎が揺らめいている。


 互いに弾切れ、真理亜は動く。

 双剣を以てトラビスに肉薄した。


 降るわれる双刃に、トラビスの拳銃は斬り裂かれた。


「武器なんて使わせない! このまま素っ首叩っ斬るッ!!」


「ふん!!」


 トラビスは慣れた動きで躱す。

 そこから真理亜の左手首を掴み、そこから関節を極め、背後に足と拳で二撃をいれて弾き飛ばした。


(これは……近接格闘技術(C.Q.C)か!?)


 飛び上がるように体勢を立て直し、コマのように回転を交えながら斬りかかるも、合気道の一教のように捌かれ、肩ごともっていかれそうな勢いで真理亜は壁に叩きつけられた。


 顔面からぶつかり、壁を貫通。

 そのまま転げ、砂ぼこりと血で咽せこんだ。


「その程度か小娘。それではあの小僧のもとには行けんぞ」


「ハァ……ハァ……なめるな。ボクだってこれまでずっと戦ってきたんだ!」


「やれるものならやってみろ! 来い!」


「行くぞぉおお!!」


 裂帛れっぱくの気合いとともに再度立ち向かう。

 そのまま挑んでもまた投げ飛ばされるだけだと考えた真理亜の妙案。


 それは自分にあって、奴にはないもの。

 

「ハッ!!」


「ぬぅうう!?」


 トラビスの視界を遮る黒い煙。

 暗殺者クラスの闇属性の初級技だ。


 目眩ましとなり完全に集中が削がれたトラビスの腹部に、双閃が走った。

 見事な音を立てる金属音とともにすれ違う真理亜。


 煙が晴れて、トラビスの姿が見えてくる。

 真理亜は勝利を確信した────はずだった。


「なん、だって……?」


 それは双剣の見るも無惨な有り様だった。

 酷い刃毀れを起こし、もう片方に至ってはポッキリと折れてしまっている。 

 

 恐る恐るトラビスに視線を向けると、彼は余裕の表情で真理亜のほうを振り向いた。

 そして上衣を引き破り、双剣を破壊したその種明かしをする。


「そんなバカな! その身体はッ!!」


 ()()()()()()()()()()

 斬りつけたであろう部位には斬痕のひとつもない。


 ニヤリと歯を見せると、歯までもが鋼鉄だった。

 彼は云わば『サイボーグ』なのだ。


「有り得ない……そんな技術がボクらの世界にあっただなんて……」


「驚いている場合か、小娘ぇぇええええッ!!」


 超速での肉薄からの右の拳が、呆然としていて反応が遅れた真理亜の鳩尾みぞおちに思いっきりめり込む。

 

「ぐぇぇえあぁああッ!?」


 白目を向きかけ吐瀉物と一緒に舌を突き出す。

 拳が背中を貫通しそうな錯覚の中、真理亜は成す術もなく数十メートル先まで吹っ飛ばされ、街中の崩れた教会の外壁に叩きつけられた。


「コヒュー……コヒュー……ヒュー……」


 逆さまにめり込んだ状態で、今にも意識が遠のいていきそうだった。

 地面に立ちたいが力が入らず、かすんだ視線の先でトラビスが歩いてくる。


「口ほどにもないな。しょせんは日本の学生ガキだったということか。────ぬぅぉおおおッ!!

!!」


「うぶぅぅぇぇああああッ!?」


 まるでサッカーボールにそうするような軽やかで鋭いキックが真理亜に突き刺さり、教会を全壊させながら、向こう側まで吹っ飛んだ。


 腹を抑えてうずくまる真理亜に再度近付き、三つ編みした髪を引っ張って無理矢理立たせる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」


「残念だったな小娘。お前は元の世界には帰れない。元の世界の土を踏むことはない。だが……俺は帰る。お前を殺せば、アルマンドと交渉できる。こんな世界にいつまでもいられるか!」


 真理亜の脇腹に拳を一発。

 呼吸も危うくなっている彼女にまた語りかける。


「魔術だのスキルだの、ステータスだのモンスターだの、魔王だの勇者だのとッ!! そんなものはジャパニーズアニメだけで十分だッ!!」


「────ッ!!」


 トラビスが拳を振り上げようとしたそのとき、真理亜はそのまま飛び上り三つ編みを掴んでいるほうの腕を四肢で絡みつかせ、全体重を地面へと落とすようにしてトラビスを投げた。


「ぬぅぅおお!? 貴様ぁ……ッ!」


「黙って聞いてりゃ……。地獄を味わわせてやるぅう……ッ」


 鬼のような形相をしたふたりが、拳を構え合う。

 



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― 新着の感想 ―
[良い点] サイボーグはハリウッド映画味があるからいいのか? もう怪物であるという認識は正しいのでしょうし、確かに元の世界に戻すことが解決なのかどうか
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