第40話 外遊 其ノ壱
外遊出発前夜
『グルナ…ダメッ…』
「俺を本気にさせといて…もう止めるなんて無理だぞ!」
『そうだけど…でも、私は初めてなの知ってるだろ……あっ……』
1枚…また1枚と引き剥がし、徐々に露わになっていくディーテ。
『待って…強引すぎ…いつものグルナじゃない……あっ……』
「あと1枚だな!今夜は俺が王だッ!!」
『…もうダメ……許して………』
「はい!上がりー!!」
『もーー!私は初心者だぞ?普通は手心を加えるだろ!』
ババ抜きをしていたのだ。
ディーテは非常に分かりやすいので助かる。
この勝負で俺に負けたら、大人しくコルヌコピアの城に宿泊する約束だ。
そもそも、友好国宣言も有るのだ、民泊出来る訳がない。
俺は何がなんでも勝たなくてはいけなかったのだ、すまない。
翌朝、ディーテも大人しくなったところで、早速コルヌコピア王国へ向けて出発した。
ムックと刹那、ララノアも同行する。
手土産に魔物酒を用意した。
城の周りは大勢の住民が詰めかけていた、目的は勿論、森の国の女王を見るためだ。
《ディーテよ!よく来たな♡今日も一緒に寝るぞ♡》
ソフィア直々の出迎えを受け、ディーテも完全に諦めた様子。
民衆に仲良しアピールをする前に軽く会談だ。
《妾は何時森の国に招待されるのだ?》
完全に忘れていた。
わざとではない、ホントに忘れていたのだ。
日程を伝え、検討してもらう事にした。
魔法の紙にお互い署名し、いよいよ宣言だ。
「ディーテ、頼むぞ」
『ふむ、では』
また瞳が若干光っている、緊張すると光るのだろうか?
『私が、森の国ネモフィラ連邦国の女王ディーテ・ネモフィラだ。
今日はコルヌコピア王国との関係を更に前進させる為に訪問している。
私は、互いの国から人や物が多く行き来する事を望んでいる。そのためにコルヌコピア王国の国民に伝えたい事がある
我が国の民がコルヌコピア王国を訪れる事も増えるだろう、どうか恐れずに接してやって欲しい。
そして、我が国に是非来て欲しい。
我が国と我が国の民は、平和的に訪れる者は歓迎する。
訪れてくれた者は、まだ森の国へ行った事のない者に見た事、感じた事をありのままに伝えて欲しい。
今は否定的で構わない。
だが、貴方達から語られた言葉は、人間、亜人、魔物それぞれが認め合える未来…そんな奇跡を起こす原動力になると私は信じている』
パチパチパチパチ!
《という訳じゃ!みんな!先ずは行ってみるがよい!》
瞳が光ると第2の人格が姿を現す様だ。
部屋に戻り、また話が始まった。
《噂でプリンという食べ物があると聞いたが、どの様な食べ物なのだ?》
早速、冒険者達は仕事をしてくれた様だ。
俺は空間収納からプリンを取り出した。
水の精霊が凍結させたものを持って来ていたのだ、いい感じに解凍出来ている。
《新しい味と食感じゃ…美味いとしか言えん…》
一気に2つも完食してしまった、お気に召したようだ。
《作り方は難しいのか?原料は何じゃ?》
「ハーピーの卵を使ってるんだ、作り方は難しくないから材料が有れば街のお菓子職人はすぐに作れるよ」
《ハーピーの卵は入手が課題じゃな》
ハーピーの卵を輸出するチャンスだ。
後日ファムを送り込み商談をさせる。輸出も考えたが、生ものなので運搬中の温度管理が心配だった。それに原料だけなら右から左だ、大量生産する手間がなくていいのだ。
その日の晩は、貴族も含めて晩餐会が催された。
和やかなムードで始まったが、途中問題が起こった、酒に酔った貴族が絡んで来たのだ。
«俺は魔物なんぞと仲良くする気はないぞ!
友好国?馬鹿馬鹿しい!
いいか!?俺は個人的に軍を持ってるんだ。
今すぐ実効支配してやる事も出来るんだぞ!»
酒の力恐るべし…
(グルナ、こんな時はどうしたらいいんだ?)
(黙ってたらいい、ソフィアか俺が何とかする)
《パウロスよ、場を弁えよ。
グルナ、森の国は無抵抗ではあるまい、釘を刺しておけ》
丸投げするか?と思ったが、確かに無抵抗主義国では無いのだ。
「パウロス男爵、我が国は平和的に訪れる者は歓迎しますが、それ以外の者はお断りしております。
森や民の命を脅かす者が、もし万が一居たとしたら、その者は我が国の軍事力という脅威に直面するでしょう」
«くっ…少しでも人間に被害が出たら、その時は覚悟しておけ!»
