第72話 パンクラチオン 其の壱
いやー散々だ。
現在、5種目を終え勝者は5名。
最終種目のパンクラチオンで誰かが2勝目を挙げれば決着だが、この5名以外が勝者となれば6名に対して褒美を出さなくてはならない。大損だ。
ましてや、それがアレクシアやニキアスだった時は、俺が婿養子になるかディーテがエトリア国に嫁ぐのだ。
まさに国家滅亡の危機なのだよ。
恐らくディーテは気が気では無いだろうが、俺も同じ事なのだ。
顔見知り程度の女性の元に婿養子として送り出されるなんて事態は何がなんでも阻止しなくてはならない。
と考えていると、アレクシアが話し掛けて来た。
《グルナ様、この最終種目を制して必ず貴方を手に入れますわ//その暁には、私は軍を辞めて貴方の為だけに生きる所存です//》
「……………」
アレクシアは、忠義を尽くし信義を重んじるコルヌコピア王国を代表する兵士だった様な…
そんな気がしただけだったのかも知れない。
目の前に居るのは、完全なる乙女アレクシアだ。
ニキアスは瞑想の真っ最中。
勝利のイメージを焼き付けているのだろう。
ディミトリスも勿論参加する。
彼等は強敵だが、なんと言っても1番ヤバいのは間違いなく森の国の幹部だ。
ムックとアレスは棄権するらしいが、他の幹部はピンピンしているのだ。
予選のグループ分けもクジ引きだ。森の国の幹部が固まって潰し合いにならなければいいが…
予選は37人から38人を8グループに分け、
そこで勝利した者が、8日目の本戦である決勝トーナメントに出場出来るのだ。
くじ引きの結果、めぼしい参加者はいい感じに散らばった。
一安心だ。
予選が始まった。
俺のグループで強敵と言えるのは、ヴィエン王国の騎士団長クラトスとコルヌコピア王国のアレクシアだ。
しかし、女性に怪我をさせてはいけない。これも厄介な点だ。
(掌に強烈な眠気のイメージを纏わせて…浸透勁!)
《なっ!…や、優しい…》…パタリ
クラトスには申し訳ないが手心を加える必要は無いだろう。
鎧が砕ける程度のブローを打ち込む。
《ぐはっ!!…グルナさん…扱いが雑…》…パタリ
クラトスすまん!と思ったが、男は甘えてはいけない。
俺を含め、森の幹部達は神威シリーズの防具を着けていないが存在そのものがチートなのだ。当然の様に無双している。
結局やり合う事になるのだが1番厄介なのは、やはりセレネだろう。
あの防御をどうやってクリアするか…非常に悩ましいところだ。
予選が終わり、各グループの1位通過者が発表された。
ディミトリス(エトリア国)
ケルベロス(ヘルモス王国)
セレネ(ネモフィラ連邦国)
マリア(コルヌコピア王国)
グルナ(ネモフィラ連邦国)
カラ(ネモフィラ連邦国)
ジーノ(マカリオス王国)
ニキアス(エトリア国)
以上だ。
しかし、ジーノは頑張っている。
殆どの種目で上位だったんでは無かろうか?マカリオス王国からの参加者はジーノだけだが素晴らしい活躍だ。
アルトミアはよく見ている。
早速、本戦のくじ引きが行われるのだが、残っている者は超が付くほどの猛者揃いだ。シンプルなルールだが、再確認しておかなくてはなるまい。
パンクラチオンの意味そのまま、全ての力を使って戦う。
制限時間は無い。
全ての力を総動員して戦うのだが、決して相手を殺してはいけない。殺してしまった者は失格となる。
しかし、相手を倒したものの判定後に勝者が死亡してしまうパターンも有るかも知れない。
その場合、死亡しても勝者は勝者となる。
決勝で、そのパターンになってしまった場合、死亡した選手の優勝という事だ。
それが1回戦目の場合、2回戦で対戦するはずだった選手が不戦勝となる。
他の選手からすれば納得いかないと思うが、時の運も大事なのだ。
試合の途中で敗北宣言をするのは自由だが、八百長だと判断された場合は両者失格となる。
くじ引きが終わり、明日の組み合わせが発表された。
第1試合
ジーノVSセレネ
第2試合
ディミトリスVSカラ
第3試合
ケルベロスVSマリア
第4試合
グルナVSニキアス
俺は初戦から因縁の対決だ。
『 グルナ!恋敵に手加減は要らんぞ!私が嫁ぐのはグルナの元だけだぞ!分かったか!?』
明日の本番に向けて、かなり圧力を掛けられたが、既に背水の陣なのだよ…心配無用なのだ。
早々に部屋に戻ろうとしていると、アレクシアが話し掛けて来た。
《グルナ様…手心を加えるなんて…》
「………………」
(ん?ダメだったのか!?)
《私は諦めてはおりません!第2夫人でも構いませんわ!//》
「………………」
走り去ってしまった…
元々、日本人なので一夫多妻制には抵抗を感じるのだよ…考えただけで身の毛がよだつ…
訳の分からない事が色々あるが、明日は勝利して全てを終わらせようと誓ったのであった。
次話はやっとガチンコバトルです⸜( ´ ꒳ ` )⸝