第31話 special operation【ファムファム】中編
プティア王国上陸を目指す俺達は、セレネの結界のお陰で何とか島に向かって進んで行った。
島に近付くにつれ、激しさを増す砲撃。
何とかしなくては兵力を投射出来ない、このままでは沈まない的なのだ。
(グルナ!私の新技よく見ておくがいい!)
ディーテからの念話が聞こえた次の瞬間。
目前に魔獣が現れた。
ケートス…海の神が何処ぞの都市を完膚なきまでに叩き潰す為に放ったと云われる海の魔獣。
神が創ったとは信じ難い邪悪な容姿は、それだけで見る者に恐怖を植え付ける。
「あの時のヘビか!?」
グルナはディーテの新技開発に付き合わされ、何度か小さなヘビを目撃していたのだ。
ディーテは範囲を指定し波を起こしては消す。それを繰り返していた。
その時は、30cm程のヘビだったので、技と言うより水遊びをしている程度にしか思えなかったが、今回ディーテが召喚したのは、全長数キロ有ろうかという獰猛な魔獣。
桁が違う。
魔獣はディーテの指定した範囲を攻撃する。
民間人に被害が出ないよう、主が指定した範囲を慎重に狙う…しかし、魔獣は混乱していた。
その僅かな範囲を攻撃するだけにもかかわらず、あまりにも膨大な魔力を注ぎ込まれていたのだ。
魔獣が発生させた津波は
高さ1000m
時速は400㎞
軍港のみを壊滅して終わるなど出来る訳もなく…軍港を通り過ぎ要塞化された砲台20門全てを破壊した後、津波は消失した。
「!!!?」
グルナも含む上陸作戦に参加した兵士達2600名は1つの認識を共有していた。
【森の女王ディーテは怒らせてはならない】
プティア王国北西の軍港と、その周囲が地形が完全に変わる程破壊された事実は、即座にミダスに報告された。
俄に信じ難い報告を受け、海岸線が見える所まで出てきたミダスは報告通りの光景を目にした。
《そんなバカな!!……貴様ら!アレを出せ!!》
(こんな力を持った者が居るとは…)
ミダスは動揺していた。
普通に考えれば、上陸作戦は島にいる兵力の3倍以上の大戦力で臨むのが常識なのだ。
3隻の船で達成出来る可能性は0%。その証拠に、ついさっきまで自分達は”攻撃する側”だったのだ。
ついさっきまでは。
「よし!このまま一気に上陸するぞ!」
《上陸出来ると思うなッ!!》
島の北西より更に北側から1隻の軍艦が出現した。
魔導巡洋戦艦”ミダス”
砲台と同サイズの主砲8門、接近戦闘用に魔導機関砲も装備し高い攻撃力を誇る。
本人の名前を冠した大型の戦闘艦、巨大な船体は北西の軍港には停泊出来ず、北の沖合に停泊していたのだ。
「まだ温存してやがったか!」
(グルナ、さっきので魔力が…すまない)
《あんな攻撃、連発出来る訳がない!上陸は阻止させてもらうぞ!!》
ミダスの予想通り、ディーテの魔力は枯渇していた。
(ディーテありがとな、後は俺がやる!)
対艦、対地攻撃に特化した戦艦は、航空機の無いこの世界では脅威だ。
しかも、戦艦という種類の軍艦は防御力も桁違いに高く、並の魔法では太刀打ち出来ないだろう。
「ミダス、見ているか?お前はコレをよく知ってるハズだな?」
魔法はイメージの具現化なのだ。
先頭の船の上空に魔力の塊が現れ、何かの形へと変化していく。
《……!? アレはまさかッ!!ハープーン対艦ミサイルか!?》
”神の槍撃”だ!
「俺が創り出した特注品だッ!これが直撃して沈まない船はねぇぞ!!」
《貴様ら!撃ち落とせッ!!》
«無理ですッ!高度が低過ぎます!!»
放たれた魔力の塊は、高度5m以下で超低空飛行し戦艦に接近。
直前でポップアップし落下、真上から巡洋戦艦”ミダス”を直撃した。
《!!?》
小型の戦術核ミサイルかという程の爆風。
轟音が響き、粉々に破壊された戦艦は海へと消えて行った。
この時、ミダスの脳裏に”魔王”の2文字が過ぎった。
噂には聞いた事がある、たった1人で国を滅ぼし魔王と成った存在の話だ。
ならば、この馬鹿げた破壊力も納得出来る。
納得出来るが、その話を聞いていたお陰で攻撃に特化した魔王への対策もする事が出来ていたのだ。
《クソがっ!!だがこれで終わりだと思うな!!》
(アレを準備しなくては!俺は世界を支配するんだ!神に選ばれた人間なんだぞ!)
急いで城に戻るミダス。
「敵は何を隠し持ってるかわからん!絶対に油断するな!」
戦場は海から陸へ移っていった。
いよいよ陸地での戦闘です!