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ジョージの謀略、トラビスの罠

 ニシノに回復をして貰い、回復薬を分けてもらったあと、彼女を後方に真理亜は進軍を続ける。

 本格的な軍人のような動きで素早く、物陰に隠れながらハンドサインで合図を送るなどして周囲の警戒は怠らない。


 彼女にも勝手な行動はしないようにきつく言っておいた。

 タダシの犠牲を無駄にしないために、この先にいる敵に備える。


「大久保さん。索敵してみたんだけど、今のところ反応はないわ。こんなチマチマ動かなくても……」


「相手も狙撃銃を持ってる。それに爆弾もだ」


「嘘……ッ、大久保さんと同じ!?」


「ボクよりずっと手慣れている。相手は元の世界でもプロだ。それがスキルとか持ってるんだから、とんでもないさ」


「大久保さんと、どっちが強いの?」


 無言。

 ミスター・ファイアヴォルケイノの真の実力などわかるわけがない。


 こうしている間にも、彼はこちらをスコープ越しにうかがっているだろう。

 絶妙なタイミングを待っているに違いない。


 そのタイミングこそ、あの瓦礫でのブービートラップだ。

 そろそろその場所に辿り着く。


 次はそうはいかないと気を張っていた、のだが。


「大久保さんが言ってたのって、ここのこと? なにも……起こらないよ?」


「そんな……そんなはずは……ッ!」


 テープレコーダーの声は聞こえない。

 しかも瓦礫の傍には彼の車まで置いてある。 


「近づかないように……罠だ」


「言われなくても近づかないわよ……でも、なんでこんなところに車が……?」


 姿勢を低く、弧を描くようにして車を避けて通ることに。

 丁度真正面になる角度まで進んだ直後だった。


 

 ────ブロロロロロロロロロロッ!!



 急にエンジンがかかった車が、ふたりに突っ込んできた。

 中には誰もいない、にも関わらず猛牛のような殺意を孕んでいるそれは、明らかに敵の攻撃だ。


「キャアアアアアッ!!」


「ニシノさん!!」


 ニシノを抱えるようにして飛びつきなんとか回避。

 車は旋回し、ハリウッド映画染みた変態を遂げる。


「ミサイルだぁぁぁあああッ!!」


 ボンネットが開くと現れたのはロケットランチャー。

 狙いはすぐ定まったのか、速攻で発射してくる。


 ニシノをお姫様抱っこして、逃げに徹した。

 まずは彼女を安全な場所に避難させることが第一だ。


「クソ、まだ追ってくる! 今度はガトリング砲か!」


「なになになになになにあれぇええッ!?」


(手りゅう弾はもうない……となると、銃器か刃物で対応するしかないッ!)


 そう思った矢先、妙な音が空中より聞こえてくる。

 ランボルギーニ同様、この世界にはけして似合わない代物の代表格とも言っていい。



 詳しい名称はわからない、だが映画で見たことがある。

 ────"戦闘ヘリ(ハインド)"だ。

 

 操縦席に乗っている白いスーツの男がニヤリと笑った。

 操縦士は2名必要なそれでも、スキルがあれば補助できる。


 まさに真理亜の上位互換だ。

 今の真理亜の兵装では傷ひとつ負わせられない。


「ニシノさん、逃げるよッ!!」


「は、はぃいいい!!」


 ニシノを自身にしがみつかせ、ワイヤーガンで街中を移動する。

 それを追いかける2体の鋼鉄の化け物。


「ふん、この俺から逃げきれると思うな」


 自動操縦の車からのミサイル発射とガトリング砲。

 加えて空からの機銃掃射で、真理亜たちは徐々に追い込まれていった。


(クソ、なんでだ……なんで動きが違うんだ!? まさか、タダシがいなくなったから歴史が変わった? ────いや、違う。もっと、もっと恐ろしいことが起きているッ!)


