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魔王種  作者: のんびりMUCC
序章
2/104

第2話 出会い・覚醒

意識が戻った時、すっかり日が暮れてしまっていた。


「一体何だったんだ?」


体は何ともない、寧ろ軽くなった気がするぐらいだ。

(日も暮れてるし、今日はこれ以上動けないな)

ここは森の中だ、焚き火の材料には事欠かない。

焚き火をしながら色々と思い出していた。

ジークも言っていたが、ここはヴィエン王国の外れ、過疎化している地域だ。

人気は無い。

(人より魔物の方が多いだろうな、まだ遭遇してないけど…)


ガサッ…パキッ…


(!?…森の中からか…近付いて来てる…人ならいいけど魔物は勘弁だぞ)

森から俺の居る河原に近付いて来た気配は焚き火の明かりに照らし出された。

小柄な少女が立っていたのだ。


「どうしたんだ?道に迷ったのか?」


(15才ぐらいか?こんな時間に人間の女の子が1人で出歩くわけない…)


『…貴方がグルナさん?』

「!?何で俺の名前を知っている…」

『何日か前に森の中で目が覚めて…夜になると声が聞こえるの、此処でグルナと出会いなさいって…』


あの天使か…

記憶が無いのは兎も角、目が覚めたら知らない森の中…天使?の声を聞ける少女。

(共通点多いな…この子も俺の様に転生したのか?)


「名前は何ていうんだ?」


『ディーテ…』


「ディーテか、俺の事はグルナ呼び捨てでいいぞ。名前以外で覚えてる事はあるか?」


『何も思い出せない…お腹空いた…』


「…パン食べるか?」


街で買っておいたパンを軽く炙って蜂蜜をサンド、ハチミツパンだ!


『…!?…ありがとう!!』

『何コレ!美味しい!!』


食べたら元気になってきたな!そう、食事は大事なのだ。

お腹いっぱいになって眠ってしまったディーテを見ながら、天使?の言葉を思い出した。


(俺と出会いなさい。か…何かこれから起こる事全てが…これじゃまるで時間が未来から過去に向かって流れてるみたいだな。ディーテを此処に置いて行く訳にもいかない、一緒に行動する運命ならその流れに乗ってみるのもアリかもな。)


朝になり、朝食の準備だ。

森の中で木の実なんかを集める。

野いちごに似た実を見つけた、食べてみると案外イケる。

謎のすっぱい木の実を見つけたので、それも少し持って帰る事にした。

河原に帰るとディーテは起きていた。


『…………お腹空いたぞ。』


朝は弱いようだ。寒かったのだろうか、鼻水が出ている。


「よし、朝ごはん作るぞ!」


『…………何作るんだ?』


「ジャムパンだ!」


何?それ…みたいな顔してるが無視だ。

さっき採ってきた野いちごの様な実を果肉が残る程度に潰して、街で貰った砂糖だと思われる粉と一緒に小鍋に入れる。

そこに、すっぱい木の実を完全に潰したものを少々入れて火に掛ける。

横ですっぱい実嫌いとディーテが言っているが…それも無視だ。

焦がさない様に混ぜていると…異世界ジャムの完成だ。

味はイチゴジャムとブルーベリージャムを混ぜたような感じだが悪くない。


パンにサンドして、即席異世界ジャムパンが完成した。


「ディーテ?出来たぞ!」


『……………………………』


すっぱい木の実が相当嫌いみたいだ。だが、既にジャムの中に混ざってしまっている、ご愁傷様だ。

岩陰から凝視してくるディーテ


「ディーテ?これはすっぱくないぞ?」


恐る恐るパンを受け取るディーテ

甘い果物の香りに負けたのか、覚悟を決めたようだ。


パクっ!


『………!?すっぱくない!!昨日のハチミツパンも美味しかったけど、こっちも美味しい!!』


すごい勢いで食べてる。お気に召したようだ


『グルナ?これは何ていう食べ物なのだ?』


「ジャムパンというんだ、また作ってやるからな」


朝食を終え、街を目指す。

ディーテが冒険者登録証を持っていないのは確認済み。15才(推定)で冒険者として登録出来るとは思えないが異世界ではどうなのだろう。

しばらく進むと街が見えて来た。

「日が傾いて来たし、今日はこの街で宿を探すか。」


この街はパルムと言う街らしい。

人も多いし活気がある。何より露店が多く観光地のようだ。

警備の兵士も居るし治安も良さそうだ。


「ディーテは俺の妹って設定にするんだぞ?兄弟揃って記憶喪失。自分探しの旅の途中だ」


『うん!わかった!』


早速、警備の兵士に事情を説明し、宿を紹介してもらった。

街を散策しつつ情報収集だ。


広場で出会ったおじいさんに話を聞くと、この街の外れに精霊の湖というのがあり湖の畔の祭壇で祈りを捧げると、素質?がある者は精霊と契約を交わす事が出来、特殊な力が使えるようになるらしい。

15才になると、祈りを捧げに国内は勿論、各国から人が訪れるそうだ。

24時間いつでも祭壇に行けるらしいが、精霊の加護を受けれるのは3割程度ということだ。

3割でも多いと思うけどな。


宿に戻り棚から鏡を見つけた。この世界は田舎には鏡が無かったのだ、自分の姿が気になって仕方無い。

銀髪になっていた…瞳の色は暗めの碧…


年齢は20歳ぐらいか?

