第37話 焼肉のタレ
前世の俺は35歳のサラリーマン。
焼肉を食べて胃もたれするようになったのは25歳を過ぎた時からだろうか?
しかし、今はどうだ?
年齢不詳だが、見た目20歳。
忙しくて忘れていた。
そろそろ解禁してもいいのではなかろうか!
焼肉を!!
という訳で、前世の俺は胃もたれを理由に焼肉を敬遠していたが解禁してみる事にした。
先ずは肉だ。
この森には魔牛という魔物が生息している。
サイズは平均1トン程だろうか、それをオーガ達はハンティングしているのだ。
肉質はA3和牛といった感じで、ほど良いサシ気で非常に美味しいお肉だ。
お肉は美味しいのだが、その処理に問題がある事を薄々感じていた俺は、肉の処理に立ち会う事にした。
その日、魔牛の処理をしていたのは魔牛解体歴10年以上のベテランオーガ。
とにかくブツ切り。手当り次第、斬って斬って斬りまくっていた。要は雑だったのだ 。
10年もやっていてこのザマとは…馬鹿者め!
これは間違い無く俺の方が上手い。
「いいか?筋をしっかり処理して肉の繊維に対して垂直に切るんだ」
筋をしっかり除去しないと食べた時に取り残した筋が口に残るのだ。柔らかい肉の場合、更に筋の硬さが引き立ち肉全体の印象が悪くなる。
自分達だけなら問題無いが、お金を取るとなると事情が変わってくる。
焼肉の厚さは8mmが一般的だが、焼肉中級者以下は焼きすぎて折角の肉を硬くしてしまうリスクもある。
なので、部位にもよるが個人的にオススメは1.2cmの厚切りだ。
ちなみに俺は上級だ。
焼肉に適した部位を切り分け、硬い肉はハンバーグや煮込み料理用にする。
肉の下ごしらえを済ませ、いよいよタレ作りだ。
俺はノーム、セイレーン、ファムにメモを渡し材料の調達をさせるのであった。
………………………………
大陸中央 マカリオス王国
魔物の森主体の混成部隊がプティア王国の上陸作戦を成功させただと?
«使者を送りましょう»
何を申すか、妾が直々に挨拶してやるわ!
魔王アルトミア様がなッ!!
数日後。
《ディーテ様!マカリオス国女王 魔王アルトミア様がお見えです!!》
「!?」
街の入口に行くと魔王と思しき女性と側近の3名が居た。
(てっきり大部隊を引き連れて来てると思ったが…)
『はじめまして、私がこの国の女王ディーテだ』
《はじめまして、魔王アルトミアだ》
「部屋にご案内します。どうぞ此方へ」
終始にこやかだ。一体何をしに来たのか、何を考えてるのか全く分からない。
パーシスの話ではアルトミアは狂気の女王とも呼ばれている超危険人物なのだ。
『アルトミア!今日はなんの用事で来てくれたんだ?』
《今日はな、挨拶に来たんだ。お前達の活躍は聞いたぞ?プティア王国の王族達を解放したらしいじゃないか》
(あの件は魔王の耳にも入ってたか…)
『みんなで頑張ったからな!おかげでプティア王国と仲良くなれた。この国のみんなはプティア王国で人間や亜人と同じように買い物したり宿泊したり出来るようになったんだ』
《ディーテ女王よ、人間の国と仲良く出来てそんなに嬉しいのか?》
『?』
(変な空気になってきたな…)
《ディーテよ、お前は魔王種と聞いておる。つまり上手く行けば次期魔王となるわけだ。今から私と仲良くしておいて損は無いぞ?》
(断れば、この場で始末する気か?)
『アルトミア…少し2人で話がしたい』
《よいぞ、グルナとやら席を外すがよい。お前達もな》
こうして、俺と魔王アルトミアの側近は部屋から出た。
しかし、心配だ。
相手は狂気の女王とまで言われる魔王アルトミア。
何かあればやるしかない。
ちなみに側近は小柄な女の子1名と50代位の執事1名だ。この2人の能力が異常なのか、魔王アルトミア自体が異常なのか…一見不用心にも思える警備の薄さだ。
それから数十分後。
《待たせたな!グルナとやら、我が国もネモフィラ連邦国を独立国家と認める事にした。
この街に大使を常駐させる。
住む場所を手配せよ。
ちなみにその大使は、そこの娘だ。身の安全はグルナお前が保証せよ。
それと、ネクタルと魔物酒を我が国は定期的に輸入する事にした。
後日、ファムと言う者に使者を遣わす》
一体何が有ったんだ?
さっきの流れでいけば、人間の国と仲良くすると私はお前と敵対せねばならんぞ?みたいな流れだったハズだ…
「承知しました。すぐに大使館の建設に着手致します」
«大使って私!?»
《そうだ!ジーノお前だ!》
«アルトミア様任せて!いきなりでマジ困ったけど私バリ頑張るし!!»
バリ頑張る?コイツ大丈夫か?
《こいつは特命大使だ。今後、お互い使節団を派遣して交流を深めようではないか。よろしく頼むぞ!》
(グルナよ…よい主を持ったな、腹心としてせいぜい励むがいい)
「………!?」
《妾は戻るぞ!ディーテ!マカリオスに遊びに来るがいい!日程は後日連絡しよう》
こうして、アルトミアは帰って行った。
何があったのかディーテに聞いたが…『アルトミアは私の最後の切り札だ』としか言わないのだ。
意味が分からないので忘れる事にした。
とにかく、大使館の建設が始まったのであった。
…………………
《グルナはん!材料集まったで!》
ファム達が帰って来た!!
リンゴ、玉ねぎ、ニンニク、香草、香辛料各種などなど全てモドキだが、材料は集まった…
コルトにイメージを伝え、試作開始だ!
翌日。
《グルナ殿!出来たぞ!》
丁度パーシスが来ていたので試食会とジーノの歓迎会を兼ねて焼肉パーチーを開催した。
その日、用意したのは俺が処理した魔牛の肉(焼肉用)と特製タレ、白ご飯、新鮮野菜とビールだ。
《……………》
ゴクリ…。
「パーシス…どうだ?」
《……めちゃくちゃ美味い!!500年ぶりのビールも最高だ!》
流石コルト!いい仕事する。
ジーノも「バリ美味い!」と言ってもりもり食べていた。
俺も勿論食べたが完璧だと思った。胃もたれもしなかったし。
こうして、街に新たな名物が誕生日したのであった。