第57話 マカリオス宣言 前編
ディーテを連れて森の国からマカリオス王国へ戻って来た。
丁度、オルフェやパーシス、ソフィアといった各国の国王も到着し、状況が報告された。
ムックの記録映像を確認し、皆被害の少なさに胸を撫で下ろしたのだった。
《《ディーテよ!心配しておったぞ!戦争が終わったら一緒に寝るぞ♡》》
「…………………」
『…………………』
アルトミアとソフィアはディーテの身を案じていたようだ。終戦後もディーテの戦争は続くだろが…
《残るは北の連邦国本丸じゃ…今後の方針を決めるとしようぞ》
カラの情報では数十機の飛空艇は動く気配は無く、100万を超える兵力が首都に集結し籠城している状態だそうだ。
現在、マカリオス王国とヘルモス王国、ドワーフ国の騎士団が国境沿いに展開中。
プティア王国の艦隊が軍港を制圧し、アレス率いる森の国部隊とヴィエン王国、コルヌコピア王国軍は首都から数十kmの地点に陣地を敷き警戒しているそうだ。
因みに、ヘルモス王国騎士団はエトリア国の治安維持にも人員を割いている。
北の連邦国は南部の軍事基地を破壊され、完全に詰んでいる状態状態なのだ。
だが、問題は北の連邦国 皇帝オルガが潜伏していると思しき城が要塞と化している事だ。巨大な城塞を中心に規模の小さな要塞が無数に点在している。
武装は砲台だけではなく、艦載兵装を地上用に改造した対地対空防御火力システムが構築されている。
一般の兵士では近付く事は困難、と言うより不可能だろう。
大部隊でなだれ込んでも蜂の巣にされて終わるのだ。
「殲滅するだけなら簡単だがな…目標は首都だ、民間人も居るだろう」
《妾の魔法は使えんな…》
《兎に角、此方に犠牲者が出るのは認められん。交戦よりも降伏させる為の確定条項を宣言し受け入れさせるべきだろう》
流石パーシスだ。俺達は確定事項について話合いを始めた。
勿論、受け入れずに徹底抗戦する可能性もある、その時は止むを得ないが徹底的に破壊するしかない。
しかし、その可能性が高まるのは、俺達が無条件降伏を要求した時だろう。
『ダメだ…頭が痛い…』
ディーテも頭を抱えているが、内容は妥協出来ないのだ。
受け入れてくれる事を期待して、以下の文書を送る事になった。
”北の連邦国降伏の為の確定条項宣言”
1.マカリオス王国、ヘルモス王国、カタフィギス王国、ネモフィラ連邦国及びヴィエン王国、プティア王国の王族は、それぞれの民を代表して協議し、この戦争終結の機会を北の連邦国へ与える事で一致した。
2.我々は先の戦闘に於いて各地で使用した軍事力を集結させ展開、維持している。
その戦力は、各地で発生した戦闘に比べ遥かに大きい。それは、このまま北の連邦国が無益で無意味な抵抗を続ける場合、軍事力の壊滅と国土の徹底的な破壊を意味する。
3.これは、北の連邦国が身勝手な軍国主義者に支配される状況を続けるか、道理に沿った道に進むかの決断を迫るものである。
4.我々は、国民を欺き、侵略戦争へと赴かせた影響勢力及び権力者が、永久に排除されるまで新秩序の樹立、維持は実現不可能であると主張するものである。
5.平和的、道理的且つ民主主義的な新秩序の確立と好戦勢力が完全に排除されたと明確に証明出来るまでは、基本目的達成の担保として北の連邦国領内の主要地点を多国籍軍の管轄下に置くものとする。
6.カタフィギス王国及びネモフィラ連邦国内の北の連邦国兵士数十万人については、北の連邦国全軍隊の完全なる武装解除後に帰還を許されるものとする。
7.北の連邦国の主権の範囲は、現状の領土全域と認めるものとし、軍事以外の産業、経済の維持も認めるものとする。
その経済の維持をもって、各国への実物賠償の支払いにあてるべきものとし、民生品に関してのみ、貿易取引に参加する事も認めるものとする。
8.軍国主義支配者に対して我々は断固として正義を付与するものとする。同時にその支配者に対し、北の連邦国全軍隊の無条件降伏の宣言を要求する。
これは、誠実に実行し且つそれを証明しうる十分な証拠の提出が行われるなら、戦争犯罪者の生命は保証されるものである。
9.多国籍軍は新秩序の樹立、確立が成された時点で完全に撤退するものとする。
10.この条項から逸脱はないものとし、代替条項も認めないものとする。
以上だ。
これは無条件降伏では無い。
お願いしているのだ。
《少し温いのではないか?一部蘇生したのは言え、事実数百万人の死者が出たのだぞ。この侵略戦争を開戦させた者を生かしておく必要を感じんのだがな》
アルトミアの意見はご最もだ。
しかし、そいつが権力を掌握しているなら処刑した場合、自暴自棄で無秩序な軍隊が誕生する可能性が出てくる。
それよりも、そいつに全軍隊を無条件に降伏させる方が話が早いのだ。
つまり、完全に武装解除と軍の解体が終わるまでは、そいつの権力を奪わない方がいい。
外部の敵対勢力より、自国の支配者の話の方が聞く耳を持ってもらえると思う。
各国の王が署名し、魔法の紙は北の連邦国へ送られたのであった。