《パウロスに任せてある領地は森と接しておる。過去に被害にあったのかも知れぬ、次あの様な事をほざいたら爵位を剥奪しよう。
今回は目を瞑ってくれ》
(グルナ、お腹いっぱいで眠たくなって来たぞ…)ボソッ
《!?》
《ディーテよ!眠たくなってしまったのか!妾もそろそろ休もうかと思っておったのだ♡》
言ってはいけない事を言ってしまったのは、さっきの貴族だけでは無かった様だ。
ディーテは警戒して小声で言ったが聞こえてしまっていた。
その後、ディーテは無理矢理連れ去られ朝まで帰ってくることは無かった。
《グルナ様、ディーテ様はソフィア女王と何をしているのですか?》
「ディーテは、擬人化した抱き枕になっているのだ」
《…………》
ムックはララノアと一緒に寝るそうだ。
ホカホカもっふもふなムックを堪能してくれ。
俺は別室に行き、久しぶりの1人部屋を堪能したのだった。
翌朝、ボロ雑巾の様になったディーテが帰って来た。
『グルナ…戻ったぞ…』
支度をし、俺達は次の目的地マカリオス王国へ向かった。
………………………………………………………
魔王の国、マカリオス王国に到着した。
この国では2泊する予定だ。
魔王の国といっても魔物の国では無い。亜人も人間も居るのだ、むしろ街に魔物が居なかった。
テリトリーがあるのだろう。
城の前には白い鎧に身を包んだ兵士達が整列している、外国からの要人を迎える時の正装だろうか?
案内され、王の間に到着した。
重厚な扉が開き、アルトミアが立ち上がった。
《ディーテよ!よく来たな!今日は妾と寝るぞ♡》
「………………………」
『………………………』
恐らく、ディーテも同じ事を思っただろう。
[アルトミア…お前もか…。]
森の国の飲み物を輸入する件は順調に進んでいるようだ。使節団の件を具体的に進めたい。
「アルトミア様、使節団の件について…」
《グルナよ!堅苦しいぞ!アルトミアと呼ぶがいい!》
無用な気遣いだった様だ。
一通り報告や打ち合わせが終わり。
《実はな、今日はお前達を案内したい場所があるのじゃ》
アルトミアが案内してくれたのはチーズ工場。
マカリオスはチーズ作りが盛んで種類もかなり豊富らしい。
《オススメのチーズを何種類か用意したぞ、試食するがいい》
『!?…美味しい!!』
「うん!すごく美味しいな!」
これは是非輸入したい!
刹那もララノアも気に入った様だし、チーズがあれば酒の肴は勿論、料理のバリエーションも広がる。
『グルナ!森の国に取り入れたいぞ!』
「アルトミア、チーズの件も並行して進めたいが問題ないか?」
《気に入った様じゃな!問題ないぞ、条件を伝える様言っておこう》
《2泊の予定だったな、もう1ヶ所案内したい場所があるのじゃ!少し遠いから明日の朝出発するぞ!今夜は長旅の疲れを癒すがいい》
その日の晩餐会では街の主婦が作ったという家庭料理を含むコース料理が振る舞われた。
アルトミアお気に入りの主婦らしい。
その夜、俺は1人部屋を満喫し翌朝アルトミアに案内されマカリオス最北の街に来た。
《ディーテよ、この街には恋人達が永遠の愛を誓いに来る神殿があるのだ。それがあの神殿じゃ》
『…!?恋愛成就か!?』
《左様、この神殿の奥には神々が住むという月の神殿に通じる転移装置がある。月の神殿行った恋人達は神々の祝福を受ける事が出来るのだ。しかし、ゲートを動かすには特別な力が必要らしい、妾も動かせんのだ》
『そうなのか…でも此処で愛を誓い合ったら叶うのだな!?』
アルトミア…それはディーテに話してはいけない。
そんな話の事を巷では禁句と言うのだ。
『グルナよ、一緒に来るがいい!これは王の命令だぞ』
王権発動してしまった…
何処の世界でも王の権力は絶大なのだ。
神殿の奥には確かに転移装置のような物があったが何をどうしたら起動するのか、さっぱり分からない。
『グルナ…此処で愛を誓うといいらしいぞ
でも、まだチューはお預けだぞ!とにかく祈るとしよう!』
なんと溌剌とした顔をするのでしょうか…
祈りを捧げ、神殿を後にする。
今後、マカリオスに来る度に此処に来る事になるのだろう。
その日もディーテはアルトミアに無理矢理連れ去られ朝まで帰ってくることは無かった。
翌朝、いよいよ悪そうな魔王の国、ヘルモス王国へ出発するのであった。