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蘭宝院綾香との接触、そして新たなる企み

次話、12/8を予定しております

 次の日、雨と暗雲は消え去り、快晴の空が王国中に広がっていた。


 譲治は真理亜たちの反対を押し切って砦内で働き始める。

 仕事といってもできるのは薬草を育てたり、摘んだり、それを調合したりする仕事だ。


 自分にできることをやろうとしている譲治の姿を見て、誰も文句は言えなかった。

 その姿はかつての譲治と同じだったから。


 たとえ弱くても自分のできることを全力で取り組み、少しでも皆の支えになろうとする。

 その姿に、涙する者もいたほどだ。


 ────誰もが、復讐のために彼がここに潜り込んでいるとは知らずに。


 杖を上手く使ってしゃがみ、薬草を摘んでいるときだった。

 4人ほどの女子グループが譲治のほうまで歩いてくる。


 譲治は顔も視線も向けず、ただずっと作業に打ち込んでいた。

 だがそれに水を差すようにグループのリーダー格が不遜な態度で話しかけてくる。


「あらあらあら……裏切り者の畑中譲治さんじゃありませんか」


 彼女の名は『蘭宝院綾香らんほういんあやか』といい、元の世界における名家のお嬢様。

 いつも取り巻きを傍に置き、人一倍プライドが高く、自分以外の人間をよく見下す癖がある。


 大鎌使いで【レベル679】という実力者にして、戦場においては圧倒的なサディスティック・バイオレンスを披露するのだ。

 学校での関わりはほぼないに等しいにも関わらず、譲治に話しかけてきたのには理由があった。


「大久保さんに無実の罪を晴らしていただいたんですって? ちゃんとお礼は言いまして?」


「……」


「無視はいけませんわね。これだから犯罪者は……。いいですか畑中譲治さん。私、アナタが我々を裏切り情報を魔王軍に流した張本人と思っていますから。アナタのような下賤な低レベル者が裏切りを考えるのは、正直な感覚として自明の理ではないかと思うんですよねぇ」


 縦ロールに整えた金髪をいじりながら、黙々と作業をしている譲治に冷たい視線を送る。

 取り巻きの女子たちもクスクスと笑って譲治を見下ろしていた。


「あの5人は皆真実を言っていたと思っています。そして牢獄に囚われている哀れなクラスメイトたち……ハァ胸が痛いですわ。こんな男のために、彼らが無実の罪で酷い目にあっているのですから」


 つまり綾香はイズミたち5人と数人のクラスメイトこそ無実の罪で罰せられていて、譲治は完全な悪人として認識しているらしい。

 どのような思考回路でその結論になったかはわからないが、自信満々に語る姿には一種の感心すら覚える。


「左足を失ったのを見せて皆から同情を誘っているおつもり? なんて浅ましい。裏切り者の分際で厚かましいにもほどがありますわ。ねぇ皆様?」


「えぇ、蘭宝院さんの言う通りよ」


「ホント、あのままくたばってればよかったのに」


 取り巻きたちの反応に、さらに機嫌を良くした綾香は高笑いを響かせた。

 しかし譲治の反応が全くないため、綾香は少しつまらなそうにする。


「……ちょっと、なにかおっしゃったらどうなの? 言い訳くらいなら、聞いて上げましてよ。私の寛大な心に感謝なさい」


 ここでようやく譲治は綾香に視線を向ける。

 睨みつけるわけでもなければ、涙ぐむわけでもない。

 

 ()()()()()()()()()()()宿()()()()()を瞳に宿して見ていた。


「なんですのその目は。……まぁ、見てごらんなさいなこのマスク。なんて品のない……この男の性根の腐り具合を如実に表しているかのような」


 さらに嘲笑を続けようとした直後、背後から大久保真理亜が現れたのを察して一瞬肩を震わせる。


「なにをやっているの蘭宝院さん?」


「お、大久保さん……なんでもありません。ただちょっとご挨拶を」


「そうは見えなかったけど? 君のことだ。どうせ自分より下と思う人を選んで見下してるんだろう? いつもみたいに。で、今度は畑中君か。性根が腐っているのはどちらだろうね」


