vs.ダニー
「な、なにこれ?」
真理亜がたどり着いた場所には巨大な穴が広がっている。
その上のほうで何人もの人が鎖で縛られて吊るされているのが見えた。
「うぅ、苦しい……」
「あ、あぁ! アナタは異界より来られた英雄の……!」
「おぉ英雄殿! どうか助けてくれい!」
真理亜の存在に気付くと誰もが助けを求める。
服装を見るとかなり高貴な身分の人間のようだ。
「ダニーめ、一体どういうつもりだ。……わかりました。すぐに助けますので、皆さんもう少し待っていてください!」
先を急ぎたかったが、こうして捕らわれている人々をむざむざと見過ごすわけにはいかない。
そう言って近づこうとしたときだった。
「ゲームの前にフライングとはさすが暗殺者汚い」
「ダニー!」
「ここに吊るされている連中がこれまでどんなことをしてきたか、知りたくないか? 教えてやろう」
大穴の向かい側の通路から現れたダニーは、真理亜に銃口を向けられながらも愉快そうに上を見上げる、
曰く、彼らはかつてダニーをいじめたクラスメイトたちであり、その担任教員は勿論、彼らの親兄弟も同じく吊るされていた。
余程痛めつけられたのか誰も彼もが酷い大ケガをし、このまま放置しておくのは危険だ。
そんな彼らを使ってゲームというのは、やはり常軌を逸しているとしか思えない。
「さぁマリア、いや英雄殿! 僕と勝負だ。ルールは簡単、こいつらを助け出せればいい。奥にも捕らえられている」
「人質をゲームに使うっていうのか!?」
「人質? 違う『生贄』だ! これは僕の人生へ捧げる甘美な復讐、そしてクライング・フェイスへの供物……そう、僕はこの力で、彼を『神』へと押し上げるッ!」
ダニーが懐から取り出したのは小型のスイッチ。
それを押した直後、内部全体が揺れるほどの衝撃が走る。
真理亜が先ほどまで通ってきた道が瓦礫によって完全に塞がれた。
ダニーは爆弾を扱う。
恐らくダイナマイトだけではなく、元の世界にもあるような時限式の爆弾や、リモートコントロール式のものも、今のダニーにとっては容易に使えるものなのだろう。
異能やモンスターがはびこる世界で、この戦いはあまりにも異次元的に感じた。
銃や爆弾で戦うなど、まるで本当に元の世界にある戦争そのものではないかと。
「人質を助けない、という判断はしないほうがいい。ゲームにこの地下がどれだけ耐えられるかわかったもんじゃないからな。ゲームは過程を楽しむものだよ。過程をすっ飛ばして僕を真っ先に狙うなんて、興醒めなことはしないでくれ」
「クソゲーを楽しむ趣味はないよ。……でも、いいよ。付き合ってあげるさ。本当は速攻で殺したかったけど、聞きたいことを聞いてからにしたほうが良さそうだからね」
「グッド! ……じゃあ、スタートだ!!」
そういうとやにわに隠し持っていたスイッチを押すと、吊るされていた者たちの鎖が小さな炸裂で弾けとんでいった。
そして断末魔を上げながら落ちていく者たちは、穴の奥底へと消えていくと、そこから肉がえぐれ、骨が砕ける音がする。
「ちょっとダニー!! スタート直後に殺すってどういうことだ!!」
「ハッハッハッ! チュートリアルってやつさ。君たちの世界のゲームとやらに、そういうのがあるらしいじゃないか。僕はそれを再現した。因みに、連中がどうなったか予想つくかい? 底にはね串刺し用の槍がたてつけてある。先端がね、ほんの少しばかり丸みを帯びているんだよ。そんなもので上空からグッサリいったら……フフフ、どれだけ痛いんだろうなぁ? うまく、死ねるかなぁ? フフフフ」
「ダニィィイイイイッ!!」
真理亜が銃口を向けようとしたときだった。
ダニーはすかさず自らの目にサングラスのようなものを取り付け、球状のなにかを足元に投げつける。
閃光弾。
辺り一面が圧力のある光に包まれ、真理亜はその場で目をぎゅっと瞑り、うずくまるしかなかった。
視界が戻ったときにはすでにダニーはいなかった。
不気味な高笑いのみが奥から響く。
さっさと来いと言わんばかりに爆発音が風圧とともに真理亜の頬を卑しく撫でた。
「くそ……待てダニー!!」
逃がすと思うのか、逃げられるはずがない。
ダニーがどれだけそういった武器を使おうとも力の差は歴然だ。
「地の利を活かそうとする戦い方は誉められるだろうけど、ボクにその手は通じないぞ!!」
真理亜は駆け抜けていった。
復讐鬼と爆発音によって穢された神聖なる眠りの場の空気は、一気に血とホコリ、そして爆煙の臭いが充満し濃くなっていく。
ゲームの皮をかぶった異質な戦いの火蓋が上がった。