第58話 マカリオス宣言 後編
魔法の紙はオルガの元へ届けられた。
「………………」
如何ともし難い状況だ。
各国の戦力は想像以上に強大だった。特にヘルモス王国とマカリオス王国…それに魔物の国だ。
魔物の国に至っては、魔王種が女王だと言うではないか…たかが魔王種の配下に数十の艦船を破壊され、巨神族さえも敗北したのだ。
そんな戦力相手では、残された百数十万程度の兵士では、抵抗すら出来もしない。
このまま籠城しようとも、返答が無い時点で首都に突入して来るのだ、そうなれば最後の1人まで戦い続ける事になる。
多国籍軍にも被害が出るだろうが、その規模は限定的。
それに比べ、此方の被害は首都陥落と全軍隊壊滅。
連邦国は解体され周辺国に編入か植民地となるか…
この国は、ある種の洗脳教育を行っている。
魔王は悪、人間は正義。
大なり小なり、この考えは何処の国にも有るのだ。しかし、北の連邦国は行き過ぎていたのだろう。
私も魔王、魔物は邪悪な存在と決め付けていた1人だ。事実、幼少の頃から連邦国の国民は神の子であり、それ以外の亜人、魔物は下等な存在で排除すべき邪悪な存在であると言い聞かされ続け、邪悪の象徴である魔王に対し何時しか殺意を抱き、国民を洗脳し人間だけの世界を実現しようとしたのだ。
何者にも脅かされる事の無い世界を実現し、統治する。その夢は立場が違えば何と身勝手な正義だろうか…
最早、選択肢は1つしかあるまい…
「皆を集めよ。緊急の会合を行う」
呪印を刻み各地の統治や軍の指揮を任せていた配下は首都に集結している。
直ぐに会合は始まった。
《オルガ様!宣言を受け入れる必要はありません!我々は最後の1人になろうとも戦い続けますぞ!!1匹でも多く地獄に送り、この世界を浄化するのです!!》
「私の意見を言う前に、お前達の支配を解こうと思う。その後、改めて意見を求める」
オルガは呪印を解除し、改めて状況の説明、条項の内容についての見解を述べた。
押し黙り、聞き入る配下達。
皆一様に顔色は蒼味がさし艶が無くなっていた。
「意見のある者は述べよ」
水を打った様に静かだった。
そして…
「この戦争を終結させる。全責任は私に在るのだ…皆は私の言葉を一語一句違える事無く兵士達に伝えよ」
翌日、マカリオス王国へ魔法の紙が届けられた。
内容は、宣言を受諾し終戦へ向けた準備を進めていく。
調印の前に会合の場を提供して欲しいという内容だった。
数週間後、北の連邦国皇帝オルガと多国籍軍の会合が行われた。
(皇帝オルガ…意外と若いな…)
出席したのは、北の連邦国から皇帝オルガと陸・海・空軍それぞれの最高司令官。
此方はアルトミア、パーシス、オルフェにディーテと俺、ムックだ。
会合の内容は、北の連邦国は宣言の内容については大方合意しているが、国体護持についての認識という部分を確認しておきたいというものだ。
それに関して、此方が意見を言う前に、オルガが一言。
《宣言の内容については大方の合意をしています。
ただ、この戦争を始める決断をしたのは私です。配下の者達に呪印を刻み込み精神を支配し、そして攻撃命令を下し実行させたのも、彼等ではなく私なのです。
私は思想洗脳も行いました。全ての国民に対してです。
条項にある通り、我々は裁かれるべきでありますが、先程申し上げた通り精神支配の影響下にあった者達を戦争犯罪者として差し出すのは堪え難いのです。
全ての責任は私1人のものなのです。
私の命はどうなっても構わない。どうか部下の命だけは救ってやって欲しい。
そして、自分亡き後、国民が生活していけるように援助をお願いしたいのです》
オルガの発言について俺達は議論した。
そして…
オルガを君主とする体制を認める。
航空機、魔導兵器技術の没収と空・海軍戦力の放棄、”永久”中立国として法整備し、周辺国の保証を得る。
その時をもって多国籍軍は撤退し、一部制限していた主権を回復させ講和条約を締結する。
司令官については、終身刑を言い渡す予定だ。本来は幹部は処刑である。
その後、軍内部ではオルガを打倒し戦争を継続するべきと主張する者も居たようだが各司令官が要求を断固拒否したそうだ。
後日、各司令官が無条件降伏を宣言し降伏文書に署名した。
これは、オルガに軍を説得させたという事だ。
後に、この一連のやり取りはマカリオス宣言として歴史に残るだった。
因みに、北の連邦国の属国を宣言していたギガキドネス国だが、北の連邦国と共に各国に賠償する事になり、元々国力が無かった国になので最終的に破綻してしまい地図から消滅してしまったのであった。
北の連邦国の侵略戦争が終わり、俺達は足踏みしていた国の発展を進めていくのである。
今回の件でも、ディーテは魔王になる気配は無い。
だが、現在魔王は4名、必ずもう1体の魔王は誕生するのだ。
その切っ掛けが平和的な出来事か、新たな脅威の出現かは分からない。
出来ることなら、平和な日々が続いて欲しいと願ったのだ。
意外とあっさり終わるのです。