自分で言うのもなんだが、かなりの美少年だ。

ディーテも鏡を見て楽しんでいるようだ。黒い髪に薄紅色の頬、紫の瞳。

なんせ初めて自分の姿を見るんだからな。


『鏡持って行っていいか?』


「ダメだ、備品は持って行ってはいけないぞ。マナーと言うか常識だ」


「そうだ!ディーテ、俺達も精霊の祭壇に行ってみないか?」


『うん!行く!』


「ディーテは、よく分からない謎の声が聞こえたりするだろ?他に人が居ない時間帯に行こうな」


『ん?何でだ?』


「んー、何となくその方がいい気がするんだ」


夕食を済ませ眠くなる前に祭壇に向かう。

賑やかなのは酒場ぐらいだ。


「何か盗賊になった気分だな!」


『悪さするのか?』ワクワク


何か楽しそうね…

祭壇は聞いてた通り解放されていた。

人も居ないし予定通りだ。


「各国から人が来るだけあってかなり立派な祭壇だな」


〖 こんばんわ〗


……!!


振り返ると、フードを被った女性?が立っていた。

(何時から居たんだ?)

ディーテを後ろに移動させる。


〖驚かしてごめんなさい。私は湖の管理者。この祭壇は普通の人間用、私はある方からお二人を案内するよう命じられて参りました。

どうぞこちらへ〗


めちゃくちゃ怪しい…

何となくだが、人間の気配を感じないのだ。

だが敵意は無さそうだ、恐らく断っても追っては来ないだろう……


「あんた何者だ?」


〖 申し遅れました。私はエレイン。先程申し上げた通り、この湖を管理している精霊です。好きな食べ物は人間が年に何回か献上してくれるお酒とか甘い〇×△△………〗


(精霊ってのは申し上げてねぇぞッ!!)


「もういいよ。よく分からんけど、分かった」


エレインは湖を管理しているかなり上位の精霊らしい。他に分かった事は敵意はない事、酒とお菓子が好きな事。

普段は水質と周囲の森の環境を維持しているらしい。


祈りを捧げに来る人の中には欲にまみれた人も居るらしく、その負のエネルギーは汚染源になる。

エレインは負のエネルギーを浄化したり、適正のある人間に下位の精霊を紹介して加護を授けたりしているそうだ。


1時間程歩いただろうか。

岩山の前で足を止めた。

岩肌には扉があり中に入れるようだ。

中は夜なのに明るい…壁自体が発光しているようだ。


奥へ進むと祭壇があり、その奥は勿論湖は無く行き止まりだ。


「此処で祈るのか?」


〖はい、お一人づつお願いします 〗


「じゃあ俺が先に行くぞ」


『待って…!グルナが終わったら私は1人でそこに行くのか?グルナはちゃんと帰って来るのか!?』


「………」


「大丈夫だ、ちゃんと帰って来るよ。」


祭壇に登り、目を閉じる…

(精霊なんて本当に現れるのか?)

目の前が明るくなった気がして目を開けると…

開かなかった…無念だ。

目が開かないだけでは無かった、体全体が動かないのだ。


(おい!エレイン!動けねぇぞ!)


⦅喋れていませんよ?⦆


(この声は…)


声の主は超絶美人のお姉さんだ。

俺の意識に直接語りかけているようだ、周りには俺が祈りを捧げている様にしか見えていないだろう。


⦅よくぞ此処まで辿り着きましたね。死に至ること無く、無事に体の再構築を終えられました事、心よりお喜び申し上げます。⦆


(あんたがお膳立てしてくれたんだろ?ディーテに出会うことも街から出て此処へ来る事も。というか、この間の高熱と激痛はそんなに危険だったのかよ!)


⦅激痛のあまりショック死する方も居ましたし、途中魔物や盗賊に襲われて亡くなってしまう方もいるのですよ?前世で余程鍛えていたのかしら?⦆


(まぁそれなりにな。そんな事より聞きたい事がある。俺を転生させたはあんたか?目的は何だ?)


⦅私の役目は”創造主”の言葉通りに、世界に干渉し影響を与える事。ご存知とは思いますが、この世界は5人の魔王が居ました。しかし、その内の1人が討たれてしまい世界は魔王の誕生を心待ちにしているのです⦆


(……………)


⦅しかし、魔王になるのは簡単な事ではありません。誰でも成れる訳はなく、将来有望な器を持った選ばれし者に種が宿るのです。⦆


超絶美人さんの話を纏めると、魔王の種が宿った魔王候補は10体らしく、一定の条件をクリアした1体のみが魔王に成れる。

魔王候補と言えども生まれたては弱いらしく、人間や野良の魔物に淘汰される事もあるらしい。他の魔王候補に狙われるなんてのは言うまでもない。

唯一の救いは、現魔王からの干渉は過去に1~2例程しか確認されていない事ぐらいだ。


(で?俺が魔王候補に選ばれた訳か?)


