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人員確保最終段階。

 アルマンドと真理亜たちの会合が終わってから2ヶ月。

 譲治は裏で怒涛の快進撃を遂げていた。


 次々に勢力を拡大させていき、世界中の裏社会アンダーグラウンドにて名をはせるほどに譲治はその悪名を轟かせた。

 そのたびに真理亜の捜索の手が伸びたがことごとく躱している。


 人員確保もすでに終盤に来ていた。

 盗賊のような悪党は勿論、迫害された者やいわれのない罪を着せられた者まで。

 

 そして今日もまた、彼の下に不思議と引き寄せられるのだ。

 町外れにある呪われた廃館と言われる場所で、ひとりの貴族の少年が訪れる。


「なるほどなるほど……君は貴族の生まれであるが妾の子。虐げられ、疎まれ、見捨てられ、でもまぁ一応貴族としてのメンツのために魔術学校には行かせたがそれっきり。妾の子って理由のせいでいじめられたりシカトされたりするからここで自殺しようとしにきたと。……なんつータイミングで来てくれやがんだこのバカ」


「ひぃ、んなこと言ったって知らないですよ……」


「うるせぇんだバカ野郎」


「あだっ!」


 譲治と同い年くらいの少年は紐で縛られた状態で床に座らされていた。

 ここは譲治の隠れ家のひとつだったのだが、思わぬ来客が来たものだと溜め息を漏らしたものだが、彼の中にあるものを感じ取ったため、一仕事前に話を聞いてやったのだ。


「まぁなんだ。どこの世界でもいじめってのはあるもんだウン。で、こういう言い方をすると各方面から誤解を招くだろうが、俺はあえてこの言い方をする。皆がお前をいじめてたんだろ? クラスメイトも教師もだ。だったら簡単だ」


「簡単ってなにが……なんです?」


「────彼らはお前をいじめることで、『幸せ』になりたかったんじゃないかな?」


「し、あわ……せ?」


「そうだ。いじめられていたとき、周りはどんなだったか思い出してみろ。皆、素敵な笑顔を浮かべてしたろう? 光り輝いて、毎日が楽しそうだっただろう? お前の絶望が、彼らに充実した時間を……夢と希望を与えたのさ」


「僕の絶望が……皆の、幸せ?」


「そうだ。こういう問題で大抵言われるのが"そんなつもりじゃなかった"とか"軽い気持ちでやった"とかだ。わかるか? 幸せを感じとるのにそんな難しい知識も理性もいらない。お前をいじめることは、軽い気持ちだけで充実した時間を手に入れられる極めてお手軽な幸せゲットの手段なんだ」


