第29話 動き出した国々
ドワーフ国で建国宣言をした翌日。
その内容を書き記した紙は、全ての国々に届いていた。
《おやおや…久しぶりに骨のある奴が現れたな。挨拶しに行ってやるか!》
大陸最西端 ヘルモス王国
その国王にして冥界の王【魔王オルフェ・ヘルモス】
《魔物の森?面白いッ!国が無くなる前に会いに行くぞ!》
大陸中央 マカリオス王国
狂気の女王【魔王アルトミア・マカリオス】
《………………。》
大陸北東 北の連邦国
皇帝 【オルガ・グリュックス】
そして、この男の元にも紙は届いていた。
プティア王国、ミダス・エパナスタ
《魔物の森に国を作るだと?そんなものは認めんぞ!
魔物の捕獲に向かわせた兵士が戻って来ないのは、魔物の王の仕業か…》
«ヴィエン王国とコルヌコピア王国、それにドワーフ王国も建国を認める署名をしております»
《丁度いい、大陸を支配する足掛かりとするのだ。
これで、ヴィエン王国はテロ支援国家になった訳だ。
侵攻の準備に着手せよ!》
各国の反応は様々。しかし、これまでに無い危機が迫っているのは間違いなかった。
その頃、俺達はヴィエン王国に来ていた。
プティア王国が設定した返答期限が近付いているのだ。
今日はディーテと俺、それにセレネとムックでヴィエン王国に訪れている。
ヴィエン王国からプティア王国へ会談の打診をしているそうだが反応は無いそうだ。
先日行われた会合で採択された、プティア王国を非難する共同声明に対しても同じく沈黙しているらしい。
「プティア王国は無関係なんだから、突っ撥ねるのが一番じゃないか?」
《その件はそれでいいのだが…》
その時、轟音が響き渡った。
城壁と城の一部が破壊されたのだ。
《バカな!最高の魔法防御結界を張っておるのだぞ!?》
(魔法?これは違うかも知れない!!)
「セレネ!物理防御結界を張るんだ!!」
結界が展開した直後、とてつもない衝撃が結界を揺らした。
«軍港が破壊されました!周辺に敵と思われる船舶は見当たりません!»
《まさかプティア王国から直接攻撃しておると言うのか!?200キロ以上離れておるのだぞ!》
ミダスが何を使ったかは分からないが、奴の知識と魔法の組み合わせなら十分に有り得るだろう。
一般の兵士でもサブマシンガンを持っていた。
プティア王国に高性能の沿岸砲が無い理由などないのだ!
攻撃が落ち着いた時、プティア王国から魔法の紙が届いた。
【2日後にヴィエン王国へ侵攻を開始する】
宣戦布告であった。
「ムック!ドワーフ王に連絡を頼む!」
ムックに伝言を頼み、俺達は急いで森に戻った。
街に戻ると破壊された建物が目についた。
襲撃されていたのだ。
(遅かったか…)
《グルナ様、申し訳ありません…》
上杉も怪我をしている様だが軽傷だ、良かった。
上杉の話では、武装した人間がグリフォンに乗って襲撃してきたそうだ。
建物を幾つか破壊されたが、街に残っていた混成部隊が応戦し退けたのだ、しかし、その際ファムとニンフが連れ去られてしまっていた。
迂闊だった…海からの上陸しか想定していなかったのだ。
この世界に来てから航空機を見ていないというのもあるが、ガーゴイルやセイレーンのような空を飛ぶ魔物も居るのだ。他に空を飛べる魔物が居ないとは限らない…そんな事も考えられないなんて…
『グルナ!どうしよう…ファム達が殺されてしまう!』
生きているかも分からない捕虜を救出しに来たとは考えにくい。
単に様子見の可能性さえある…
「ミダスめ。ふざけやがって…許さんぞッ!!族長達を此処へ呼べッ!!」
《ご主人様ー。パーシスから伝言だよ!》
«大型の輸送船3隻を其方に派遣した。明日の朝には森に着くだろう。我が国からも部隊を派遣する手続きをしている。早まるなよ»
族長達を召集し、早速ファム達を救出する為の作戦会議が行われた。
今回攫われたのはファムとニンフ2名、ニンフに関しては森から離れると徐々に弱っていき、やがて消滅してしまう。
(急がなくては…)
此方は捕虜を手厚く扱っているが、相手もそうとは限らない。虐殺される可能性だってあるのだ。
《我々ガーゴイルが救出に向かいましょう!》
「それはダメだ。敵の本拠地での作戦になる。俺達が救出に来た時の対策もしてあるだろう」
戦力の逐次投入は厳禁なのだ。
敵戦力が不明で、ましてや敵の本拠地。
人質を救出に来る可能性を考えて待ち構えてると思うべきだ。
その場合、小規模戦力を投入していくのは愚策。各個撃破されるリスクが高まるだけだ。
適時、如何に短時間で大量の戦力を適所に投射出来るかが勝負なのだ。
「カラ、プティア王国の海岸線を偵察してくれ。それと各種族から兵を派遣してもらいたい」
各種族から総勢1000名の兵士が派遣される事になった。到着は今夜だ。
『私も戦うぞ』
ディーテもやる気だが、王は前線には出せない。
《グルナ様、戻りました!海岸線に砲台が20門、島の北西に兵力が集結しつつあります》
ガーゴイルは早いのだ。
時速900キロ、本気を出せば短時間だが音速を超えるらしい。
それと、カラは索敵能力が優秀なのだ。
人間も魔物も魔力を発している、カラはその僅かな反応を探知する。
地図に砲台の位置や軍港の場所を記入してもらい、作戦を練る。
此方は船で戦力を輸送しなくてはならないので圧倒的に不利だ。
セレネの防御結界を使いたいが森の防御が手薄になる…王は何としても守らなくてはならないのだ。
『グルナ!森のみんなは私が守るぞ!防御結界ぐらい使える!しかも刹那と一緒に結界を維持するから安心だろ?』
まぁプティア王国の船が出港する前に急襲…と言うか強襲するつもりなので、ターゲットは船に乗った俺達になるはずだ。問題ないという事にしておこう。
「後、何とかしたいのは敵の艦船だな…」
『グルナ!それは私の新技で何とか出来るぞ』ニヤリ
「ホントかよ、上陸作戦で手一杯だから船が動き出すと森が危ないんだぞ?」
『大丈夫だ…信じろグルナ』
また瞳が光っている…思い切って任せてみようと思う。
《ディーテ様、客人がお見えです》
ヴィエン王国の騎士団長だ。
『「団長!久しぶりだな!」』
《お久しぶりです!まさか森の王になっていたなんて驚きましたよ!》
騎士団長はドワーフ国の船が森に派遣されたと聞いてやって来たそうだ。
ヴィエン王国の軍港は船ごと破壊されてしまっている。
そこで、ドワーフ国の船に部隊を同乗させて欲しいという訳だ。
「隣国になって数日で共同作戦をするなんて思っても見なかったよ!頼りにしてるぞ!」
ヴィエン王国から精鋭部隊1000名
更にドワーフ国の精鋭500名と後方支援の精霊達が加わり、総勢2600名で上陸を行う事になった。