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復讐の先の企み

 譲治たちがいた地球にて元軍人の『殺し屋』として活動していたこの男。

 トラビス・マクベインは譲治たちと同時期にこの世界に転移していた。


 召喚側の単なるミスなのか、それともなにか目的があって彼も呼び出されたのかは一切不明。

 ステータスやスキル、そして数多くのモンスターや異能に不気味さを覚えながらも今日まで生き延びてきた。


 ────ミスター・ファイアヴォルケイノ。

 彼の異名にして、この世界においてはスキル名として顕在しており、真理亜の『死の聖母(サンタ・ムエルテ)』に勝るとも劣らない効果を発揮する。


 プレゼントとしては申し分のない逸材だった。

 譲治とトラビスは小屋の中で仕事のことを話し合う。


「さて、ボウズ。この張り付けにされてる小娘は……お前の趣味か?」


「半分正解」


 蘭法院綾香の表情は虚ろで、焦点の合っていない瞳は宙を見つめている。

 蝋燭の光で不気味な照りを宿す管と薬品の入ったパック。


 トラビスは一瞬嫌な汗を滲ませる。

 経験上イカれた存在というのは地球でもこの異世界でも何人も見てきた。


 譲治もまたその類だ。

 しかし、この世界に来て最初に出会った存在である魔女アルマンドが見初める少年というのがどうも引っ掛かった。


 この見るからに戦闘には向かない少年に、アルマンドは叡智を授け、狂気を育ませている。

 あの女にはそれだけの力があるのだ。


 なぜこの畑中譲治という少年に目を付けたのかはわからないが、アルマンドの目は本気だった。

 この少年を使って、この世界に変革をもたらそうとしている。


(報復と慟哭を司る魔女、か。俺の仕事はこのガキの復讐のお手伝い……厄介な連中に目を付けられちまったな)


 トラビスはポケットに手を突っ込み、タバコを加えたまま紫煙を宙に揺らしていた。

 譲治の冤罪裁判の話は聞いている。


 だが、ただの復讐では終わらない感じがしてならない。

 聞けば裏切り者殺しはかなり順調だ。


 今よりもさらに戦力を増強する理由がどこかにあるというのか……。


「……コイツもお前の兵力なのか?」


「その通り。ほかにも幼女に元女騎士といるがこんなもんじゃない。"お祭り"は多いほうがいいだろ」


「……なにをする気だ?」


「俺主催の復讐パーティーだよ。王都で開く予定だ。そのためにはだ、さっさとイズミとナナをぶち殺がして、砦からおさらばしたいんだよ。この世界の裏社会アンダーグラウンドに潜り込み、準備をする。ホラ、折角のパーティーが適当なんてヤだろう?」


 面頬でわからないが恐らく満面の笑みを浮かべている。

 裏社会はそんな簡単に生きれる場所じゃない、とトラビスは経験上の言葉を言いたかったがアルマンドの不気味に笑う顔が脳裏によぎった。


(あの女の叡智と狂気を授かったこのガキなら……もしかしたらやりかねんかもしれん)


 トラビスは頷き、彼の計画に手を貸す。

 そのための助力もするつもりだ。


「なるほど。────で、俺はなにをすればいい? こうして会って話している以上、仕事はあるんだろうな?」


「考えてあるよ。アンタに殺して欲しい奴がいる」


「ほう」


「だが、そいつが王都のどこに住んでやがるのかわからないし、普段どこにいるのかもわからん。……んでねぇ~、探して殺して欲しいの。……俺の裁判の話は知ってるだろ?」


「あぁ、知っている。裏切り者にはめられて罪を着せられたらしいな」


「あぁ、メチャ許せんよ。そいつこそ俺の裁判の担当をしたクソ判事だ。早急に排除してもらいたいわけだが……最初の仕事としてはどう?」


「あぁいいだろう」


「いよっし! 俺は今からイズミとナナを殺しに行く。アンタは3日以内にクソ判事を殺してくれ。死体は王様に届けてくれや。このカードと一緒に」


 譲治が手渡したカードにはコミカルな絵が描かれていた。

 ギザギザの歯を見せるように笑い、黒く塗りつぶされたような目からは黒い涙を流している。


「随分と目立つようなことをするな」


「裏でコソコソしてっけど、実は目立ちたがり屋でね。正直ウズウズし過ぎて今にも死にそうなんだよ」


「……いいだろう。3日以内だな」


「あぁ、俺は今夜……日付が変わる前に、殺してやる」


 ふたりは小屋をあとにして、それぞれ目的のために動き出す。

 譲治がジェット機能で飛んでいったのを見送ったあと、トラビスはアルマンドに連絡を入れた。


 念話を好まない彼のために、アルマンド自身もスマホを持つことにしている。

 彼女の番号に電話し、顔合わせの結果を報告した。


「奴と接触した。これから仕事に入る」


『ほーほー、随分と行動が早いじゃないかアイツ。こりゃ楽しめそうだな』


「奴は裏社会に潜り込むと言ったが……」


『ん? あぁ、大丈夫だろ。砦にいたときはかなり窮屈だったらしいからな。むしろそういう危なっかしいところのほうが、アイツの神経はさらに研ぎ澄まされるってもんだ』


 電話越しに水の音が聞こえた。

 どうやらアルマンドは風呂から電話を取っているらしい。


 パーティーも終わり、その余韻に浸りながらクラスメイトたちが和やかなムードに包まれる中、アルマンドは譲治の部屋に戻り、ポールダンスによる激しい運動の汗を流していた。


「王国にも復讐するつもり、か」


『当たり前だろう。なぁ、しばらくアンタ、譲治に付いてやれよ。地球でもこの世界でも、裏社会のことに通じてんのはオレかアンタくらいなもんだ』


「お前はなにもしないのか?」


『やってもいいけど……ん~、なんか違うんだよなぁ。いや、効率とか考えたらそれが正解なんだろうけどさ。ホラ、オレ魔女やん? オレがなんでもかんでもアイツにしてやるってのもなぁ~』


「……まぁいいだろう。金を貰っている以上、とことん付き合ってやる。俺のやり方でやらせてもらうが、それでいいな?」


『勿論。むしろ、本人のやり方で物事を進めてくれたほうがずっといい。そのほうが面白い』


「よし。じゃあ早速だが、王都への、ワープホール? ってのを開いてくれ。そこに用がある」


『オッケー、出しといてやる。じゃあ切るぞ』


 お互い連絡が切れ、トラビスはスマホをしまうと、加えていたタバコを携帯灰皿にしまう。

 前金でこの世界での通貨での大金と、地球金額38万ドルを受け取っている以上、手は抜かない。


「さて、仕事の時間だ」


 トラビスはアルマンドの作ったワープホールを抜けて、夜の王都へと忍び寄る。

 地球で鍛え上げた殺しの技術と、この世界へ来てからのスキルなどを合わせれば、3日以内での暗殺は容易いだろう。


 トラビスが夜の街、その裏路地を歩いていく中、譲治は空を翔け抜ける。


「────さぁ、飛ばすぞ!!」

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