「ぐ……ッ! ちょっと弁が立つからって偉そうに! 私はこの男の無実を認めたわけではありませんの。こんな裏切り者の下級人間、さっさと殺すべきですわ」


「じゃあ彼のどこに有罪性を見出したの? 感情論じゃなくて論理的に証明してみせてよ」


 犬猿の仲という言葉すら生温い熾烈な戦い。

 綾香は真理亜とは前から反りが合わず、なにより自分を差し置いてこの砦におけるNo.2という立場にいることが気に入らなかった。


 歯を食いしばりながら睨みつける綾香と冷たい表情で見据える真理亜。

 綾香に譲治が罪人であるという証拠も、それを証明する論理性も持っていない。

 しばらくの睨み合いのあと、綾香と取り巻きたちは悔しそうに立ち去っていった。


「大丈夫、畑中君? なにか、言われた?」


「まぁ……」


「気にしないで。彼女たちだけさ。皆は君が無実だって思ってる。……君はなにも悪くないんだから」

 

 真理亜は優しく微笑みかける。

 譲治は立ち上がり、ふと、不機嫌そうにして歩いていく蘭宝院綾香の背中を見た。

 

 そしてその視線を真理亜に向ける。

 視線に気付いた真理亜は小首を傾げた。


「あの、どうかしたの? もしかしてどこか痛む?」


「いや別に。……へーへへへへへへ」


「は、畑中君……?」


 譲治の様子に真理亜は思わず一歩退きそうになるが、ぐっと堪える。

 譲治は真理亜から視線を外すと、妙な笑い声を発し始めたのだ。


「あ~、うふふふ……ごめんごめん。ちょっと面白いことを考えてたんだ」


 そう言って譲治は摘んだ薬草を持って歩いていく。

 記憶の中にある譲治と比較する真理亜は、彼の変化にやるせない思いを感じていた。

 その場に立ち尽くしながら、賢明に杖を動かし進んでいく譲治を見守ることしかできなかった。


(畑中君、そう、だよね。あんなことがあったんだもの……精神的に参っててもおかしくない。今はそっとしておくほうがいいのかも。あぁ、ボクにもっと力があれば……彼の心にもっと寄り添えられたかもしれないのに)


 真理亜は譲治とは反対方向へ向かうように歩いていった。

 彼女はまた、残り4人の行方を数日かけて探すことに。


 人間離れした足運びでの跳躍や疾走で、この大地を駆けていく。

 魔王軍との戦いは今やこちらが優勢のものになっていた。


 あれからなんとか持ち直し、魔王軍を徐々に追い詰めていった。

 魔王討伐の日は近い。


 その前になんとか見つけ出さなければと、真理亜は内心焦っていた。

 彼女が砦から完全に離れたとき、譲治もまた動き始める。


『アルマンドさん。復讐をする上で駒を作るのはオッケーですか?』


『駒か。そこらへんの調整は好きにやれ。しかし、なんのために?』


『もしかしたらの保険ですよ。この通りの片足だ。戦闘は確実に避けれるようにはしたいですがね。もしもってことを加味して、ひとり丁度いいのを雇いたいんですよ。……てか、操る?』


『いいだろう。で、その名前は?』


 アルマンドとの念話の最中、白銀の髑髏の面頬の中でくぐもった笑みを浮かべる譲治。

 

『────蘭宝院綾香。これ以上ないくらい適任です』


『ほう、お前ひとりでできるか? ソイツもかなりの実力者だったはず。なにか頼みたいこととかあったらまた連絡してこい』


『わかりました。じっくりやりますよ。3日後くらいに何人かこの砦で殺ります。お楽しみに』


『……愛してるぜ譲治ィ』


 こうして念話を終えた譲治は早速作業に取りかかる。

 薬の調合の際、ある細工を加えた。


 プロテクターに備えられたスイッチを押すと、脇腹あたりの部位から液体の入ったケースが出てくる。

 スキル【魔女の叡智】により作り出した薬品だ。


 それを密かに混ぜ合わせ、ある人物たちの処方箋や食事の中に投入する。

 骨の折れる作業だが、すべては上手くいき、その3日後に効果が現れた。


 ────かつて報酬を受け取ったクラスメイトの生き残りたちが獄中で謎の病を発症。

 すぐに治療室へと運ばれ、獄中ではなく、そのベッドで眠ることとなった。


 その深夜の出来事だった……。


 謎の病に苦しむクラスメイトの下に、杖の音を響かせながら譲治が現れる。


「よぉお前ら、パジャマパーティーの時間だ」


 手には月光にて妖しい光を宿す1枚の邪悪なるコイン。

 真理亜がいない間に、譲治はまたしても復讐に手を染めていく。




 

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