 他人を支配し破壊する征服欲と嗜虐心。

 これらから得られる多幸感は実際バカにはできない。


 譲治はその点を少年に言い聞かせるようにして語る。

 別に引きずり込もうと策を巡らす必要はない。


 ただこうして会話するだけで、勝手に引き込まれていく。

 今まさに少年は譲治の言葉と顔に釘付けになっていた。


「生まれがどうのこうのじゃない。そんなのはくだらないただの後付け。彼らはただ、お前を迫害することで幸せになりたかっただけなんだ」


 譲治は目を薄く笑むように歪ませながら、少年の背後に回りそっと手を肩に置いた。

 幸せのことを語っているが、実際のところ、これは彼の話術による手段のひとつである。


 譲治の価値観は変わっていない。

 幸せとは差別や階級カーストといった格差を生み、それによって支配するための太古からの口実であり、功利主義に基づく利益を得るための手段のひとつでしかないのだと。


 純粋な意味での幸せなど初めからこの世に存在はしない、と。


 だが、譲治はあえて彼の内側にある幸せを見抜き、尊重する。

 こちら側に墜ちてもらうために。


「どうだ? 生きる希望を失くすだろう? 死にたくなってくるだろう? だが、ひとつだけ解決する方法がある」


「────え?」


()()()()()()()()()()()()()()。……どうだい? 俺と一緒に来ないか?」


 少年は生唾を吞む。

 埃っぽいはずの廃館に、嫌な空気が漂いじっとりとした湿気が首回りと背中にまとわりついた気がした。


 今日出会ったばかりの人間に、ここまで引き込まれるとは思わなかったからだ。

 死ぬつもりできたのに、譲治と話す内に生きたいという意志が悪意とともに芽生えてきた。


「俺が、お前に幸せになれる方法を教えてやる。ぜ~んぶぶっ壊すんだ。気に入らないモン相手には、それに限る」


「ぶっ壊す……? その方法を、僕に?」


「あぁそうだとも。だって俺たちもう、親友じゃね? 親友は助け合わないとぉ~。なぁ?」


「親友……でも、お互い名前知らないのに」


「教えてやるよ。俺の名はクライング・フェイス……嗤う髑髏さ」


 譲治は聖霊兵を呼び出し、縄を外させた。

 少年の名は『ダニー』といい、譲治に着いていくことを決める。


 譲治の醸し出す雰囲気に、完全に心を奪われてしまったのだ。

 これまでの悩みが些細なことにさえ見えてしまうくらいに。


 譲治としては単純に駒を集める感覚だったのだが、海老で鯛を釣ったかのようだった。

 ダニーが狂信者への道を進もうとしているのを瞬時に理解したのだ。


(ん~、使い道によってはかなり役に立つかもしれん。アレでも渡しときゃあとはなんとか自分でやるだろう)


 譲治は面頬の中で静かにほくそ笑みながら、ダニーを引き連れて館の外へと出る。

 今から向かうのは、今宵行く予定だった場所。


 ダニーの到来で少しばかり遅れたが問題はない。

 これから行く場所にいる者たちを集めれば、人員確保は完璧に終わる。


「ところでダニー。お前、モンスターとか大丈夫か?」


「君が望むのなら僕はどこへでも着いていくよ」


「そうか。……あ~、胸糞悪いエロとか大丈夫?」


「え……どうしたんだい一体? これからどこへ……」


「────モンスターのご婦人方に会いに、な」


 しばらく歩くと、トラビスが車を回してやってきた。

 後ろにはクランとシュトルマが乗っており、ふたりの間に入る形でダニーが座る。


「あのぉ~、クライング・フェイス」


「美女に挟まれるなんて最高じゃないか」


「いや、隣のお姉さん……すっごく触ってくるんだけど」


「……。────よし、特に問題はないな。そんじゃ大将、目的地までよろしく」


「俺はタクシードライバーじゃねぇってのに」


「歩道が広いではないか。行け」


「今から行くのは林道だ。……それ、言いたかっただけだろう」


「俺もたまにはこういう決め台詞ビシッと言いたいのよ」


 ランボルギーニは唸りを上げて林道を高速で駆け抜ける。

 そこから先にある『闇市場』に用があるのだ。


 闇市場と言っても自然の洞窟を利用して作った地下建造なのだが、譲治はそこへ向かうことでさらなる憎悪を集めようとした。


「さぁて、この国もいよいよ終わりが見えてきたぜ」


「楽しそうだなお前は。……ところで、スマホには出なくていいのか?」


「ん? あー、マリアね。実はこの2ヶ月で着信履歴ヤバいことになってんのよ。アイツ今日までずっと電話してくるからさぁ。1日何件くるか知りたい?」


「いや、言わんでもいい。聞きたくない。言うな」


「うん、その方がいい。出るタイミング逃したらこれだよ……」


 そうこうしている間に闇市場がある区域が見えてくる。

 車を止めて、各々戦闘態勢に入った。


「クランとシュトルマはいつものように敵を殲滅。大将は逃げようとする奴を片っ端から狙撃。ダニーは俺と来い。────さぁ、パーティの招待券配りはこれで終いだ」

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[良い点] 悪だ。 真っ黒い泥沼に飛び込んだダニーくんの未来が楽しいものになりますように
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