第50話 森の国VS北の連邦国大艦隊
いよいよ戦いが始まります!
翌日、北の連邦国大艦隊は森の国の海岸付近まで接近していた。
ヴィエン王国とプティア王国へは情報を流しておいたので強固な防御結界を構築しているはずだ。
海からなので今回もディーテの神獣召喚で一掃してもらおうかと思ったが、残念ながら無理そうだ。沖合ではなく陸地に沿って接近してきたのだ。
勝手に設定した領海だが、侵入する前に警告しておこうと思う。
『グルナ!私が行ってくるぞ!こんな時に使える新技をアレスに習ったからな!』
その新技とは魂のメンチ切りだ。
《ディーテ様、いいっすか!魂のメンチ切りってのは眉間の絞りと顔の角度が肝なんスッ!!》とかいうやり取りをしていたのだ…
あの時は無視して話を進めていたが、次回は止めさせよう…
(この件が片付いたら俺の魂のメンチ切りを拝ませてやるぞ…アレス)
「王を前線に出すわけないだろ!王様らしくどっしり座ってムックの勇姿を見ててやってくれ!」
『ふむ、だが状況によっては勝手に動くぞ!』
その時は頼ろう。
「ムック頼んだぞ!」
《ご主人様!任せて!》
ムックの分裂体は張り切って飛んで行ったが大丈夫だろうか?
暫くするとムックの本体が報告してきた。
蜂の巣にされたそうだ…
(分裂体とはいえ申し訳ない。ムックすまん…)
ムックは旗艦の前に飛んで行き、森の国の領海・領空だから勝手に入らないで!と必死に叫んだそうだ。
笑い声が聞こえた次の瞬間、CIWSの餌食になったのだ。
(むごい…)
だが、此方が発した警告を無視して艦隊は侵入したのだ!
森の国は侵略者に対して手心を加える事は無い。
海岸線から上陸した部隊が首都目指すと予想した俺達は森に細工を施していた。
あえて首都までの狭い道を作っていたのだ。
これは海岸線の何処から上陸しても、必ずその道に辿り着く。
カーブが連続し見通しが悪く、馬車が2台通れるかどうかという幅の道だが、轍なども偽装しており普段使ってます感が漂っている。
そして敵が前世の近代兵器と此方の世界の魔法の組み合わせなら、此方もそれを戦闘に取り入れるまで。
兵士達の鎧の上には迷彩服を装備させたのだ。
道にはセレネが召喚した暗黒騎士モドキが適当な間隔で配置してある。モドキ達は一定以上のダメージが蓄積されると消滅するが、ラージシールドを装備しかなり頑丈だ。
勿論その役割は足止めのみ。
モドキ達の周囲には接近戦闘が得意な種族とラミア・エルフの様に狙撃が得意な種族を班として配置し伏撃する。
……………………………
数十分前
コスタス中将、艦隊の指揮を取るこの男は苛立っていた。
(魔王を始末するのが我々の悲願ではないのか!?その大役を巨神族か知らんが、あんな木偶の坊共に任せるとはオルガ様は何をお考えなのかッ!)
彼は魔王討伐に自分の軍団が選ばれなかった事が納得いかないのだ。それもそのはず、彼は北の連邦国領内に発生する魔物を殺し尽くし近隣の小国や貴族を血祭りに上げ、武勲を立てて来た。国が発展したのは俺の活躍が有ってこそ!それは思い込みでも過大評価でもなく事実なのだ。
(魔物の国など端から眼中に無いのだ!早く終わらせてマカリオスを潰してくれるッ!)
「上陸を開始せよ!展開した部隊は首都を徹底的に破壊し1匹たりとも生かすな!!殺し尽くせ!!」
5隻の戦艦が対地砲撃を開始した。
同時に大型の輸送艦と着水した飛空艇から続々と揚陸艦が送り出される
8門の魔導電磁砲を装備する戦艦5隻による砲撃はセレネの最強結界のお陰でそよ風程度も影響がない。だが、その結界が無ければ数分で街は壊滅していただろう。
街を狙った砲撃以外に魔導機関砲による揚陸艦の支援も凄まじい弾幕だ。
北の連邦国大艦隊は呆気なく上陸に成功し部隊を展開したのであった。
…………………………………
地上部隊が展開したのを確認した俺は伏撃を開始する。敵の地上部隊が地獄へと続く道に出るのに時間は掛からないだろう。
「敵は展開し始めたぞ!各部隊は凡その位置情報をセイレーンと共有し待機」
「カラは艦隊を黙らせろ!」
《グルナ様、完全に破壊してもいいですか?》
ん?カラ?目が据わってるぞ?
