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What a wonderful world

 真理亜の双閃と、蘭法院綾香の剛閃が幾度もぶつかり合う。

 ミスター・ファイアヴォルケイノこと、トラビス・マクベインからの狙撃を注意しての攻防は、これまで以上の苦戦を強いられた。


(超精密な狙撃に……蘭法院さんの違法スキル。クソ、まさかここまで戦略を練ってくるなんて。────だったら!)


 真理亜は暗殺者クラスになったときに知った、初歩的な技能の数々を思い出した。

 なにごとにおいても初心に還ることは重要というが、この状況においては十全な効果を発揮するだろうと踏んだのだ。


 なにより蘭法院綾香の攻撃は狂化しているためか、パワーは段違いでも単調な攻撃しかしてこない。


「グガァァァッ!」


(────次で終わりだ大久保真理亜)


 ふたりの攻撃の気配を察した直後、真理亜の技能が発動した。


「くらえ、煙幕だぁあッ!!」


「ぎっ!?」


「ぬっ!?」


 辺り一面に黒い煙が広がり、視界が遮られるだけでなく、スキル【隠密】の精度も上がる。

 そのため蘭法院綾香は勿論、歴戦の猛者であるトラビス・マクベインですらも彼女を見つけられない。


「考えたな……あの煙、どうやら魔力とやらで編み込んだものらしい。となると狙撃はもう無理だな」


 トラビスが次の行動へと移るため狙撃ポイントから離れる中、真理亜は蘭法院綾香を完全に翻弄していた。

 大鎌使いにしてバーサーカーと化している彼女に、この策を乗り越えるための知性や技能もない。


 むやみやたらと大鎌を振り回しながら咆哮を続ける。

 その隙に真理亜は麻酔銃を取り出し、しつこいほどに撃ち込んだ。


 そうでもしなければ今の蘭法院綾香は止められない。

 全弾撃ち尽くしてようやく彼女の動きが鈍り、そのまま前のめりに倒れ込むのを見届けた。


「ふぅ、止まった……だけど、恐らく効き目はすぐに切れるだろうね。わわ、なんか不穏な感じが……」


 丁度煙も晴れてきて、その場を去ろうとした直後だった。

 この世界には似合わない車のエンジン音、そして豪快に滑るタイヤの音が周囲に響き渡る。


 真理亜から見て10時の方角からそれは現れた。

 夜の炎によって彩られるランボルギーニのオープンカー、運転しているのは白いスーツに白髪頭、白い髭の隻眼の男。


「ミスター・ファイアヴォルケイノッ!」

 

 真理亜はすぐさま拳銃を取り出すが、ここはトラビスのほうが早い。

 マシンピストルで弾幕を張りながら急カーブして、別の大通りへと豪速していった。


 明らかに真理亜を誘い込んでいる。


 ロケットランチャーかバズーカ砲でもあればよかったが、さすがに暗殺者クラスでそこまで派手なものは使えなかった。

 狙撃銃を使おうとも思ったが障害物を巧みに躱しながらトリッキーな走行をするトラビスを狙えそうもない。


 真理亜の判断は早く、すぐさま凄まじい速度で走って追いかけた。

 サイドミラーでその様子を確認しながら、トラビスは運転を続ける。


 真理亜は二挺拳銃でランボルギーニを撃ちながら、徐々に距離を詰めていった。

 そのあまりの速度と胆力にトラビスは苦々しい顔をする。


「……アイツのガールフレンドはターミネーターかなにかか?」


 トラビスが真理亜と同じように取り出したのはポンプアクションショットガン。

 この銃特有の心地良いスライド音を響かせたのち、ノールックで銃口を真理亜に向けた。


 丁度真理亜がランボルギーニに掴まろうと飛び掛かった直後だった。

 引き金が引かれ、散弾式の弾丸が彼女に直撃し、後方十数m先まで吹っ飛んで、建物にぶつかり、砂埃の中へと消える。


「────やったか!?」


 トラビスは思わず声を張ったが、すぐに無駄だとわかった。

 よく見れば、後部座席にフック付きのワイヤーが突き刺さっている。

 

 そのワイヤーの先には、ワイヤーガンを操る真理亜の姿があった。

 鬼のような形相で、ワイヤーガンを操りながら迫る様はさながらハリウッド映画。


 ダメージは受けてはいるが致命傷には至っていない。

 スキルかなにかで回避できたのかそれとも。


「どちらでもいい。俺はこのまま"案内"をやればいいんだからな。────作戦通り、墓地へと向かう。ダニーの小僧でどこまでやれるかは疑問だが……」


 トラビスはアクセル全開で王都にある墓地まで飛ばす。

 それをワイヤーガンを使いながら追いかける真理亜。


「ホント……まさに掌の上で踊らされてるって感じだ。だけどボクは諦めないよ。そんなに踊って欲しいのなら、あぁ、踊ってあげるよ!」


 だが、このとき真理亜は気付いていなかった。

 麻酔銃で眠らせたはずの蘭法院綾香が、【違法スキル:真理亜絶対殺すウーマン】により、目覚めかけていることに。




 一方、譲治は比較的高い建物の屋上で、この王都で起こっている惨劇をじっと眺めていた。

 地上では有り余る暴力が民と兵士を支配している。



「おい止まれぇ!! その『武器』を捨てろ! 捨てるんだぁ!!」


「ひぃい! 違います! 私の子供です。私の赤ん坊なんですッ! 助けて、助けてぇえ!」


「武器を捨てろと言っているんだぁあああッ!!」


 この突然の惨状と、王が死んだという報告により命令機関が完全に麻痺状態となり、どうしていいかもわからず錯乱状態になった兵士が女性の腕に抱き留められていた赤ん坊を槍で力いっぱい叩き落とした。


