第55話 ヘルモス王国VS巨神族 後編
オルフェは巨神族の司令官と思しき個体以外には目もくれず戦場を駆ける。
ヘルモス王国とドワーフ国の魔導師達は、それを援護する様に大魔法を発動させた。
オルフェの姿が見えなくなり、その後を追うべく混成部隊は喊声を上げ戦い始めた。必ずオルフェが敵将を討ち取ると信じて。
ヘルモス王国へ侵攻している巨神族を率いるのは、ティタン族の長アグリオス。
(クレイオスは敗れたか…よい統治者が育っておった様だな)
アグリオスはクレイオスよりも格下。
ならば、クレイオスが打ち負かされた時点で、統治者の見極めなど不要なのだ。
(人間共の茶番には付き合ってられんが…折角復活したのだ。少し位楽しんでもよかろう)
アグリオスはオルガの呪印を解除し、自らの意思でオルフェと戦うのだ。
……………………………………
北の連邦国
オルガの心は乱れきっていた。
ドワーフ国へ侵攻したセルジオスだけでない、マカリオス王国へ向かったギガス族長クレイオスとの心の絆が切れたのだ。
(200万の兵力だぞ?何かの間違いに決まっている……ましてやマカリオス王国へ送り込んだのは神の力を持つ巨神族だ!相手は魔王アルトミアとはいえ神には及ばんはずだ!!)
「ミダスを呼べッ!!」
《先程から姿が見えません》
どうやら逃亡した様だ。
クズだとは思っていたが、ここまで腐りきった完全なクズだったとは思わなかった……
《オルガ様!国境を封鎖されつつあります!ドラゴンが現れたのです!》
オルガに報告されたのはそれだけでは無かった。国の南部から森の国とコルヌコピア王国の部隊が北上している…しかも軍事基地を破壊しながら破竹の勢いで首都に迫っているいるという如何ともし難いものだったのだ。
残された兵器は飛空艇数十機と兵士200万程。
相手には巨神族を打ち負かす程の者が居るのだ。奴隷の亜人共や人間の兵士では何百万居ようと防衛さえ無理だろう。
そして、正に今、ティタン族の族長とも心の絆が切れたのだ。
最早詰んでいる。
今までの苦労はなんだったのか!!
「兵を首都に集めるのだ!」
オルガに出来る事はただ1つ、籠城するのみだった。
…………………………………
悠然と待ち受けるアグリオスの前にオルフェは現れた。
《お前が”選ばれし者”の1人か…よい面構えをしておるな。
この戦い、儂を倒さねば終わらぬぞ!》
「………………」
《ん?儂を前にして怖気たか?》
その時、アグリオスは自分の足元に何かが落ちているのに気が付いた。
《……!?》
それはアグリオスの左腕だったのだ。
目の前に居るオルフェは鋭い視線を放っていた、それはアグリオスも同じなのだ。
お互いに目を逸らすどころか瞬きさえもしていなかったと自信を持って言える。
そんな状況の中、オルフェの斬撃がアグリオスの左腕に牙を剥いたのだ。
《馬鹿な!》
アグリオスは腕を再生させ、オルフェを睨みつける。
今の速度は、どう考えても異常。
遊ぶつもりだったが、目の前に居る者の戦闘力は手加減するなど烏滸がましい程高いのだ。
《素晴らしい逸材じゃ!本気で相手をせねばならんな!!》
アグリオスの発する闘気は徐々に何かを形作っていく。
(少し小さくならなくては、あの速度にはついて行けんわい…)
5m程あった身長が徐々に小さくなり発する闘気が更に増した時、アグリオスの身体は光輝く鎧に包まれていた。
《我が名はアグリオス!ティタン族の長にして、この大地の支配者の1人》
「我が名は、オルフェ!この世界の最強の一角!その1人だ」
《オルフェよ、誇るがいい。
この鎧は本気の証!お前を敵として認める!》
「さっきの比じゃないな!」
オルフェは伺っていた。
光輝く鎧の効果が分からないのだ。アグリオスの後方に移動し、袈裟懸けに斬撃を放った時、異変に気付いた。
アグリオスは防御どころか身動き一つしないのだ。
斬撃を放った結果、アグリオスはダメージを受けた気配が無い。
《オルフェよ、無駄じゃ。
この鎧にお前の攻撃は通らぬ》
アグリオスの巨拳がオルフェに襲いかかった。
ブロックしたが、腕の感覚が無くなる程の衝撃。この時オルフェは思った、本当に攻撃が通じないのか?と
再度、斬撃を見舞う。
しかし、またしてもアグリオスが動く気配は無いのだ。
(くっ!)
