第79話 閉会式
競技終了後、早目に部屋に帰り休もうと思っていた俺は、ふと思い出した。
セレネとカラから褒美を催促されていたのだ。
個人的に、特別な人以外に残る物を送る事は無い。基本的には消え物なのだが…
だが2人は間違いなく特別な存在だろう。
材料は手配してある。
ノームとフェレット、そしてクラティスに色々頼んであったが間に合ったのだろうか。
クラティスの工房に行くと、頼んでおいた物は完成していた。
流石は国宝級の職人達、素晴らしい仕上がりだ。
みんなにお礼を言い部屋に戻る。
渡すのは宴の日でいいだろう。やけに静かだと思ったらディーテもコソコソ動いている…無視しといた方がいいだろう。
翌朝、閉会式が行われた。
会場には各国の選手達が入り乱れ入場し、中央には各種目の勝者が並んでいる。
『皆、お疲れ様でした!
初めての開催だったが、各国から大勢の参加者が集まり、選手達の競い合い精神とフェアプレー精神で素晴らしい大会が行われた事に感謝する!
ありがとう!!
そして、会場の警備や運営に協力してくれた各国の騎士団や森の国のみんな!ありがとう!
この大会は4年に1度開催するが各国の王と話し合った結果、開催地を毎回変える事にした。
次回の開催国はマカリオス王国だ。
今回敗退した者も勝利した者も、過去を尊敬し未来を信頼し、そして己を磨くがいい!』
各種目の勝者にはアネーシャの魔力で、この日の為だけにオリーブの様な木を用意してもらった。その木の葉が付いた枝で作った冠が贈られる。※昨日ディーテが頑張って編んでいた。
ドライアドの魔力から生まれた聖木の枝で創られる冠は不朽なのだ。
望みの褒美を催促出来るのは2勝を挙げた俺だけだが、2位タイの4名に森の国からの褒美を準備してある。
《それでは、表彰式を行います!
第1種目 短距離 勝者 ネモフィラ連邦国カラ選手!!》
ディーテの立つ祭場に行き、跪くカラ。
そっとオリーブ冠が被せられ、褒美が贈られる。
『カラ、素晴らしい速さだったな!
だが、2位だ。丸々1日デート券はお預けだぞ?』
《………シュン》
『だが、月一だが2人でゴハン行くぐらいは許可するぞ!その権利をやろう!笑』
《!?ありがとうございます!//》
会場から、俺だったら許可要りませんよ!!毎日でも大丈夫です!!とかいう謎の声が聞こえるが…カラにも変な虫が付いた様だ。
《第2種目 円盤投 勝者ネモフィラ連邦国セレネ選手!!》
跪くセレネ。
オリーブ冠が被せられる。
『セレネ、美しいフォームだったぞ!パンクラチオンは惜しかったな!
お前も2位だ。丸々1日デート券はやれんぞ!』
《……シュン》
『だが、守護神として素晴らしい試合を繰り広げたお前にも月一食事券を贈ろう。笑
それと鎧の修理も依頼しといたぞ』
《わっ…ありがとうございます//》
会場からはブーイングが起こった。
啜り泣く者までいるのだ。俺は闇討ちされるかも知れない。
次回は確実に参加者が増えるだろう。
《第3種目 やり投勝者 ネモフィラ連邦国 アレス選手!!》
跪くアレス。
何故か特大のオリーブ冠が贈られた。
『お前凄かったな!!投げる時の叫び声も面白かったぞ!お前には私がデザインした最高の戦闘用馬車を贈ろう!壊れたもんな笑
数日後に届くと思うぞ』
《マジっすか!?あざーーすっっ!!俺の新たな伝説が始まりそうな予感がするっス!!次回が楽しみです!》
恐らく、この世のものとは思えない馬車が届くぞ…
《第5種目 チャリオットレース勝者 コルヌコピア王国 マリア選手!!》
跪くマリア。
普通サイズのオリーブ冠が贈られる。
『マリアよ、見事な手網捌きと機転であった。調べさせたが、お前はこの3ヶ月どころか過去1年以上悪さしてないな?足洗ったのか?』
《…はい。人生をやり直す為に参加させていただきました》
