第86話 混乱の種
ミダスを拘束してから1ヶ月が過ぎた。
2度目の世界は悪魔に滅ぼされたのだ。その悪魔が今、何処かに潜んでいる。
しかし、今はそんな事を感じられない程に平和なのだ。
地球では、この様な状況を”嵐の前の静けさ”と言っていた。その様な状況に何度も遭遇した経験からだろうか、俺の眠りは浅い…
国境の警備は地上部隊と飛行部隊から2個旅団程の兵力が当たっている。
『グルナ!見回りしてくれてる皆んなに差し入れ持って行きたいぞ!何がいいかな?』
「そうだな…警備は3交替。勤務が終わった兵士は次の勤務まで時間があるな!材料を見に行こう」
今回用意するのは、ピザだ。
クラストを作る係、トッピングをする係、焼き係として人手を募集する。
トマトソース、ナスとチーズ、サラミモドキや森の国で人気の具材を、薄く延ばしたクラストにトッピングするのだ。
《よぉ、グルナ。久しぶりにお前と仕事だな》
口は悪いが可愛い水の精霊達もやる気だ。
ニンフや精霊達、それに刹那とアザゼルも集まり、作業開始だ。
俺がクラストを準備する係になったのは言うまでもない。
出来上がり次第、兵士達の待機所に運ばれていくのだがピザだけでは味気無い。
飲み物が欲しいだろう。勿論キンキンに冷えたビールだ。
ゲートを通って一瞬で着くので、ディーテが運ぶ係をやってくれた。
ディーテはよく動く。トッピングをしつつ、出来上がったピザを運ぶのだ。
女王が直接届けて労う。士気も上がるだろう。
《グルナはん…それ何ー?》
「ピザっていう食べ物だ。食べてみるか?」
《うまっ!めっちゃ美味しいやん!?チーズめっちゃ伸びる!!これのトーストバージョンを喫茶店のメニューに追加したらめっちゃ売れるで!》
「お、おう。その辺はファムに任せるよ」
《ほな早速メニュー開発や!さらばやで!》
「………………」
ファムの超臭覚恐るべし…
翌日にはピザトーストがメニューに追加されていた。
国境の警戒と同時進行していたのは、上空からの監視だ。
カラの監視魔法は成層圏から映像を送ってくる。その広範囲の映像から、この世界の何処かで空間の歪みが発生していないかを常に監視しているのだ。
魔界から転移させてるなら歪みが発生するだろうという仮説でしかないが、今は他に打つ手が無い。
警戒を続けていた俺達に、ある日メッセージが届けられた。
送り主は魔界の王サタンだ。
そのメッセージは各国の上空に映し出された。
《はじめまして、この世界の住人達よ。
私は魔界の王サタン。この世界の新しい支配者となる者だ》
悪魔の角が生えたプ○デターじゃねぇか…
アザゼルがキモ怖いと言っていたが納得だ。
アストラル体のサタンはヤバい。
《安心したまえ。君達を皆殺しにするつもりは無い。君達は我々の食料なのだ。
大切に扱うと約束しよう。
しかし…私の事を新たな支配者として認めてもらえないのは困るのだ。そこで、1ヶ月後に国を1つ支配しようと思う。
その後、また君達の前に現れよう》
…!?
映像は終わってしまった。
《グルナしゃま!あれがサタンですのん!いつ見てもキモ怖いですのん!》
「アザゼルの言う通りだ…相当キモいな」
1ヶ月後か…一体何処の国が狙われるのか見当も付かない。
受肉した状態じゃないという事は、やはり住人になりすまして紛れていると思うべきだな。
サタンのメッセージから1週間が過ぎたが、各国の様子を聞く限り、目立った混乱は起こっていない。
恐らく、誰も信じていないのだろう。
国民はそんな感じだが、各国の王族達は頭を抱えていた。
巨人族クレイオスの証言もあり、捕らえたミダスの証言もあるのだ。
しかも、悪魔を見つけ出す方法が無く時間だけが過ぎて行く状況に苛立ちを感じているのだ。
『グルナ、何か良い方法は無いか?』
「うーん、今は現状維持だな。国境の警備体制を維持して人の流れを制限するしかない。タイミング的には、サタンの言った1ヶ月後に各国が自力で対処するしかないだろう。セレネを呼んでくれないか」
何処の国が狙われるのか分からない…悪魔が現れた時に掃討出来る戦力が無ければアウトだ。
《グルナ様》
「セレネ、破邪の盾について聞きたいのだが、限界まで広げると何処までカバー出来る?」
《試してみます》
破邪の盾でカバー出来る限界は、森の国全域とヴィエン王国全域、それにコルヌコピア王国の首都までだった。
とんでもない範囲だが、強度が心配だ。
範囲を狭めて、森の国のみを覆うと強度的にも不安は無い。
万が一の時は、各国の住人を森の国へ避難させよう。
そして、あの日から1ヶ月後がやって来た。
カラの監視魔法で各国の上空を監視していると、アグロス国上空に歪みが発生し巨大な門が出現したのだ。
「何だ!?この巨大な門は!」
その門から、悪魔が湧き出て来た。
アグロス国も警戒し王都に国民を可能な限り避難させていたのだが、上空から、しかも数百万もの悪魔が一斉に押し寄せたのだ。
アグロス国は勿論、周辺国も為す術は無い。
俺達はアグロス国の国民が次々と悪魔に受肉され、国が崩壊していくのを、ただただ見ているしかなかった。
悪魔が派手に動き出してしまいました…(°д°)