 なんとか車とハインドを撒いたふたりは物陰で息を潜める。

 獲物を探すけたたましいエンジン音とプロペラ音が、ふたりをいすくませるほどの恐怖を与えていた。


 そんなとき、真理亜のスマホにコールが入る。


『よーマリア。どうだいうちの大将、おっかねぇだろ?』


「ジョージ!」


『おいおいおい、俺がお前に電話かけちゃダメなのか?』


「……」


(黙っちゃうんだ……)


「それで、なにか用?」


『────"タダシ"って知ってる?』


 真理亜は大きく目を見開いて、スマホを持つ手を震えさせる。

 もうこの世界で彼のことを知っているのは、自分以外にはいないはず、なのに……。


「君は、覚えているの? タダシのこと」


『正確には"知っていた"かな? 俺の【記憶】にはないが、【記録】には存在する。記録によれば、アイツは時間操作系のあのアイテムを使用したらしいな。なるほど、タダシがいた世界の俺はキチンと対策を練っていたようだ。偉いぞ俺ちゃん』


「なん、だって……?」


『時間を逆行させたときのことを想定して、それまでの記録が残るよう機能を取り付けた。いやぁ~お陰で記憶がなくてもしっかりと対応できるから助かったよ。あ、これってもしかして、タダシって無駄死にって奴? カワイソ』


「ぁ……ぁあ……」


『残念だったな。あの男に作戦を変更させたのは俺。本当ならあのブービートラップが待ち構えてるはずだったのに……まぁ頑張ってくれ。言っておくが、一筋縄じゃいかねぇぞ? なんたって大将は、異世界に来る前からアメコミから飛び出てきたんじゃねぇかってレベルだからな。じゃ、頑張って俺のところまで辿り着けよ~』


 電話はそこで切れる。

 ニシノは完全に戦意を喪失していた。


 真理亜をここまで追い詰める相手など、自分に勝てるわけないと悟ったからだ。

 

「あぁあぁああ……もうダメ、おしまいよ! 私たちここで死ぬのよッ!!」


「ニシノさん落ち着いて!!」


「落ち着いてなんていられる!? 相手はプロの殺し屋なんでしょ!? 私たち学生が勝てるわけないじゃない!」


「落ち着くんだ! ボクらには力がある。これまでだって強い相手と戦って来たじゃあないか!」


「バケモノの相手なんてもうウンザリよ! 畑中君も、あのヘリに乗ってる男も、暴れまわってる連中も……そしてアンタも!! 皆、皆異常者よ! バケモノよ!! 私は人間……人間なのよ! アンタたちみたいにザクザク平気で殺せる度胸なんかないッ!!」


「平気なわけないだろッ!! 好きで殺しなんてやってるんじゃないッ!! ボクはただ、助けたかっただけなんだッ!! ジョージを……冤罪をかけられたあの人を……ッ」


「じゃあ、じゃあどうすればいいのよぉ……、もういやぁ、おうちにかえりたいよぉ……おかぁさぁん、おとうさぁん……うわぁぁあ……あぁぁぁああぁぁ」


 その場で泣き崩れるニシノ。

 彼女の精神はすでに限界を迎えていた。


 真理亜にはどうすることもできない。

 彼女の背中をさすろうと手を伸ばした、その直後。


 

 ────ズガァァァァァアアアアアアッ!!



 ミサイルが撃ち込まれ、爆発を引き起こす。

 その際の衝撃波で叩きつけられた真理亜は、眩暈と吐き気、耳鳴りに襲われながらもニシノの名を叫んだ。


 だが、視界が開けたときに広がる絶望に一瞬呼吸を詰まらせる。


 あのときと同じだった。

 フッ飛ばされた両足を取ろうとして、叫びながら腕を伸ばす。


 錯乱状態で左足を必死にくっつけようとしながら、右手で転がる右足に手を伸ばすが届くことはない。

 そして徐々に息絶えていった。


「────ッ!!」


 真理亜は声にならない叫び声を上げる。

 同時に吐き散らす吐瀉物。


 酷くなる耳鳴りの中で、クラスメイトたちの笑い声と慟哭が入り混じり、揺れる視界と乱れる呼吸の中で血とその臭いがさらに嘔気を誘った。


 再度撃ち込まれるミサイルで、真理亜はまたしてもフッ飛ばされ瓦礫の下敷きになる。

 

「ふん、口ほどにもない……だが、油断はできんな」


 ハインドの中で睨みを聞かせるトラビス・マクベイン。

 その予感は的中した。


 瓦礫から凄まじい砂埃が上がりなにかが飛び出てくる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! 殺すぅううッ!! 殺してやるぅぅぅううううううううッ!!」


「やはり生きていたか。そんなズタボロの状態で、そんなちんけな兵装で俺にどこまで渡り合えるかな?」


「うわぁああああああああッ!!」


 ────ふたりの殺し屋が、今衝突する。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニシノさんの描写に二度目のざらつきを覚えつつ、さぁさドンドンいけという思いも湧きあがります
[一言] 魔王「何か知らない間にやベー奴が出てきて人間同士で潰し合いしてるんだが」
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