「…う、うん。好きに料理してやってくれ…」
上空には旗艦2隻、首都攻略後の魔物掃討作戦用部隊を載せていると思しき輸送飛空艇10隻。海上には巡洋戦艦5隻、輸送艦10隻と着水した飛空艇30隻。
結界の外に出たカラは、悠然と旗艦の前に出る。
グルナの司令は艦隊を沈黙させる事、選択肢は2つ。
この海域から撤収させるか、完膚無きまでに叩き潰すかだ。グルナは優しい上司だ。自分を信頼し、それを選択する権限を与えてくれている。
どの船も巨大で特に飛空艇と言われている機体は、よく浮かんでいられるものだと感心する程のサイズだ。
60隻近い艦隊。
正直、数はどうでもいい。そう思えるほど破壊の宝石の力は定着している。
まな板の上にある肉や野菜に恐怖する者は居ないだろう。艦隊を前にして尚、カラの認識はそのレベル。
憐れな雑魚の群に最後に、もう一度だけ慈悲を与える
《お前達は、我が国の領海に侵入している。これは最後の警告だ。
地上部隊を回収し、即刻この海域から立ち去れ。繰り返す、地上部隊を回収し即刻海域から立ち去れ》
コスタス中将の怒りは頂点に達する。
犬の様な精霊の次は魔物までもが偉そうに警告してくる…
しかし、同時に笑いも込み上げて来たのだ。
あれだけの砲撃を受けながら、反撃どころか、呑気にも警告を発している。
頭の中がお花畑か、余程の強者か…
所詮は魔物、間違いなく前者だ。
「魔物を始末せよ!!」
主砲の1つが動いた瞬間、魔物が赤く光った様に見えた…この後、コスタス中将は人生で最も後悔する事となる。
艦隊が展開している空間が緋い光に覆われ、その中心には高温の結晶体が発生していた。
核融合の様な反応。空気の燃焼により気圧が下がると、その部分を補う様に圧縮が始まる。圧縮は重力場を生成し、緋い光の中の物体を引き寄せ始めたのだ。
「この光から離脱しろ!!」
手遅れだった。
結晶体は更に高密度になっていく。光の中の空気は完全に燃焼され尽くし真空と化していた。
この時点で生存者0。
だが、カラの魔法は終わらない。艦隊を押し潰しながら圧縮を続け、やがて直径1m程の球体にまで小さくなった時、漸く結晶体は消失したのだ。
「え?何今の…」
俺は、怒らせてはいけない人物の1人として、カラの名前を心のメモに追加した。
森に展開した敵勢力は艦隊が跡形もなく消失した事など知る由もない。
そんな彼らに悲劇は容赦無く襲いかかる。
地獄へと続く道を進む部隊の前に暗黒騎士モドキが立ちはだかった。
「どうやら首都までの続いているようだな」
正解なのだ。
首都まで道は続いている。しかし、彼らが首都を攻略する事は不可能。
仮に首都まで辿り着けたとしても、そこにはセレネ率いる鉄壁の首都防衛部隊が待ち構えている。
そして、彼らは首都に辿り着く事は無かった。
森を進む部隊は暗黒騎士モドキと交戦を開始する。1000人規模の部隊に道は狭過ぎたのだ。
暗黒騎士モドキ達が装備するラージシールドに阻まれ、魔導機関銃も思う様に効果が出せない。
「前方の奴らは何をモタついているのだ!」
その時、密集していた敵勢力の後方・側面に魔物達が襲い掛かる。
一撃離脱を繰り返す魔物達。
何処からとも無く飛んでくる強力な弓撃に自分の横に居た同僚が次々に殺されていく。
斬っては消え、斬っては消えを繰り返す魔物達に北の連邦国兵は恐怖し混乱は最高潮に達した。
身体能力を増強する特殊な鎧を装備しているが、相手はピュトンの肉で進化してしまった森の魔物達。
結局、数に頼む以外勝機は無いのだが最早それさえ叶わない。
道の至る所に北の連邦国兵の死体の山が出来、戦闘は僅か2時間程で終了したのであった。