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カタギリ、処刑執行!

「僕はこの異世界の技術を元の世界に持ち帰る。日常生活に使うとかそんなんじゃない。魔術の力があれば、医療がどれほどの発展を遂げるかわかるか? たとえ重症でも瞬時に回復が可能。さらに研究を進めれば、認知症だろうと癌だろうと、人間を脅かす数多の障害への対応が容易になる。いつできるかもわからない薬を待ち続けたり、効いているのか効いてないのかわからないような薬を飲み続ける必要もなくなるんだ。────僕はここでくたばるわけにはいかない! 僕は帰らなければならないんだ。わかるか? 数百万人、数千万人もの人間が、僕の帰りを待っているんだよ! そのためには畑中譲治、……お前は僕らの思惑通り、犠牲にならなくてはならないんだ!」


 カタギリは思いの丈を述べると、荒い呼吸を繰り返しながら曇った眼鏡を直す。

 世界を救おうなどというメサイヤ意識に駆られた死霊術師は、完全に他者への罪の意識を失っていた。


「さぁ畑中! 殺されろ……今すぐここで僕に殺されるんだ。お前は死ななくちゃいけない。お前という罪人が十字架に掛けられた暁にこそ、元の世界に真の夜明けがやってくる! 僕は、……僕は地球に新たな希望をもたらす光の騎士だ!!」


 両手を広げ、天を仰ぎながら高らかに宣言したカタギリだったが、肝心の譲治からの反応が一切ない。

 怪訝な表情で視線を向けると、なんとそっぽを向いて欠伸をするような動作をしていた。


「畑中貴様、聞いているのか!?」


「え? あぁ、うん。大丈夫聞いてたよハイ。いやぁまったく深いテーマだな。人生というものを考えさせられるよ。俺でなきゃ聞き逃しちゃうね」


「お、お前自分が今どんな状況に立たされているのかわかっているのか!?」


 怒ったカタギリは魔力を込めてエネルギー弾を作り出す。

 これだけのレベル差があれば、一発でも当たれば致命傷だ。


「死ね、畑中ァァァアアアッ!!」


 激昂した状態で畑中に攻撃を仕掛けようとした直後、背後から強い衝撃を受ける。

 二振りの剣を持った聖霊兵が、後ろから奇襲を仕掛けたのだ。


 高らかな演説をしている間に、譲治は背後に兵を忍び込ませ、機を伺っていた。

 カタギリが冷静さを失ったお陰で、完全に作戦は成功する。


 聖霊兵に抑えられ、反撃はおろか身動きすらとれない状態になったカタギリ。


「詰めが甘いな。俺に一手取られるようじゃ、元の世界に戻っても結果は出せそうにないな」


「な、なん……だと。後ろから、攻撃だなんて……こ、コイツは一体……」


「ホーリー・クイーンに逆らう愚か者(ハーレイクイン)にはお似合いの姿だ。おっと、まだくたばるんじゃないぞ? ここからがお楽しみなんだ」


 譲治はカタギリに近づき、例のコインを取り出す。

 

「さぁ決めよう。────苦痛か、恐怖か」


「ま、待て。なにをする気だ」


「お前の末路をこのコインで決める。自分は死の支配者とでも思っていたか? 誰にも殺されないと。いいや違う。誰も死をコントロールなんかできちゃいないさ。……()()()()()()()