⦅…………⦆


超絶美人さんがモジモジしている…


⦅貴方は魔王に成り得る存在ではあるのですが…今回は種は宿っていません⦆


(……えっ!?)


⦅魔王の種を宿しているのは…ディーテです。貴方はディーテの槍となり盾となる存在なのです!!⦆


(…ちょっと待っ…)


⦅早い話が側近です。側近としての役割をはたせるよう此処に呼びました。スキルを授けますね!鑑定眼・魔力操作・魔物使役・空間収納⦆アセアセ


⦅おまけ程度ですが、炎の精霊も授けますね!頑張ってディーテを導いてください!じゃ!⦆アセアセ

(一方的だったな……)

焦ってても美人は美人だった。


『グルナ大丈夫か!?』


「大丈夫、何ともないよ…モヤモヤしてるけどな」


「次はディーテの番だな!何かあったら守ってやるからな」


『うん、行ってくるぞ!』


祈りを捧げた瞬間、辺りは光に包まれた。


「おい!エレイン!これ大丈夫なのか!?」


〖グルナ様の時と同じですよ?〗


「……そうなのか」照

(目を閉じてたから分からなかっただけか…)

光は10秒程で消え、ディーテが戻ってきた。


「ディーテ!大丈夫か?」

(俺の時も10秒位だったのか?)


『グルナ!大変だぞ!私は魔王候補生らしいぞ!他にも色々言われたけど忘れてしまった!』

(まぁ動揺するわな…自分が魔王候補でこれから危険な目に会うわけだからな)


『次期魔王だぞ!カッコよくないか!?』

(嬉しそうね…)


「その話は俺も聞いた。これから一緒に旅をしてディーテが魔王になる手伝いをするのが俺の役目だそうだ」


『そうなのか?グルナが私を守ってくれるのか…よろしくな…』

『コキ使ったる…』ボソッ


「あぁ、よろしくな!」

(コキ使ったるって聞こえた気がしたが…)


エレインと翌日会う約束をし、宿に戻った。

俺がもらったスキル”鑑定眼”でステータスを確認する。主従関係なら相手のステータスも確認出来る。便利だ。


グルナ

【種族】半神

【イコル】???

【固有スキル】闘神化

【スキル】鑑定眼・魔力操作・魔物使役・空間収納・空間操作・精霊召喚(炎)

【加護】ディーテの加護

【称号】魔王種ディーテの世話係


ディーテ

【種族】女神

【イコル】???

【固有スキル】エーテル操作

【スキル】鑑定眼・魔力操作・魔物使役・精霊召喚(水・大地・無)・自動防御結界

【庇護】ディーテの庇護

【称号】魔王種(種)


ざっとこんな感じだ。

ディーテは魔王種だが、種族は女神…意味が分からんが考えるだけ無駄だろう。

能力は増えたが見た目の変化は無かった。

今日は遅いし寝るとする。明日はエレインに色々聞きたい事があるのだ。


朝になり、再度湖に行きエレインと会う。

俺の役目は分かったが、問題はディーテが魔王種という事だ。

人間と魔物どちらに付くのか…

エレイン曰く、それはディーテ次第という事だ。

次に魔王種とその部下が人間の街に居ても問題無いのかという疑問だ。普通に考えれば次期魔王が雑魚の状態で軍勢も無いのなら討伐する絶好のチャンスだろう。厄介な芽は摘まれない訳が無い。

エレイン曰く、ディーテも俺も魔物や亜人の様な外見的な要素が何も無く、魔力を最小限に抑えて精霊のエネルギーを前面に出しとけば問題無いらしい。

余程の大物じゃない限りは気付かないだろうとの事だ。

そもそも、ディーテは魔王種だが魔物ではないのだ。

最後にイコルとは何なのかだ。

イコルとは”神の血”、つまり神に等しい強力な力なのだそうだ。

その力が与えられた者は極僅か。最初から使えるものでもなく徐々に定着していくのが普通らしい。


これから向かう王都には精霊の加護を受けた者が大勢居る。

精霊の加護を受けた人間は様々なスキルを手に入れるのだ。

故郷に帰る人も居るそうだが、王都に行けば高待遇の職にあり付ける。

王都を守る職もかなり高待遇な為、優秀な魔法使いが集まる。

塀の外まで防魔と索敵、魔法反射結界が張り巡らされてるそうだ。魔物だと誤認されないように気を付けよう。

王都に行けば情報も手に入るだろうし、この世界に来て初めての【都】だ。

楽しみで仕方無い。


「そろそろ出発するか!」


『王都か、私も初めてだぞ!』


俺たちは王都を目指しパルムの街を後にした。

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