カウンセラー刹那さんが聞いた話では、病気の妹に薬を買ってやる為に盗みを働いていた時、盗賊団に誘われたそうだ。
しかし、その妹は約1年前に他界。
妹には、真っ当な仕事をしていると言っていたそうだが、息を引き取る直前に言われたそうだ。
(お姉ちゃん…私のせいで、お姉ちゃんの人生台無しにしてごめんなさい…私は生まれ変わっても、またお姉ちゃんの妹になりたい…次は迷惑掛けないから…また妹に……)
バレていた。
コソコソ生きる日々。指名手配された身では墓も作ってやれない…コルヌコピアだけでない、何処の国でもお尋ね者なのだ。
コルヌコピア王国の田舎町でひっそりと暮らしていたマリアはオリンピックの開催を耳にする。
勝者には森の国が望む褒美を可能な限り出す。
それだけではない。勝者は英雄として讃えられ、その石像を巨神族の神殿入口に4年間建ててもらえるのだ。
妹の墓を作り、英雄の妹として墓に名を刻める…マリアは即参加を決意したのだ。
『参加の動機は刹那から少し聞いたぞ。
ネモフィラ連邦国から褒美を準備してある。受け取るがいい』
ディーテがそう言うと、コルヌコピアの女王ソフィアがやって来た。
(ソフィア様…)
《盗賊団の幹部マリアよ。コルヌコピア王国での悪事の数々…人身の被害は無いものの、被害額は金貨500万枚に近い…許し難いものだ》
《ソフィア様…どうか償う機会をお与えてください…》
《いや、償う機会など与える事は出来ん。
お前は国外追放じゃ!森の国でも何処でも好きな処に行くがいい!》
『と言う訳だ。森の国ネモフィラ連邦国は、今大会の勝者の1人マリアに対し、褒美として永住権と仕事を贈るぞ!』
《!?》
《マリアよ!コルヌコピア王国出身の英雄となったのだ!二度と悪事を働くでないぞ?
コルヌコピア王国からの褒美は無罪放免じゃ!心して受け取るがいい》
《ソフィア様…ディーテ様…ありがとうございます!!!》
会場から拍手が贈られた。
元盗賊マリアは森の国の住人となり、街の雑貨屋を運営していくのだ。
《第4種目 長距離 第6種目パンクラチオン勝者であり、今大会優勝者 ネモフィラ連邦国グルナ選手!!》
ディーテの前に跪く。
普通サイズのオリーブ冠だ。よかった。
《優勝おめでとう。
やり投は怒りを通り越して不覚にも笑ってしまったが、その他の競技、特にパンクラチオンは圧巻であったぞ!今後も精進するがいい。
優勝者には望む褒美を可能な限り出すという事になってるぞ。望みを言うがいい》
「では、神威シリーズの肩当を」
《それは無理だな!》
「えっ?」
会場がざわついている。
国を寄越せだの金貨1億枚寄越せとかなら分かるが、まさか防具をくれと言って拒否されるなど誰も想像していないのだ。
《今、工房は忙しいのだ!他に無いのか!?ん?無い?じゃあ仕方無い!森の国から勝手に褒美を贈るぞ!!》
「えっ?ちょっ…俺何も言ってない…」
《グルナよ!褒美は私だ♡!遠慮なく受け取るがいい!♡//》
「………………」
客席からはブーイングの嵐だ。
ディーテは”見た目”は超が付くほどの美少女だ。この大会で一気にファンが増えたのだろう。
よく見ると、ディーテを嫁にすると言っていたニキアスと、俺を婿養子にすると言っていたアレクシアは号泣している…恨まないで欲しいと切に願う。
《明日は勝者を讃える勝者の為の宴だぞ!
だが、他の選手も観客も一緒に楽しんでくれ!!
各国の料理も振る舞われるぞ!
では、第1回オリンピックの閉会を宣言する!!
4年後マカリオス王国に集い競い、そして祝おう!!》
会場から大きな拍手が巻き起こり、聖火は消された。
4年後、森の国で灯された聖火がマカリオス王国へ行くのだ。
ジーノの元には早速、第2回オリンピックの参加申し込みが殺到したのであった。