第36話 新たな住人
俺達が特産品作りに勤しんでいると、ヴィエン王国から騎士団長が来た。
「団長久しぶり!今日はどうした?」
《グルナさん!お久しぶりです!王が森の街を視察したいと申しておりまして、直近で都合の良い日があれば是非》
「今は落ち着いてるから、逆に指定してもらえると助かるな」
《ありがとうございます!では!》
5日後、ニコラオス国王が街を訪れる事になった。
《コレは美しい街じゃな!》
『今、特産品を作ってるんだ!味見しないか?』
ディーテが薦めているのは、ソルティライチスパークリング改めネクタルだ。
ホタル草の光る部分1粒で20ℓ程作れる上に、1週間程でホタル草の光る部分は再生するので原料には事欠かない。
それと、その光る部分をウイスキーを寝かせてある樽に1粒入れて更に寝かせた物も試飲してもらった。
《……!?
これは旨いな… しかも魔力が回復するぞ》
「森の珍しい植物が原料なんだ。特産品の1つとして輸出したいと思ってる」
《我が国にも卸してもらいたい、量産の目処は立っているのか?》
今は甚内がコツコツ頑張っているが、量産体制を整えないといけないな。
ニコラオス王は温泉宿を満喫し、そのまま1泊した。
翌朝。
『ニコラオス!喫茶店行かないか?』
《はて?喫茶店?》
日本のレトロな喫茶店の内装を再現した店を新築していたのだ。
ノームがコーヒー豆モドキを見付けて来たので試作したのだが、かなり美味い。
街で採れた新鮮な野菜と森の果物、たまごサンド、それと珈琲だ。
《ディーテよ、王都にも出店せんか?通うぞ》
珈琲の香りと落ち着いた内装、居心地がいいのだ。
城下町に貸店舗があれば是非検討したいと伝えておいた。
ニコラオスが来たのは視察がメインだが、別件もあった。ヴィエン王国から他国に行くのに陸路だと必ず森を横切るのだ。
ドワーフ国までは馬車で4日、途中に休憩所が欲しいそうだ。
商人は街の温泉宿でいいのだが、護衛の冒険者達の宿代も商人が負担している。
そこで、ドワーフ国、ヴィエン王国、コルヌコピア王国の3カ国で建設費と維持費を負担する代わりに人材とサービスを提供して欲しいという内容だった。
勿論大歓迎だ。
具体的な規模や場所についての打ち合わせは後日、担当の者を寄越すらしい。
《最近、魔物による被害が無いんじゃ。
しかし、妙な噂と言うか目撃情報があってな。
それについての調査も頼みたい》
初耳だったが、内容は漆黒の全身鎧を装備した騎兵が目撃されているというものだった。
特に攻撃されたとかは無いらしいが…
「その件は何か分かり次第報告するよ」
………………………………
ニコラオスが帰った後、騎兵についてみんなに話を聞いたが誰も知らない様だ。
何か有ってからでは遅い。
早速、調査開始だ。
森の西側を重点的にカラの索敵能力で捜索する。
噂では無かった。居たのだ。
現場に向かうと、そこにはバーディングを装着した大きめの馬に乗った漆黒の鎧を着た騎士。
(何だコイツは…)
«……………………»
騎士は走り去ってしまったが、逃がす訳にはいかない。
しかし、カラに追跡させたが見失ってしまった。つまり消失したという事だ。
その後も捜索を続けたが発見出来なかった。
明日も捜索する予定だが、突然消えてしまうのは厄介だ。
街に戻り、みんなを集めて対策を検討していると。
《ディーテ様、ドライアドが来ております》
『「ドライアド?」』
ドライアドとは、ニンフの様な精霊だが森のお偉いさんだ。
《はじめまして、森の主よ。私はドライアドのアネーシャと申します》
薄い緑の髪に、金色の瞳のお姉さんだ。
『はじめまして!何で私の事を知ってるんだ?』
このドライアドは海の見える丘にある月桂樹の様な木に宿っている精霊だそうだ。
街の建設や日々の営みを微笑ましく見守っていたらしい。
《今日は、最近森で見掛ける騎士が邪悪な者ではない事を伝える為に来たのです》
最近、俺達が他国と仲良くするようになり外部から客人が訪れるようになった。
今後も他国の住人が多く訪れるようになるという話を聞いて、その手伝いをしようと街道の警備に騎士を派遣したと言うのだ。
「じゃあ、あの騎士はアネーシャの部下なのか?」
《あの騎士は部下と言うより、森の意思です。呼んできますね》
(呼ぶ?)
