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俺は『嗤う髑髏』、そう呼んでくれ。

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。幸せなんてのは、過去の人間が大勢を先導しひとつにまとめ上げるために、長い歴史をかけて作ったリアリティのある虚構フィクション……、"ある"と思い込まされてるだけの壮大な『でっちあげ』なんだよ!」


「やめろぉおおおお!! なんで、なんでそんなこと言うんだ!! 私を苦しめてそんなに楽しいか!? 私の幸せを否定することが、そんなに嬉しいのかぁあ!」


 感情が爆発し咽び泣くように譲治に喚き散らすシュトルマ。

 相対的に譲治は笑みを浮かべながら顔を近づけた。


「そう悲しむなって。こう考えろ。幸せがないってことは不幸もまた存在し得ない。自分は不幸な人間だってクヨクヨする必要もないし、幸せを掴まなくちゃって焦ることもない。────だって初めから幸せなんてないんだから! 夢も希望もない、だったらそれに負けないくらいの憎悪えがおで日常を輝かそうぜって話!」


「うわぁああ! うわぁあああんッ!!」


「あるはずのないものをあると信じ続けるのはそれこそ無駄な苦痛だぞ? しかも自分のことが好きか嫌いかで悪者にされちまう世の中。まともな神経なんて、やってるほうが馬鹿馬鹿しい」


「このッ! この外道! 死んじまえ!」


「ヤベェ興奮してきた。いいぞ、もっと罵れ。もっと、もっとぉッ!! 俺を殺す気で罵倒しろぉお!!」


「黙れぇえええッ!! なんだんだ……お前は一体何者なんだッ!」


「俺が何者? 俺はこの世界に来て"泣きを見た男"さ。でもある日、憎悪えがおになれた。……俺は嗤う髑髏(クライング・フェイス)だ。畑中譲治はもう死んだ……今の俺は『ジョージ=クライング・フェイス』さ」


「ジョー、ジ……ぐ、ぐぅッ!」


「最後に、面白いものを見せてやろう」


 譲治が腕のスイッチをいじりだす。

 そこから中継での映像が空間に現れた。


 九条惟子の戦果を讃えてのパーティーだった。

 多くの臣下たちが酒を飲みながら笑い合っている。


 誰も彼もが満面の笑みをしていた。

 九条惟子を中心に笑顔が広がっている。



 譲治は音量を上げて、会話を聞き取りやすくした。

 九条惟子のみを讃えて、シュトルマのことなどまるで気にも留めていないようだった。


「な、なんだこれ……なんなんだこれはッ!」


 ようやく彼女の話題になったかと思えば、聞くに堪えない陰口や罵倒の数々。

 口汚い一言一句すべてが、絶望の中にいる彼女の心に突き刺さる。


 ────そして皆の機嫌を損ねないように、不自然な笑みを見せながら頷く九条惟子の姿も。


「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! うわぁあああッ! ヤダッ! ヤダァアアアアッ!!」


 治療室にシュトルマの絶叫が響き渡る。

 しかし、その声は誰にも届かない。


 何度も叫ぶ。

 何度も助けを呼ぶ。


 だけど誰も助けに来てはくれない。

 誰も自分のことを心配などしてくれない。


 まるで捨てられたゴミのように。

 初めから、自分に居場所などなかったのだと。


 それが悔しくて、悲しくて、大声を張り上げて泣いた。

 ────悔しくて、悔しくて。


「あぁああッ! あぁあ……あぁあああッ!!」


「ハハハハ、ヒハハハハッ」


「あぁあ……アハ、アッハッハ……アハハハハ……」


「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」


「アハッ! アハハハハ、アハハハハハハハハッ!」


 気付けばシュトルマは譲治と一緒に笑っていた。

 大粒の涙を流しながら、意味もなくゲラゲラと笑っていた。


(さぁて、そろそろ仕上げだ……)


 譲治は自身が作り得る『最強の魔導薬』が入った注射器を密かに取り出し……。


「────ぐがっ!?」


 シュトルマの首筋を針が食い込み、液体が血管を通して体内に入ってく。


「悪いねシュトルマ。アンタの"絶望"が必要なんだ……絶望が強ければ強いほど、これは力を増す」


「あが……が……ぁ」


「やりすぎとは別に思ってない。だがアンタを滅茶苦茶に傷付けるつもりはなかった。今はゆっくり休むがいい。────今はよく眠れ。()()()()()()()()()()()。そのとき再度話してくれると俺も嬉しい」


 そう言いながら針を抜き取り、譲治は静かにシュトルマから離れた。

 彼女の瞳は、白と黒が反転したような色合いになっていく。


 それに気付かぬままシュトルマは唐突な安らぎに包まれて眠りについた。

 譲治は踵を返すと、再び蛇に変身して城をあとにする。


 順調に城を抜け出し、砦へと飛んでいく。

 この蛇になる機能は途轍もなく便利だ。


 今砦は少人数になっているので、上手く立ち回れば目立たずに行動できる。

 そして、自室へと向かう際、蛇が譲治であると見抜いたアルマンドは窓から彼を入れた。


「ふぃ~、疲れたぁ。こんなに話したの久しぶりだべや」


「お疲れさん。クミコにシュトルマに、重労働だったな」


「いやはやまったく。……ちょっと休憩。おうふ、ベッドからアルマンドさんの良い香りが……」


「最高だろ?」


「最高。……ん、信号が入ってる。……おぉ、らんほーもついにできあがってきたな?」


「らんほーっていうと、蘭法院綾香か。アイツになにしてんだ?」


「……シュトルマと似たようなこと。あっちのほうはかなりきついし時間は掛かる」


 そう言いながらゴロゴロとベッドで転がる譲治。

 彼の頭の中にはイズミとナナをどう料理するかと、そのあとの王国へのことで頭がいっぱいだった。


 大分駒ができあがり、対策も練れてきている。

 だがあともう一手欲しいと思っていたときだった。


「そういや、プレゼントがまだだったな。────ホレ」


 アルマンドが投げ渡してきたのは、スマートフォンだった。

 綺麗なカラーの新品と言っていいほどの品物だ。


「うわ、マジか! スマホも爆破しちゃったからどーでもいーかと思ってたけど……Oh、待ち受けこれアンタいつの間に撮ったんスか?」


「ベッドで熱く燃え上がった夜を覚えてるだろ? お前が俺の胸の中でスヤスヤ寝てる間にちょいとな」


「こりゃあ男の子の元気が炸裂しちまうぜ。……うわ、フォトギャラリーもそういうのばっか。家宝にしたい。クランには見せらんねぇな」


「おいおいエロ写真に浮かれるのも良いが問題はそこじゃねぇぞ? 電話帳見てみな?」


「ん?」


 譲治は素直にスマホを操作し、電話帳の名前を確認してみる。

 そこには見慣れぬ名前、というよりも異名のようなものが登録されていた。


「それが俺のプレゼントだ。話は通してある。あとはお前が自分で連絡して、自分で会いに行け。念話とかを嫌う奴でな」


「────……ミスター・ファイアヴォルケイノ。……もしかして、俺らと同じ転移者!?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] この気分を伝えて良いものか悩みましたが、自分の中で悪のカリスマとしてある意味有名なDCのジョーカー(バットマンの敵役ですな)に近づきました。 狂気に引き摺り込む姿、いいですね
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