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蘭法院綾香たちの最後

 アルマンドとの念話を終えた数分後、譲治は蘭法院綾香らに砦の裏まで連れ込まれていた。

 

(まーそろそろ実力行使に来るんじゃないかとは思ってたが)


 譲治は壁にもたれかかりながら4人に囲まれる。

 逃げ場はないが、4人には確かな油断があった。


 人数やレベル差からすれば誰がどう見ても、このあとの展開はリンチ確定とわかる状況下で、譲治は涼しい表情をしている。

 それが気に食わなかったのか、蘭法院綾香の平手打ちが右頬に入った。


「……いっでぇ、オイまだなんもしてないだろうが。のっけからひとり相手に集団でそういうプレイか? ヤダ、お盛んね」


「お黙りなさい! プレイなどと、なんて汚らわしい言い方!」


「でもアンタ戦場で男相手にかなりそういうのやってるって聞い……────ッ」


 顔を真っ赤にした蘭法院綾香からの物凄いパンチを腹に喰らった。


「────……たんだけど?」


「まったく口の減らない男ね。生意気にもほどがありますわ」


「ハハハ、生意気は俺の数少ないチャームポイントだか……────ッ」


 今度は左頬に平手打ちが走る。


「────……悪かった。もう叩かんといて。俺のプリティフェイスが……おぉっと! やめろ! わかったよ。話聞くよ聞けばいいんでしょ」


「いい加減になさい畑中譲治! この薄汚い罪人め! アナタが魔王軍に情報を流し、この砦で殺人行為を繰り返しているのはわかっていますのよ!」


「だから証拠不十分だってばさ」


「なら、吐いてもらいましょう。時間はたっぷりありますわ。フフフ」


 4人は譲治を拷問する気だ。

 今大抵のクラスメイトたちは任務などで出払っている。


 真理亜もクランの世話で離れているのでそこからずっと離れた裏では、感知も難しいだろう。

 そこで4人は譲治を痛い目に合わせて、嘘でもなんでもいいので、"自分が犯人だ"という証言をさせようとしていた。


 ゲーム感覚でしかも犯人が捕らえられるとなれば、彼女らの愉悦は計り知れないものだろう。

 蘭法院綾香は拷問のスキルも持っており、その才能は城の拷問係すら一目置くくらいだ。


「やっぱりそういうプレイがしたいんじゃないか。結局俺の身体目当てかよ下衆め」


 今度は右足の甲をヒール部分で思い切り踏まれる。

 譲治は涙したが、面頬の効果ですぐに引いた。


「……随分と落ち着き払っていますわね」


「落ち着いてるっていうか。あのさ、俺こう見えて忙しいのよ。これから北の山に行かなきゃいけないの。おわかり? ホラ、俺の時計見てみろこんな時間だよ。だから急いでんの」


 そう言って、右腕を見せるとそこには腕時計らしきものが備わっていた。

 だが肝心の時間が見えないので、蘭法院綾香は怪訝な表情をしながら覗き込んだ。


「時間見えない? 嘘やん。ほら、ここだよここ」

 

 そう言って指を差して、彼女の視線をそこに集中させた直後。


  ────ブシュッ!!


 腕時計から空気の噴出音とともに、緑色の霧状のものが蘭法院綾香の顔面に吹き付けられた。

 これは腕時計にみせた暗器のひとつで、アルマンドの工房にいるときに作った物のひとつだ。


 蘭法院綾香は思わず目をつむり顔を覆う。

 次の瞬間、目と鼻に鋭く染みるような激痛が頭を割るような勢いで走った。


「────ッ! ────ッッ!?」


 叫ぼうとしたが、声が出ない。

 まるで首を絞められたように漏れ出る小さな濁声のみが外へと出る。


「ひぃい!?」


「ら、蘭法院さ────」


 取り巻きが駆け寄ろうとした直後、彼女らの首筋に刃が当てられていた。

 譲治がすかさず聖霊兵たちを召喚したのだ。


 取り巻きたちの各々のレベルは確かに高いものの、聖霊兵のレベルには及ばない。

 のたうち回る蘭法院綾香の傍で、突然の形勢逆転に震える取り巻きたち。


「あー、あー、あー……大声は出すな? 出そうとした奴の首は速攻で落とす。さて、さてさてさて。これ以上お前らに絡まれるのは面倒くさくてかなわん。よって、計画を早める」


「嘘、【レベル250】って……」


「なによコイツら……畑中にこんな力あるなんて聞いてない……」


「ひぃ、ひぃい……ッ」


 畑中譲治は杖を上手く使いながら、痛みに耐えてうずくまる蘭法院綾香の顎をグッと持つ。

 目を開けることも口を利くことも、力を込めて反撃することもできない完全な無力状態の蘭法院綾香。


 そんな彼女を見て、取り巻きたちは絶望と恐怖の表情に歪む。


「計画ってなによ。私たちをどうするつもり……!?」


「まさか、これまでの仕返しとか」


「違う」


「じゃ、じゃあなにを? というより、アナタなにを企んでるの……!?」


「俺の企み、かぁ。言いたくないが、今ひとつ思い出したことだけ言うわ」


 そう言って取り巻きに冷たくこう言い放った。


「実を言うとさ、計画にいるのはこの花京院……じゃなかった、この蘭法院ひとりだけなんだよ。よくよく考えたらお前らいらねぇんだわ。てなわけで、死んでくれ。遺体はコイツらに処理させるから人知れずいなくなったことになれるぞやったね」


