第7話 初の配下
オーガの戦士との一騎討ちを制した俺は、彼らを配下に出来るのだが。
しかし、解らない事が多過ぎだ。
今後の事について長老や側近と話し合いを行う事にする。
「ご覧の通り、俺達は今まで2人だけで生活してきてる。配下を持った事は無い。
そこで、オーガの一族を配下にするにあたって幾つか確認しときたい事があるんだ」
「まずは報酬、見返りだ。お前達も只でコキ使われるつもりは無いだろ?正直な話、200を超える配下を養うだけの財力は無い。これは切実だ」
「次に俺達は魔王になる条件をクリアするために…色々な経験をするために旅をしている。勿論、ディーテの記憶を取り戻す為でもあるのだが。
お前達は一族の縄張りがあり、そこに定住している。俺達が旅立つ時、配下のお前達はどうするのかという点だ」
「そして最後に、魔王種ディーテは人間と敵対するつもりは無い。
お前達は強い者に付き従うようだが現時点で人間と敵対している状態だ。まだ配下になっていない今、その方針を受け入れられるか否かを確認しておきたい」
『人間と喧嘩したら美味しいゴハンが食べられなくなるからな!譲らぬぞ!』
《我々魔物は、仰った通り強き者に付き従います。
直属の配下となれば命令に背く事はありません。
人間と敵対するなと仰るなら従うまでですじゃ。
見返りについては最終的に魔王として君臨して下さる事が出来るなら使える者には何よりの褒美。一族の地位が上がる事は何よりの褒美なのですじゃ。衣食住に関しては我々の役目の1つ、ご安心くだされ》
《旅立ちについては、困りましたな…
我々は傭兵として各地で戦に参戦しておりましたが、あくまで遠征ですじゃ…》
(と言うか200人以上の大集団で移動なんか出来ないわな…人間の国に行けなくなるし)
《…領土を持ったらどうですかな?》
「拠点を作れと?」
《左様、この森は広大故、縄張り争いをする必要がない場所が多くありますじゃ》
(確かに拠点が有ったら何かと便利かも知れないな…魔王が放浪してるのもおかしな話だし)
『綺麗な森だし此処で暮らすのも悪くないな』
「では場所はディーテに決めてもらおう」
「最後に確認だが、お前達は魔王種ディーテの配下に加わる。異論は無いな?」
《必ずやお役に立ちましょうぞ!》
「よし、宜しく頼むぞ!長老、今更だがお前の名前は?」
《名はありませんですじゃ、名を持つ魔物は忠誠を誓う主から名を賜るのです。
双方の合意があって初めて名を賜り、それを受け入れ名乗る事が出来ます》
(ムックが専属になったとか言ってたのはコレの事か。心の絆は忠誠を誓った証のようなものだろうか)
「お前と先程の戦士に名を授けようと思うんだけど、いいか?」
《願ってもない、喜んでお受け致します…》
「ディーテ?彼らに相応しい名前を頼むぞ」
『ピンと来ん…グルナ!任せた!』
丸投げされてしまった。ディーテは必死に考えているが、このままでは数週間は名無しの権兵衛だろうな。
「では、長老!お前は【甚内】と名乗るがいい!」
「オーガの戦士!此処に来い!」
《ははっ!》
「お前は【上杉】と名乗るがいい!」
《我々はグルナ様に忠誠を誓います!》
あーあ、やっぱりこうなったか…俺が名前を付けたから俺に忠誠を誓う。つまり俺の直属の配下になってしまった…
まぁ俺がディーテの配下だから問題無いとは思うが…取り敢えず良しとしておこう。
ディーテも自分が名前を考えなくて済んでホッとしているだけで、どちらに忠誠を誓ったかは全く気にして無いようだ。
《グルナ様、恐れながら1つお願いがありますじゃ…》
「ん?何?」
《オーガ族の姫がおりまして、姫にも是非名を授けて頂きたく》
オーガのお姫様か、大柄な体躯の多いオーガ族の姫…般若の様な怖い姫様じゃなきゃいいけど…
「連れて来るがいい」
側近が呼びに行き、オーガのお姫様がやって来た。
『お初お目にかかります。この度は配下に加えて頂けるとの事、何卒宜しくお願い申し上げます』
黒に朱の艶のある髪、白い肌と茶色の瞳。
額には滑らかな陶器の様な紅い角が2本。
オーガのお姫様は美しい着物を纏った小柄な美少女だった。
「宜しく頼むぞ!
ディーテ?お姫様の名前は任せるぞ」
『ピンと来たぞ!【刹那】だ!』
《ディーテ様、素晴らしい名をありがとうございます。私の忠誠を貴方様に捧げます》
お姫様の名前は刹那に決まった。
刹那は極めて短い時間の概念だが、その一瞬さえも常に変わり続けているという無常性でもある。
悪が滅びて善が生まれるとかだといいな。
長老の名前は甚内。
オーガの最強戦士は上杉。
長老は大柄ではなく忍者のイメージが強かった。
オーガの戦士は戦国武将の名前からインスピレーションを得ようと考えた時に1番最初に浮かんだ名前。要するに適当だ。すまない。
他の者は名はいいだろう。
全員に名前を付けれるネーミングセンスは無いのだ。
「明日は拠点となりそうな土地を探してくるよ。
拠点が見つかって生活出来るようになるまでは此処で居候させてくれ」
翌朝、俺達は新天地を求めて森を散策するのであった。