「ひとり、……まさか、大久保真理亜か」


「違う。彼女よりも、もっと恐ろしく美しい(ヒト)さ」


 そう言うや、譲治は間髪入れずコイントスを行う。

 掌に乾いた音を立てて収まったコインの感触を確かめながら、譲治はカタギリに見えるように手を開いていった。


「出た面は、天使……。────恐怖を(フィアー)!」


 譲治は片足で器用に飛び退く。

 次の瞬間、女性の悲鳴が耳の奥に響いてきた。


 ひとり、ふたりと徐々に増えていき、ついには鼓膜が破れんばかりに人数と音が増幅していく。


「な、なんだ……なんだこれは。なんなんだぁあ!!」


 一気に音が消えたと思えば、カタギリは別の場所にいた。

 元の世界にあるだろう廃病院だ。


 隙間から吹き抜ける風の音が、モンスターの唸り声のように不気味に響く。

 なにがなんだかわからない状況で、カタギリは彷徨い歩くも、出口は一向に見つからなかった。


 それどころかこれまで使っていた魔術すらも使えないので、余計に緊張が高まる。

 アンデット系の扱いなどお茶の子さいさいといった死霊術師が、今ではただの臆病な少年に戻ってしまった。


「なんだ。ここは、一体」


 怯えながらもある一室のドアを開ける。

 無数のベッドが並び、その上に遺体が寝かされていた。


 カタギリが可愛がっていた美女美少女の死体たちだ。

 中へ入り見渡すが、あの山にいるときのような劣情はわかなかった。


 急いでこの部屋から出ようとするも、扉はなくなっており、完全に隔絶された空間になってしまう。

 カタギリは恐怖と混乱の中でゆっくりと後ろを振り向くと、思わず叫んだ。


 死んでいるはずの女性たちが、上体を起こし、目を見開いてじっとカタギリを見ている。

 そしてドロリドロリと肉体が腐って、ついにはゾンビのようになり、腐臭と呻き声を巻き散らしながらカタギリに迫ってきた。


「あ、あぁああ!! あぁあああああああッ!!」


 逃げようと部屋中を走り回るもあまりの人数にすぐに捕まった。


「うわぁああ! 許して、許してくれぇええええッ!!」


 いくつもの手がカタギリを掴み放そうとしない。

 力任せに身動ぎをするも物量で封じられてしまう。


 噛み付かれ、引っ掛かれ、千切られて、徐々に自分が自分ではなくなっていく。

 そんな感覚がカタギリの精神を支配し、もうどうしようもなくなった。


 視界も暗くなり、精神が体感時間を停止させる。

 まるでテレビを切ったときのように、ブツンと、彼のすべてがこの瞬間なくなった。


「ハーレムエンドか。お前は幸せ者だなカタギリ。……おっと、もう聞こえちゃいないか」


 すべてはカタギリが見た絶命に至る幻覚。

 カタギリは糞尿を垂れ流しながら、酷い形相で倒れ伏している。


「さて、残り3人。……おい、カタギリの首斬っとけ。持って帰るから」


 聖霊兵に命令し、首を斬り落とし、魔女の工房にあった専用のケースにいれる。それをアイテムボックスに収納し、一息ついた。


「ふぅ~、今回は強敵だったな。主に山道が。俺をここまで苦しめたんだから大したもんだハハハ」


 直後、山が大きく揺れた。

 ところどころにヒビが割れ、内部から爆炎が立ち上る。


「え~っと、これどういう状況?」  


『どういう状況もクソもねぇぞ。どうやらカタギリの奴。もしも自分が死ぬようなことがあれば山ごと殺した奴を消し去るつもりだったらしい』


『あと死体の女を抱くっていう黒歴史もあるからね。それの処分でしょうな』


『黒歴史処分は人の避けられない定めか。考えさせられるなウン』


『いや、あの、すんません。なんとかできませんかね? 今の俺じゃとてもじゃないがこの状況は』


『任せろ。こういうときのためにプランBを用意している』


『どうするんです』


『譲治、────飛ぶぞ』


『は?』


 困惑する譲治を余所に、アルマンドは遠隔操作でなにかをし始めた。


『オレが作ったその衣装には空が飛べるようにアルマンド特製ジェットシステムを取り付けてある。初回限定サービスだ。操作方法あとで教えるから次からは自分でやれよ』


 次の瞬間、プロテクターの胴部の背後から機械音が響く。

 翼のようなものが開き、グリップが右脇から前に伸びるように出て、そこから軽いジェット噴射が起こった。


『なんスかこれ!? 物理法則どうなってんだよ!?』


『うるせー! 魔女にまともな物理法則なんか必要ねぇんだよ!! さぁカウントダウンしてやるから、グリップをしっかり持て』


 言われるがまま譲治は、呼吸を整えカウントダウンを待った。


『Ten,Nine,Ignition sequence start』


 アルマンドがカウントダウンを始めた。


『Six,Five,Four,Three,Two,One……』


 カウントダウンとともに天を見上げ、発射に備える。


『All engine running,……Lift off! We have a lift off!!』


 ジェット噴射が強烈なものになった直後、フワリと身体が浮く。

 そのまま上空高くまで高速で上がると、高速で別の方向へと飛んでいった。


 譲治の背後ではあの山が爆炎を上げながら、崩れていく。

 しかしそれを確認する余裕などない。


 あまりの速さに、譲治は軽いパニックを起こしていた。


『でぇじょうぶだ。すぐに慣れる』


『慣れるか!!』

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