 そう言って合図を仕掛けた直後、怒涛の勢いで譲治に命乞いをしてきた。

 これには譲治も思わずバランスを崩してずっこけそうになる。


「待って待って待って。私はただ蘭法院さ……いえ、その女にくっついてただけ。言うこと聞かなかったらこっちがいじめられるから友達のふりしてただけなの。だから、だから助けてお願い」


「そ、そうよ。アタシだって本当はアンタを犯人だなんて思ってなかったんだから。無実だって心から信じてたよ。でもコイツのせいで話がこんがらがっちゃったの。これからはもう大丈夫。アンタを邪険になんかしないから。だから、ね?」


「譲治君も、女の友情の怖さっていうの聞いたことあるでしょ? もう、それなんだよ。だからお願い。許してくれたら、私譲治君のためになんでもするよ? これまでの罪滅ぼしだよ。……その、蘭法院さんをどういう風に使うかは知らないけど、きっとそのヒトじゃ譲治君を満足させて上げられないよ? でも、私ならできるよ? だから……」


 3人とも目に涙を浮かべて懇願する。

 譲治は冷めた瞳でそれを見ながら、面頬の中でほくそ笑んだ。


「ん~、どうしようかねぇ? うわ~こんな可愛い女の子たちにせがまれたら心が揺らいちゃうな~どうしよぉ~。よぉし、ボクちゃん、皆にチャンスをあげちゃうぞぉ~」


 わざとらしくおどけて見せながら、ポケットから取り出したのはあのコインだ。


「コインで決めよう。コインはいいぞ? 男も女もない、実に公平フェアだ」


「え……」


邪竜おもてが出れば殺し合いで生き残ったほうをどう使うか、ちょいとだけ考えてやる。だが天使うらが出れば3人同時に斬り捨てる」


「ちょっとなによそれ……!」


「待ってよねぇ! いくらなんでもそれは……」


「残酷な運命であるかどうかを決めるのは俺じゃない。────このコインだ。この場はすでにコインの支配領域となった」


 有無を言わせぬ速さでコイントスがされる。

 回転するコインが宙で唸りを上げて、譲治の掌に戻った。


 乾いた音とともに閉じられる手。

 3人が息を吞む中、ゆっくりと開かれる掌の上に見えたのは邪竜だった。


 譲治は面頬の中で薄ら笑いを浮かべながら、もう1体召喚を行う。

 聖霊兵が3人の前に1本の剣を突き刺すと、蘭法院綾香の身体を担いだ。


「ルールは簡単。どんな手を使ってもオーケー。剣は使いたきゃどうぞ。……さぁ、やれ」


 譲治は踵を返し、蘭法院綾香を担いだ聖霊兵とともに歩いていく。

 背後では譲治でもドン引くほどの罵声や金切り声が響き渡り、凄惨な殺し合いが始まっていた。


 思わず2度見しかけた。

 呆れたように肩を竦めながら、聖霊兵に指示を出す。


「蘭法院綾香は……気を失っているな。このまま誰にも見つからないように俺の部屋まで運べ。部屋の中にスキル封じやらが付与された捕縛縄があるからそれで縛るように。猿ぐつわも忘れんな? それが終わったら戻っていい」


 聖霊兵はその通りに動き出す。

 溜め息交じりに、もう一度あの3人のほうを見ると、どうやら戦いは終わったようだ。


「え、へへ……じょ、うじ、くぅん……わた、しぃ……えへ、勝った、よぉ」


「そうか、おめでとう。……えー、厳粛なる選考並びに熟考の結果、誠に申し訳ありませんが採用を見送らせていただくこととなりました」


「へ……?」


「来世でのご活躍並びにご健勝を心からお祈り申し上げます殺せ」


 その場にいた聖霊兵たちがその取り巻きのひとりに止めを刺した。

 

「ブラック企業ならオタクみたいなの雇ってくれるかもだけど、残念ながらウチは死人が出て当たり前のブラッド企業なんだよなぁ。面接の地点で基本的人権の尊重とかは一切ないのでもう来世に期待してねバカ。……よし現場の清掃だ。跡形も残すなよ? 掃除は人生の基本だから。さぁて、アルマンドさんに連絡だ」


 譲治はウキウキとした気分で念話をする。


『アルマンドさん。無事厄介事終えましたよ』


『おう、意外に早かったな。じゃあ、北の山行くか?』


『はい、部屋まで行きますのでちょいとお待ちを』


 譲治は歩き出す。

 建物の中に入り、廊下を歩いていると白いワンピースに身を包んだクランと出会った。


「おう、風呂にも入れてもらったらしいな。見違えたな。大久保は一緒じゃないのか?」


「……フフフ、じょーじ、いけない人」


「あん?」


「じょーじ、わたしも、……さらっちゃう?」


 クランが薄ら笑いにも似た微笑みを浮かべた瞬間、その姿は消えていた。

 視界にノイズが走ったかのような感覚を覚えたが、今は問題はない。


(可愛い奴め。お前とはたっぷりと話をせにゃいかんな)


 譲治はくぐもった笑いを漏らしながら、部屋へと戻った。

 部屋の隅に厳重に縛られている蘭法院綾香。


 そして、ワープホール。


(さぁて、行きますか。次はお前だ。"カタギリ"!)


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