第30話 special operation【ファムファム】前編
作戦前夜。
ドワーフ王直轄の部隊長も到着し、作戦の具体的な内容について説明を行っていた。
この作戦は敵艦船が出港する前が勝負だ。
島の北側には街と村、それに軍の基地がある。
そこから少し南下した所に城があり、東側には魔王が幽閉されている神殿。
南側は農地と街や小さな村が点在している。
中央には兵器工場と思われる施設が有り、西側には軍の基地が数ヶ所だ。
「歩兵の前進限界線は中央の兵器工場だ。軍港は島の北西と東に1ヶ所づつ有るが北西の軍港に艦船は集結している。
それはディーテが無力化するそうだ」
「王族と魔王は神殿に幽閉されているそうだ。
ファムとニンフも神殿に居る可能性が高い。ガーゴイルとセイレーンは兵器工場と兵站線を破壊後、神殿に向かって人質の捜索と救出を行ってくれ。死ぬなよ!」
「上陸後、セレネは万能結界を張り陣地を敷いて兵站線の確保だ。
ドワーフ国の部隊は西側の基地を制圧しヴィエン王国騎士団は砲台の無力化を行ってくれ。
その後、潜んでいる敵性勢力を制圧しながら城を目指してくれ、精霊達はその補助をする。みんな死ぬなよ!
俺は砲台を迂回してムックと一緒に城へ向かいミダスを拘束する。
最終的な集合地点は城とする。
以上だ」
会議が終わった後、カラは海の見える丘に来ていた。
カラは考えていた。
《私にもっと力があれば、グルナ様は救出作戦を任せてくれたのだろうか…》
カラはグルナの配下になって初めて、激怒したグルナを見たのだ。
何時も冷静で優しいグルナが激怒している…
優秀な部下とは、常に役に立つのが優秀な部下なのだ。
肝心な時に役に立たない自分は無能者でしかない…カラはそう考えていた。
実際はそんな事は無いのだ、グルナは全員を信頼し、その時々で最適な配下に頼み事をしているだけなのだが。
しかし、カラの思考は、グルナの最も役に立つ部下で在りたい。その想いで染め上げられていた。
そして、そう在る為に力を求めた。
その頃、街の一室でセレネも考えていた。
ヴィエン王国での出来事を思い出していたのだ。
砲弾が結界に直撃した時に感じた強烈な不安。
《みんなを守れないかも知れない…》
今回の上陸作戦は更に至近距離で砲撃を受ける事になる。
セレネの結界が破壊されれば全員、海の藻屑と消えるだろう。
そうなれば、森は蹂躙され尽くし全てを失うのだ。
折角、仕えたいと思える主を見つけたのだ。
幼いが、森と配下を第一に考えてくれる守るべき心優しい主…
不安を振り払い、セレネは護り抜く決意をした。主を。主の愛する森の全てを。
奇しくも時を同じくして力を求めた2人に神の血が目覚める事になる。
プティア王国上陸作戦
作戦名 special operation【ファムファム】当日の朝
到着した3隻の輸送船に搭乗する部隊の割振りを行う。
作戦の目的は最優先が人質の救出、次に敵勢力の排除及びミダスの身柄確保だ。
部隊長や族長達は作戦の最終確認を行っている。
『グルナ、一言いいか?』
「勿論だ!みんなの士気を上げてくれ!」
『今日、此処に集まった者は家族であり友人でもある。
その関係はかけがえのないものだ。
それを引き裂き、踏み躙る者は絶対に許さん!
だが…それ以上に、死ぬ事は許さん!
誰一人としてだ!!
みんな生きて帰って来るのだ!
これは命令だ!必ず生きて帰って来いッ!!』
兵士達は理解した。
必ず全員が生きて帰還する。この結果こそが全てなのだと。
敵との命を賭けた”勝負”に打ち勝つ事が目的ではない。
真に拘るべきは全能力を総動員し人質を救出し無事帰還出来たという”結果”なのだ。
『グルナ!ある程度沖まで出たら新技で支援してやるぞ』ニヤリ
「お、おう!頼むぞ!」
(嫌な予感がするが任せるしかないからな…)
そして、俺達は出港した。
《結界を展開します!》
俺達が出港してから数十分後、ミダスに報告が入った。
«魔物の森からドワーフ国の船が出港し此方へ向かって来ております!»
《馬鹿め!魔導電磁砲の格好の的ではないか!撃沈せよ!》
プティア王国に向かう船に容赦無い砲撃が始まった。
「くっ…レールガンかよ!」
レールガンは前世の記憶では、打ち出された砲弾に爆薬は入っていない、しかし速度が異常なのだ。
その速度、実にマッハ7。
その射程距離は200キロを超えるのだ。
それが生み出す破壊力は想像を絶する、爆薬の有無等関係無い。
魔法の組み合わせによって速度、射程距離共にアップグレードされたレールガンで100キロも離れていない目標に集中砲火を浴びせるのだ。
普通に考えれば無事な訳がない。
しかし…
(ん?結界に当たった時の衝撃が無い…)
船はセレネの防御結界が守っている。
普通結界なら1発直撃すれば結界は消し飛ぶ威力の砲撃だ。いくらセレネの結界が優秀とはいえ、多少なりとも結界内部に衝撃が伝わるはずなのだ。
「セレネ!砲撃は結界に命中しているのか?」
《いえ、全て逸れています!というより逸らしています!》
これはセレネが昨日の夜望んだ力…
神の血【破邪の盾】
自律して動く結界は、所有者の意志を読み取り護るべき者を保護する最強の盾となる。
時速1万キロにも達する速度の砲弾に対してアイギスは魔力弾をぶつけていた。
極超音速の砲弾は、ほんの僅かな抵抗で軌道が変わってしまうのだ。
軌道が変わった砲弾は、船を護る結界に擦る事も無く海の彼方へ。
『そろそろだな!幻獣召喚!!』
ディーテが召喚したのは精霊では無い。
幻獣と呼ばれる神の創りし神話の魔獣”ケートス”
直後、ミダス率いるプティア王国軍は防戦へと移行せざるを得ない状況となるのであった。