第56話 一時帰国
ファムの持って来た回復薬で何とか動ける様になった俺はゲートを使い、一時的に森の国へ戻って来た。
ムックから街は異常なしと報告を受けていたが、自分の目で見ると更に安心した。
街の中央に行くと巨大な岩山の様なものが動いていた…巨神族だ。
巨神族はディーテに森で眠りにつく事を伝えに来ていたのだ。
《おぉ!グルナよ、ちゃんと一言言いに来てやったぞ!神殿を建設してくれるそうじゃ》
巨神族は意外と律儀だ。
森の中央に作る神殿は入り口をクラティスが担当し、内部はミノタウロスが担当する事になった。
数が減ったとはいえ、巨大な巨神族が二千名以上居るのだ、ミノタウロスに大空間を用意してもらうのが手っ取り早いだろう。
空間は巨神族が魔力を供給し維持するらしい。
入り口は神様に相応しい芸術的なものに仕上がるだろう。
「神殿が完成するまで街に居てくれるのはいいんだ、心強いしな!ただ野宿になるぞ?」
巨神族は小さくなれるが、その時のサイズは個体差も有りまちまち、その辺の魔物や人間より大きいのだ。寝泊まり出来る建物は無い。
《構わんぞ!ワシらは天候の影響は受けんからな》
だそうだ。神殿が完成するまで巨神族は街に滞在する事になり、避難していた住民も街に帰ってきた。
今の所、北の連邦国は目立った動きは見せていないしセレネの最強結界と巨神族が居るのだ。住民が避難生活を続ける必要はないだろう。慣れるまで落ち着かないとは思うが…
『グルナ!ケガはないか!?』
走って来たディーテは思い切り抱きついてきた。
少し前まで、自分も一緒に行くと唯を捏ねていたのが懐かしい。
今回は王としての自覚だろうか、自分の感情を押し殺し森の防衛を最優先させていたのだ。
『グルナ!北の連邦国の兵士達に畑仕事と魚釣り手伝ってもらってるぞ!』
「え?」
森の国へ侵攻して来た北の連邦国の兵士は全員死亡だったはずだが…
『ファムに生き返らせてもらったのだ。ドワーフ国の方も頼んでおいたぞ!』
外傷が比較的軽い者はファムの能力で復活させたらしい。
復活した兵士達は2時間程ディーテに説教され、真面目に働いたら戦争終了後、国に帰してやると言われたそうだ。
人数は凡そ25000人、逃亡や一斉蜂起される心配は無用。
森の住人に危害を加える事など諸々が出来ないようファムが魂に呪印を刻んだそうだ。
(ファム恐るべし…落ち着いたら呪印の刻み方を教えてもらうとしよう)
一応、捕虜だが人数が多い。街の端に簡易の住居が用意されていたが入りきれない者達は集会所や冒険者用の簡易宿に入っている。
非常に高待遇だ。
今回戻って来たのは、戦況の報告と北の連邦国戦が完全に終了した後の事を相談しに帰ってきたのだ。
今回の戦闘で、俺はカラを1度死なせてしまっている。
カラは生き返ったが、俺は未だに責任を感じ自分が部隊を指揮するのは不適切と考える様になっていた。
「俺は、この件が終わったら部隊の指揮官を辞めようと思う。あの時、森の国から援軍が到着するのを待てば良かったんだ。
後出しの様な話に聞こえるだろうけど、あの時に、その判断をする事は出来たんだ。
巨神族のクレイオスが突っ込んで来た時、戦闘力の高さに驚き、焦った俺は後方の敵戦力の分断をカラ1人に命じてしまった。
結果、カラは死んだんだ」
『本気で言ってるのか?』
「あぁ、このまま俺が指揮をすれば、また部下を死なせるだろう。
そんな無能者は退くべきだ」
ペシッ!
ディーテは俺の額に平手打ちをした。
『馬鹿もーん!!』
!?
『お前は今回まで、どれ程の戦果を挙げてきたと思ってるんだ!私を守り、配下を助け出し、国の脅威を捩じ伏せて来ただろ!
お前が居なかったら、ファムは生きているのか!?森の国は今も此処に在るのか!?マカリオスとコルヌコピアだけじゃないぞ!プティア王国やヴィエン王国だってミダスとか言う馬鹿野郎に壊されてたかも知れないんだぞ!!
今、戦っている者はな。
お前を信じているのだ。お前が必ず森の国を勝利に導いてくれる。その役に立つ為に自分の身命をなげうつ覚悟で戦場に立っているのだ』
ディーテが怒った。
その通りだ…これは戦争。
誰一人死なずに終わるなんて有り得ないのだ。
皆、大切な人や故郷を守る為に命を捨てる覚悟をしている。だが、俺は部下の死を前に動揺し、目を逸らそうとしている。辛い状況から逃げようとしているのだ。
俺は覚悟の無さを自覚した。部下を失ったとしても、その事に向き合い常に前へ進む覚悟、それが無ければ死んだ部下が報われる事は無いのだから。
『グルナ!王としての話は終わりだ!
此処からは未来の妻として話すぞ!グルナは多分癒しが必要なのだ!癒してやるぞ』
「癒し?どうやって?」
『こうやって…』
膝枕…
『みんな頼りにしてるぞ?』ナデナデ
『みんなグルナを信じてるぞ?』ナデナデ
『どうだ?落ち着くだろ?癒し効果バツグンの特製膝枕だ//』ナデナデ
温かい…
たまにディーテは心理をつく。
この後、北の連邦国へ乗り込みます!