攻撃すればダメージを与える事が出来ないばかりか、カウンターの強烈な一撃を浴びるのだ。
《オルフェよ、お前は逸材じゃ。命まで取る気は無い、今回は敗北を認め精進せよ》
何と上からな物言いなのか…
プライドの高いオルフェの我慢は限界に近い。しかし、真正面から挑めば間違いなく敗北するのも事実。
(こんな所で負けていては刹那に合わす顔が無い!!)
確かにアグリオスは強い。だが、所詮は鎧が有ればこそ。
「敗北は認めない。お前が鎧を使うなら、俺も”コレ”を使わせてもらうぞ」
それは冥界のにのみ存在する”夜の金属”で作った兜である。
この兜は被った者の全ての気配を消し去る。空気の流れ、魔力、殺気、そして姿そのものも消し去ってしまうのだ。
一方、巨神族の群れと戦っている部隊は善戦していた。
巨神族は生命力が強く、完全に消滅させなければ、立ち所に再生する。
巨神族1体に対し複数の兵士が足止めを行い、ケルベロス率いるオルトロスが魂を引き裂き冥界へ送る。
生命力や再生力が強かろうが、魂を刈り取られてしまえば復活は叶わない。
パーシスのラブリュスの破壊力も凄まじく、巨大な巨神族達を一撃で消滅させていた。
混成部隊が巨神族を掃討するのは時間の問題となっていた、残るはオルフェがアグリオスを撃破するのみ。
アグリオスは集中力を高め、オルフェの気配を探っていた。
しかし、全く気配を感じる事は出来ない。そんなアグリオスにオルフェの残虐性が襲い掛かる。
オルフェは鎧の継ぎ目を狙い始めたのだ。
宇宙服の様に完全に隙間が無ければいいのだが、強固な鎧の可動部分には隙間が出来てしまう。
その隙間をオルフェの鎌は容赦無く狙うのだ。
気配の無い空間から不意打ちにも等しい刺撃が襲って来る。しかも、狙われるのは可動部の隙間のみ。似たような場所を何度も刺されるのだ。
傷口を更に刺される。
とてもじゃないが耐えられるものでは無い。
アグリオスの膝、手が小刻みに震えていた。
《この儂が恐怖しておるというのか!?》
震えていようがお構い無しにオルフェの攻撃は続く、一体何度攻撃されただろうか…
アグリオスは遂に泣き叫び、攻撃を止める様に懇願したのだ。
《儂の負けじゃぁぁ!許してくれッッ!!》
アグリオスが敗北を認めるとオルフェの攻撃が止んだ。
敗北を認めたのは天空の神々と戦った時以来だ。あの時は悔しい思いをしたのだが、今回の敗北は恐怖から解放され、とても心安らぐものだった。
《流石じゃ…もう我等の出る幕は無い》
アグリオスは1000名程に減ってしまった一族に命令する。
《争いを止めるのだ!ティタン族は敗北した!残った者達よ!我等はギガス族と同じく森の国で静かに眠るとしようぞ!!》
《オルフェよ見事であったぞ!》
「おっさん!これが愛の力ってやつだ!!」
アグリオスはオルフェに鎧を創る能力を授け、森の国へと移動を始めたのであった。
この後、オルフェ達はマカリオス王国へ移動し北の連邦国への対応を検討するのであった。
ミダスは何処へ行ってしまったのでしょうか((?・・)