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シュトルマへの毒牙

 砦にはまた来訪者が来ていた。

 兵を引き連れたシュトルマだ。


 王はまたしても彼女ら転移組をコキ使おうとシュトルマを副将に、九条惟子に招集をかける。

 西の戦場へ赴くにあたって、シュトルマは自ら名乗り出るが、王や周りの臣下に一蹴された。


 なんとか出陣できるよう懇願するが、誰もが彼女を駄々っ子かなにかのように見る。

 なんたる無様と苛立った王は一計を案じ、彼女を副将として出陣させることを許可した。


「よろしいのですか陛下。あ奴を副将に任せて」


「構わぬ。なにかと目障りな小娘よ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 こうして副将として戦列に参加することができたが、その表情は怒りで固まっている。

 

(なんで……なんでこの私が副将なんだッ! なんで異邦人の奴が大将で私が下なんだッ!!)


 歯軋りしながらズカズカと砦内を歩く。

 そしてふと思い出したように立ち止まった。


 ────この砦には畑中譲治がいる。

 聞くところによると、左足を失ったままの手負い。


 戦場へ行く前に捕らえて王城へと連れて行けば処刑は確実。

 重罪人を捕縛した騎士として、さらに名も上がるだろうと考えた。


(ふふふ、見ておれ私を見下すクズどもめ! ここで奴を捕えて王の御前に差し出せば、きっと王もお喜びになるッ! きっと私の忠誠をわかってくださる! ここまで不遇に耐え忍んだ私を……ッ!)


 譲治は今、新しい部屋で客と面会をしているらしい。

 その場所を聞き出し、勢いよく入った。


「重罪人畑中譲治ッ! 神妙にお縄を頂戴し……────」


 鼻息荒く嬉々とした表情でドアを開けたが、一気に感情が冷え固まった。


 なぜならドアの真ん前で、譲治が待っていたからだ。

 開いてすぐに白銀の髑髏の面頬を被った譲治に出会い、思わず緊張で動けなくなってしまう。


 その瞳に宿るドス黒さは、人間が持っていいものではないから。

 面頬のせいで笑っているようにも見えるが、明らかに視線はシュトルマを睨みつけている。


 その直後の態度はまさに慇懃無礼。

 黙ったまま大仰な身振りで、シュトルマを部屋に招き入れる。


 間違って怪物の住む洞穴へと入り込んでしまったかのような張りつめた空気を跳ねのけるように気をしっかりと持ち、胸を張り毅然とした態度で臨んだ。


 イスに座ってシュトルマを見る褐色肌の美女アルマンド。

 そして、シュトルマが来たことで身を潜めるようにアルマンドの裏に隠れるクラン。


 それらを一瞥しながら、シュトルマは再び譲治と向き合う。


「ハァイ。美女美少女大歓迎だ。アンタも相当べっぴんさん。どうやらついに俺にもモテ期が到来したようだ」


「下賤な輩に開く心などない」


「そういうなよ。アンタが俺のこと目の敵にしてるのは知ってる。"ツテ"があってね。そのヒトから結構情報を貰ったりするんだ。しかし、しかしだぜ。俺個人としては別にアンタを悪く思っちゃいない」


「黙れ! 任務の前に貴様を早急に王都へ連れて行き、再度裁きを与える。フフフ、この日をどれだけ待っていたことか」


「ワァオ、俺を想っててくれてたのか。しかも王都へのデートプランまで。アルマンドさん、お赤飯炊いといて」


「このッ! 今すぐ連行して貴様をギロチン台にかけてやる! 覚悟しろ外道!」


「あ、じゃあ行く前に風呂で首を洗いたいんだけど時間はある? 折角だし綺麗にしとかないと」


 こんなやり取りがしばらく続き、シュトルマの堪忍袋の緒が切れかけたそのとき、クランが能面のような無表情でシュトルマに背後から近づく。


 邪悪な気を感じたシュトルマは振り向き、その異様さに思わず息を吞んだ。

 クランが手を伸ばしながらシュトルマに近づき。


「じょーじ、いじめ、る、の、ゆる、さな、い」


「な、なに……なんだこの子は」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 直感でそう感じた直後に譲治がため息交じりにクランを止めた。