 発狂する女性は咽び泣きながらその亡骸にすがりつく。

 自分がなにをしたかもわからず、兵士は絶叫しながらその女性を槍で突き殺した。


「おい見ろ! 兵士がやったぞ!!」


 誰かが叫ぶ。


「民を守る兵士が赤ん坊を、無実の人を殺したッ!!」


「横暴だ! 悪だ!!」


「殺せぇ!!」


「火炙りにしろ!!」


「ズタズタに引き裂いちまえ!!」


「ひぃい、く、来るなァ! 来るなぁぁぁあああ!!」


 集団に囲まれ原形がなくなるまで何度も何度も念入りに暴行を受ける兵士。

 このように錯乱したり、部隊から逸れてしまった兵士や騎士は、大体同じような末路を辿る。


 譲治の同志たちは勢いをさらに増し、王都のあちこちに火を点けた。

 業火に吞まれるかつての栄華の中で、彼らは雄叫びを上げながら破壊活動を繰り返す。


 譲治に与したモンスターの女たちは、逃げ惑う人間や立ち向かってくる人間を嘲笑うように突き刺し、引き裂き、焼き殺していった。

 

 譲治に騙され、そそくさと自分たちだけ逃げようとする上層部は、ダニーがあらかじめ仕掛けた爆弾で吹き飛ばされたり、待ち伏せされてリンチの的になったりする。


 誰もが抑え込んだ憎しみを露わにし、世界に彩りを与えていた。

 偽善と欺瞞に満ちた世界を照らすこの王都の業火は、譲治に深い感動を抱かせる。


 譲治はおもむろに面頬を外した。

 涙が零れ、視界が歪む。


 それでもなお止まらず、今度は杖を立てかけるように置いて、縁の上へと昇った。

 片足一本でフラフラの状態のまま、この惨劇を抱きしめんばかりに両腕を目一杯広げる。


 今にも落ちそうだ。

 しかし、譲治は気にせず、そのまま片足で器用に踊りだす。


 今までのようにふざけたダンスではない。

 それは悲し気でもあり、しかしてどこか荘厳な雰囲気のある振り付け。


 それは祝福という名の祈り。

 憎悪者たちの楽園の生誕を祝う、狂気に満ちた表現だ。


 当然、それを見た者はいる。

 その誰もが彼のダンスに魅了された。

 

 暴徒だけでなく、逃げ惑う民衆の中の数人、戦いの最中ふと立ち止まった兵士、怯えて隠れ潜みながらそっと覗き込むように見る子供など。


「……────」


 それを気にすることもなく、譲治は踊り続ける。

 そう、今彼の目に映るもの、()()()()()()()()()()()()()()()()


 誰も彼もがすべてのしがらみを忘れ互いを憎み合うその姿に、譲治は一種の神聖さを感じる。

 これこそが神様からの贈り物ではないのかと。

 

「HAHA……HAHAHA、HAHAHAHAHA……────HAーHAHAHAHA!!」


 大笑いのあと、足を踏み鳴らしフィニッシュ。

 心地の良い風に乗って、噴き出す血の臭いと、焼けていく肉の臭いが彼の頬を拭うように撫でた。


「さて……そろそろ愛しいクラスメイトたちのところへ行くか。安心してくれ、別にマリアだけ依怙贔屓えこひいきにするわけじゃない。お前たちにもちゃぁんと"ゲーム"を用意してる。……お前らにとっては、因縁深い内容だ。皆で楽しめるように作ってあるから安心してくれ」


 彼は縁を降り、再び面頬と付け、杖を手に取る。

 向かうはクラスメイトがいるエリア。


 偵察の聖霊兵によれば、苦戦しながらもまだ頑張っているらしい。

 そして九条惟子も、王殺しから戻って来たシュトルマとの戦闘が始まろうとしているとか。


「……『午前3時』に間に合えばいい。それまで、俺もたっぷり楽しませてもらおう!!」 

 

 この素晴らしい世界の中で、嗤う髑髏(クライング・フェイス)は子供のようにまだまだはっちゃける。

 誰も考えもしないだろう復讐アイデアを携えて。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 盛り上がりますね。疾走感と爽快感があって、とても面白いです。 [気になる点] 冤罪になるあたりは、考えさせれます。雰囲気って怖いですよね。 [一言] 王国と裏切ったクラスメイトへのしっかり…
[良い点] 舞台は裁判ですかね。 感極まった狂気が感じられました、うらんだこの世に愛おしさをぶつける辺りに
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