第87話 混乱の渦
人口約400万の新興国アグロス国は終わった。
国民の大半が悪魔と化したのだ。
何とか脱出した者が居たが僅か数名という惨事…
呆然とする俺達にサタンは語りかける。
また、各国の上空に映像を送ったのだ。
《楽しんでもらえたかな?約束通り、国を1つ支配したぞ?
我々の支配に抵抗するも良し、大人しく家畜となるも良し。選り取りだ。
今後、我々は現統治者である”魔王”達を消して行くつもりだ。
しかし、魔王諸君は強大な力を持っているそうじゃないか!そう聞いているぞ
我々は、そんな魔王諸君を非常に恐れているのだ。なので…人間達に魔王諸君の相手をしてもらおうと思っている》
コイツ何言ってんだ?
人間に魔王を始末させるって事か?
《人間達よ!一致団結すれば活路はあるぞ?
我々が支配した国の民を見てみるがいい。
この様に成りたくなければ、魔王を討ち取るのだ。
私に、魔王の亡骸を届けるのだ。
1ヶ月後、また会おう》
(何が選り取りだ…2択じゃねぇか!ふざけやがって!!)
しかし、前回と同じなら1ヶ月間は悪魔は動かない。
数日後、森の国に各国の王が集まっていた。
少し前まで、魔王は邪悪な存在だと思われていた。しかし、森の国の出現によって人間の国と魔王の国とで交流が始まった。まだまだこれからという部分はあるものの、互いに良い関係を築いていける未来が見えているのだ。
各国の民、その反応は様々だった。
国を出る者…
恐怖し泣き叫ぶ者…
魔王を討ち、悪魔に捧げるべきと叫ぶ者…
魔王達が悪魔を退けると信じる者…
《コルヌコピア王国は悪魔の言いなりにはならぬ。ディーテが国を興してから、アルトミアやオルフェと良い関係を築けておるのだ》
《妾も同感じゃ。巨神族との戦いでソフィアが我が国の民を受け入れてくれなければ、どうなっていたか…》
各国の王…特に人間の国の王だが、魔王達を信じ、魔王では無く悪魔を打倒する為に備えさせている。
国民の中には、様々な感情が渦巻いているだろうが、何とか抑えているという状況だ。
《悪魔の本拠地はアグロス国…総攻撃を仕掛けてはどうだ?》
オルフェとしては、悪魔の拠点が1つの今、ケリを付けるべきと考えているのかも知れない。確かに魔界から新たな軍団を呼び寄せる前にサタンを始末して早期に決着を付けたいのだが…
それは恐らく無駄に終わるだろう。
アグロス国にサタンが居るのか?
ミダスの言っていたゲノスの呼ばれる魔将達は”そこに”居るのか?
残念だが、何一つ確かな情報は無いのだ。
アグロス国を壊滅させた悪魔は数百万。
一般の兵士達では手に負えない…北の連邦国戦で人間の兵士が何百万居ようと無意味だった様に。
仕掛けるなら、主戦力として魔王達の力が必要なのだ。
一般の兵士は飽くまでもサポートとなる。
王を前線に送るのか?
敵の王や魔将が居るかどうかも分からない前線に?
”そこに”居なければ、徒労に終わるだけでは無い。損害も出るのだ。
仮に、アグロス国に居るサタン以外の悪魔を掃討出来たとしても、それを補う様に何処かの国が悪魔の国に変わるだけだろう。
ジリ貧だ。
『どうしたらいいんだ…困ったぞ…』
「敵の主力を確実に撃破していきたいが、情報が無さすぎるな。居場所の特定に全力を挙げたい」
《グルナよ!頼んだぞ!》
「あぁ、最善を尽くすよ」
悪魔は人間を皆殺しにするつもりは無いと言っている。ならば人間の国全てが悪魔に受肉されて壊滅する事は無いはずだ。
このままサタンを発見出来なければ、動かず悪魔から仕掛けて来るのを待つ。
そして、1ヶ月後がやって来てしまった。
《皆の者、久しぶりだな。
おや?人間達、お前達は何をしておるのだ?
何もしていないではないか…非常に残念だ。だが、我々さえも怖気る魔王が相手では無理もない…そう思うとしよう。
そこで、もう少し簡単な課題を出す事にしたのだ。
私は強く美しい肉体を欲しているのだ。検討した結果、ネモフィラ連邦国という国に居るオーガ族の姫が最適だと解った…
人間達よ、オーガ族の姫を私に捧げるのだ!
私の望みを叶えた者は幹部として引き立ててやるぞ?
生死は問わぬ!我が国に届けるのだ!》
(何だって!?
なんて事だ…刹那が狙われるなんて…)
『グルナ!刹那が狙われてしまった!』
「セレネ!国全域に結界を展開させるんだ!侵入を遮断しろ!」
その頃、ヘルモス王国では。
《オルフェ様、刹那姫が危険では?》
「ケルベロスよ、案ずるな!森の国は統制が取れている。幹部も優秀だ。
何よりグルナが居る…必ず刹那を守り抜くだろう。
民に伝えるのだ!我らの敵は悪魔のみだ!悪魔に肉体を捧げ強化してしまうなど本末転倒ぞ!俺が必ず悪魔を討ち取るとな!!」
オルフェは怒りに震えていた。
数日後。
人間の国…エトリア国、コルヌコピア王国、北の連邦国では冒険者や貴族達が武装し、ネモフィラ連邦国へ向かう準備を始めていた。
その動きは、軍の兵士達にも広がって行ったのであった。
しかし、事態はそれだけに留まらない。
徐々に人間の煩悩が溢れていくのです(´°д°`)