 クランはすんなりと受け入れ、またアルマンドの裏へと戻る。


「すまんね。多感な時期だ。あまり刺激しないほうがいい」


「あ、あの子は、一体……」


「知らないほうがいい。……で、どうすんのデートは? 早く決めてくれ一応予定は詰まってるんだよ。あれ? 言ってなかったっけ?」


「……どうやらお前とはじっくり時間をかけねばならないらしい。今日のところは退き上げてやる。九条惟子を大将に、西の戦場へ赴かねばならん。お前の処刑はそのあとだ」


「立派だね。アンタほどの騎士がなんで俺みてぇなドブネズミを捕まえるのに躍起になってんだ? そんなの戦場の手柄以下だろ絶対。名誉職ってそんなに暇なのか?」


 口惜しそうに踵を返し帰ろうとしたシュトルマに、神経を逆撫でするようなことを言う譲治。

 案の定、ユラリとした殺気を滲ませながら視線のみを覗かせるシュトルマに、譲治は軽快に続ける。


「それに妙だなぁ。なんでアンタが大将をやらない? パイセンはレベルが高いだけの異邦人だ。本来なら自分の臣下であり、戦場での経験も豊富なアンタに現場指揮をやらせるのが道理ってもんだろう? 恐らく王様の命令なんだろうが、……なぁ、ほかに誰がアンタを大将にさせまいとした?」


「なにが言いたい?」


「いいや別に。随分冷遇されてるんだなって思っちゃってサ。職場の人間関係大丈夫? 忠誠心と職場での待遇釣り合ってないんじゃない?」


 譲治が肩を竦めてみせる。

 シュトルマは静かな怒りを以て、譲治の方向に足先を向け、柄に手を添えていた。


「貴様、それ以上減らず口を叩くと────」


「悪く考えないでくれよ。今し方言ったばかりだろ。別にアンタのことを悪く思っちゃいないって。アンタの行動原理は王様のため。そして、王国に秩序をもたらすこと。そうだろ?」


「……」


「だけど残念なことにアンタ今理解者ゼロなんじゃないか?」


 譲治の声調は変わらないのに、声にまとわりつく雰囲気が這い寄る蛇のように不気味だった。

 

「感じるよシュトルマ。アンタの中にある、怒り、憎しみ、そして悔しさ。その感情の周りから聞こえるのは……嘲笑だな。連中はアンタをどうしたいんだろうな? 実に気になるところだ」


「貴様、我が王とその臣下を愚弄するか」


「声に覇気がないなぁ。まぁ、今の段階では俺の話は聞いて貰えないだろう。……これは俺の名刺代わりだ。お近付きの印にど~ぞ」


 アイテムボックスからクランに渡したようにリンゴを投げ渡す。

 シュトルマは受け取り、そのまま握りつぶそうかとも思ったが、それを手に持ったままこの部屋を去ることにした。


「お前は重罪人だ。それはけして変わらない」


「ま、そうだろうな」


「私は王国の誉れ高き騎士の家系の女。お前は私を惑わしたかったんだろうが、そうはいかない。私の帰還を楽しみに待っていろ」


 そう言って去っていくシュトルマ。

 譲治は溜め息交じりにベッドまで歩いて一度勢いよく寝転ぶ。


「中々にいい演説だったぜ譲治」


「うん、すご、かった」


「シュトルマ……アイツが来る前に教えてくれたアルマンドさんの未来予知じゃ、アイツは西の戦場で……」


「死にはしないが……ちょいとグロいぜ? ククク」


 譲治にはある目的があった。

 クラスメイトへの復讐は勿論だが、それと同等に面白いプランを考えていた。


 ────王国への復讐である。

 といってもクラスメイトほど深刻ではないため、最早パーティー感覚だ。


 しかしだからこそ、エンターテイナー精神が騒ぐ。

 今からでも楽しみでならない。


 内にある憎しみの炎が笑いを誘った。

 その笑いは確実に王都を、そして王国を地獄へと変える。


 そのためのクラン、蘭法院綾香、そして……。


「シュトルマ……あの女騎士も上手く使えば盛大なパーティーが開催できる。クラン、パーティーだ。お前にもしっかり頑張ってもらうからな?」


「う、ん。わかっ、た。じょーじの、役に、たつ」


「おいおい期待以上の展開だな。よ~し、これは俺も参加しねぇとあれだな」


「飛び入り参加大歓迎。アンタがいれば心強い」


「よし、じゃあパーティーの前にまたプレゼントを用意してやるよ」


「プレゼント? また発明で?」


「いいや、そうじゃない。ただ、最高にクールなのだ。……さて、九条惟子とシュトルマは出陣したらしい。そろそろ3人目行くぞ」


「アイアイサー。……目標、『槍術士のクミコ』。場所は、おっとぉ……恐怖の森かぁ。じゃあワープホールを開けてください」


「待っ、て……わ、たし、も、行く。じょーじ、手伝う」


 クランが同行を提案した。

 譲治の役に立ちたいと願うその真っ直ぐな眼差しを受け、譲治は一考のもと同行を許可する。


「よし、じゃあ、お前の力を見せてもらおうか? 相手は強いぞ?」


「わか、ってる」


 クランと譲治が笑いワープホールへと足を運ぶ。

 その間にアルマンドはドアに『面会謝絶』のプレートを付けた。


(さぁて、ク~ミコちゃぁんはどういう風にしてやろうかな)



 ────HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAッ!!

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