街の入口で待っていると、例の騎士が現れた。
牙を剥く森の意思【暗黒騎士】
名前が暗黒騎士だそうだ。
本来は森に害を及ぼす者を排除する存在だそうだが、今回は森の魔物達の地位向上の為に頑張ってるネモフィラ連邦国の手伝いで、旅人や商人達を知性の無い魔物から守っていたのだとか。
被害がなかったのは暗黒騎士のおかげなのだが、名前の通り見た目がダークなので俺達は敵と勘違いしてしまっていた。
《今後も警備に協力しますので、騎士をよろしくお願いますね》
『暗黒騎士!よろしく頼むぞ!』
今後はセレネの配下として活動してもらう事になった。
……………………………
森の東端に実は小さな国があった。
地図で見ると、見落としてしまいそうな小さな国だ。
その国は魔王種の国 アレス国
俺より先に森の王になるなんて上等じゃねぇか!
潰してやる!
この世界に来て初めて、他の魔王種と遭遇する事になったのだ。
ある日の朝。
《ディーテ様、アレスと名乗る者が街の入口でディーテ様を出せと申しております》
『うん、すぐ行く』
街の入口に行くと、悪そうなのと側近と思しきミノタウロスが2名。
「俺は女王の配下、グルナだ。お前達何の用だ?」
《俺はアレス!この森は俺様のものだ!痛い目に遭いたくなかったら配下を置いて立ち去るがいい!》
「………………。」
ディーテと目が合った。頷いている。
ドゴッ!!
アレスは吹き飛び失神していた。
側近として真横に立っていたミノタウロスは証言する。
《一瞬たりともグルナから目を離していない》と。
「牛頭共、1回しか言わねぇからよく聞け。そのアレスってのが起きたら伝えろ。寝言は寝てから言うもんだ、次は手加減しねぇぞとな!」
«はいっ!!失礼しましたッ!!»
翌朝。
《ディーテ様、アレスがディーテ様を出せと申しております》
「………………。」
《昨日は油断したが今日はお前…ゲボッ!》
«…………………»
「来るなって言っとけ!」
更に翌朝。
《ディーテ様、例のアレが来ております》
「…………………。」
《グルナと言ったな!貴様のいの……ゴハッ!!》
«……………………»
「何で毎朝来るんだよ!!相当ウザいぞ!」
«実は、このアレスは魔王種でして…同じ魔王種の後輩が自分より大きな国を持った事を妬んでるのです»
「……おい!そいつ連れて来い!!」
起きるのを待って話をする事にした。
毎朝来られても迷惑だからだ。
闘神化の威圧効果を全開にして話を始める
「いいか?俺はお前が魔王種だろうが国王だろうが関係ない。
俺の役目は女王と国を護る事だ。その為なら、お前達を生きて帰さないという選択肢もあると肝に銘じろ」
«ヒッ…»
「アレス、てめぇは何で毎朝ぶん殴られに来るんだ?変態か?」
《俺は何百年も前から魔王種やってんだ!新入りが調子乗ってたらシメてやるのも先輩の役目だろうが!》
「それだけ?」
《ちげーよ!シメて配下に加える!ちゃんと面倒見てやるのが漢ってもんよ!》
もう1発ぶん殴ってやろうかと思ったが話を続ける。
「終わりそうにないな」
(グルナ、早く終わらせるのだ。喫茶店行くぞ)
「最後の勝負をしないか?俺はこの国最強、お前が勝ったら国をやる。
但し、お前が負けたらアレス国はもらう。
お前、国王だよな?属国を宣言しろ」
《んだと!てめぇ調子コキやがって!!》
「ただ、明日から来ないって約束するなら今の話は無しでもいい」
《よーし!タイマンだッ!俺が負けたら国をやる!!表出ろ!》
勝負が始まった。街のみんなも集まって来た。
巨大なハンマーを取り出すアレス。
勢いよく振り降ろす!!
空を切ったハンマーは地面を粉々に砕いた。
中々の破壊力だが当たらなければ意味は無い。
大振りの連撃は隙が多い。
その隙を逃さず、喉目掛けて高速の前蹴り。
躱すアレス。終わるハズだったが躱されてしまった。
(グルナの蹴りが当たらないなんて…)
蹴りを躱し前進してくるアレス。
この世界の格闘術は発展途上、しかし前世の世界の格闘術は数千年も研鑽されてきたのだ。
この世界の格闘術とは”モノ”が違う。
蹴りを躱し前進してくるアレスの後頭部を衝撃と激痛が襲った。
”裏回し蹴り”だ。
その直後、アレスは冥府を彷徨ったのだった。
アレスが目覚めた。
「俺の勝ちだ、国はもらうぞ」
《くっ…男に二言はねぇよ…》
「なぁ、属国じゃなくて協議の結果ネモフィラ連邦国に加盟したって事にしないか?
この勝負は無かった。協議の結果、アレス国の主権を周辺国から守る為に加盟が妥当だったってのはどうだ?」
《情けを掛けるつもりかよ!!》
「面倒見るのが漢なんだろ?それは情けか?」
《……。ディーテ様!アレス国は本日よりネモフィラ連邦国に加盟させていただきます!よろしくお願いしますッ!!》
『よろしく頼むぞ!もう朝来るなよ!』
《ウスッッ!!》
アレス国はミノタウロス1500名、元々そこに住んでいた亜人約400名だ
こうして、アレス国が加盟する事になったのであった。