第90話 支援
結界の外に出た俺は、サタンの言っていたゲノスの1人を探していた。
周囲に群がる悪魔達。
かなりの数だが何の問題もない…俺の周囲には超高出力のマイクロ波が常時発生している。分かりやすく言えば、電子レンジだ。
俺の周囲15m以内に近付けば体内の水分が一瞬で沸騰するのだ。
雑魚の群れを意に介さない俺の前に、1人の悪魔が立ち塞がった。
見た目は、若く躾の行き届いたイケメン執事といった感じだ。
蝙蝠の様な羽が生えているから判るが、それを除けば、とても悪魔には見えない。
《おやおや、魔王の国以外にも活きのいい奴が居るじゃないか!わざわざやって来た甲斐があったよ》
「お前がゲノスの1人か?」
《その通り…私はゲノスの1人、序列7位のメフィスト…》
「おい!忙しいから名乗らなくていいぞ!!」
メフィストフェレスだと言いかけて、言葉を遮られた悪魔の意識は突如断たれてしまう事となる。この悪魔が最後に感じたのは
”隕石?”
これは、メフィストフェレスの脳が一瞬感じたイメージだが、実に正確に的を射ていた。
グルナは急いでいた。
オルフェと刹那を追いかけ、ヘルモス王国へ援軍を送らなくてはならないからだ。
その状況で放たれた拳の速度は、実に時速6.8万km。
音速の52倍である。
それは、奇しくも悪魔のイメージした通り”隕石”が地上に落下する速度と同じであった。
その速度の拳は闘神化のスキルと僅かに雷霆の破壊力が上乗せされ、悪魔の上半身を吹き飛ばしたのである。
勿論、それだけでは無い。
そんな速度で空気中を移動し、物体に衝突した拳から発生する衝撃波は周囲の悪魔の群れを襲う。
メフィストフェレスに危険人物を任し、結界の破壊に全力を挙げていた悪魔の群れは吹き飛ばされ、結界に押し付けられる。
アイギスは意志を持つ結界である。
張り付いた悪魔達は食虫植物に捕食される虫の様に破邪の盾に捕えられエネルギーへと変換され消滅したのだ。
「セレネ、国の防衛は任せたぞ!俺はオルフェを追う!何か分からないが嫌な予感がするんだ…」
《お任せ下さい!》
「カラ!ヘルモス王国へ行きケルベロス達を支援しろ!絶対に死ぬんじゃないぞ!」
《グルナ様もどうかご無事で!》
まだ転移魔法門は使えない。
カラはガーゴイルとハーピーを数名率いて飛び立って行った。
グルナはディーテにクサントスを召喚してもらい、オルフェを追う。
(オルフェ…お前は一体何をやってるんだ!!)
………………………………………
グルナとカラが出撃した後、ディーテはヴィエン王国と連絡を取っていた。
《おー!悪魔の将軍を退けたか!!流石じゃ!!》
『争ってる王国軍と貴族軍に伝えるのだ!
グルナはサタンを討伐しに出撃した!我々が争う必要は無いのだ!』
《ふむ、早速伝えよう!!》
ヴィエン王国は、これで問題無い。
プティア王国は王族も貴族も何があっても魔王を信じると表明していた。島の魔王デメテルと魔導師達が協力して、強固な万能結界を構築しているのだ。問題無いだろう。
アザゼルも無事に反乱軍を制圧した様だ。
そんなディーテにオルガからメッセージが届く。
”反乱軍に首都を包囲されてしまった!援軍を送って欲しい!”
『…アレス!出動だ!!首都を包囲している反乱軍を制圧するのだ!』
《ウスッッ!!》
グルナ、カラに続き軍神アレスがビトラス製の専用武器を装備し森の国から出撃したのだ。ミノタウロスの配下も数十名率いている。
(みんな無事に帰って来るのだぞ!)
北の連邦国の南から北上し、首都を目指すアレス達。
漸く首都が見えて来たが、そこに居たのは反乱軍だけでは無かった。
悪魔も居たのだ。
(悪魔の大群も居やがる!!)
しかし、漢アレスは動じない。
《軍神アレス!参上なりィィーー!!!》
ディーテにオルガから再度メッセージが届いた。
”突如悪魔が現れた!長くは持ちそうにない!”
だ。
『不味いな…アレスが危ないかもしれない…』
《ディーテちゃん?ヒュドラを向かわせるわ!》
『エキドナ!頼む!!』
ヒュドラが北の連邦国首都を目指し移動を始めた時、アレスは苦戦していた。
無双していたが、反乱軍だけでもかなりの数。そこに悪魔が追加されているのだ徐々に押されている。配下のミノタウロスも悪魔に圧倒され、その数を減らしていた。
(雑魚の悪魔は弱ぇが数が多過ぎる!このままじゃヤベぇ!!)
悪魔の放つ魔力弾に一瞬気を取られてしまったアレスに、呪印が刻まれた矢が襲い掛かる。
反乱軍が放った矢だ。
その矢は、アレスの肩に突き刺さり麻痺の効果を発揮する。
更に追撃の槍、剣、矢が次々とアレスの体に突き刺さる。
《………漢アレス様を……この程度で殺れるとおもうなーーー!!!!》
《うるさいよ》
《……………?》
閃光がアレスの心臓を貫いた。
その場に居たのは、ゲノスの1人。序列6位のアバドン。
膝から崩れ落ち、意識が薄れていくアレス。
(ディーテ様…申し訳ありません…)
ディーテはアレスとの心の絆が切れるのを感じた。
(……アレス!?)
軍神アレス 死亡。