第16話 いい町作ろう!其の二
建設ラッシュが一段落し、俺達は温泉宿の建設に着手しようとしていた。
ノームの案内で適温の源泉を見つける事は出来たが、この温泉を町まで引かなくてはいけない…非常に困った。
《町まで配管するのは流石に骨が折れるぜ?資材もかなりの量が必要だぞ》
「んー…!?」
「なぁクラティス、温泉の建設予定地と此処を亜空間扉で繋いだら短縮出来るよな?」
空間操作のスキルを持つ俺は1度行った事のある場所へはゲートを造り行き来出来るのだ。
《出来るだろうけど、ゲートを開きっぱなしにするって事は常に魔力を消費してる状態になるんだろ?大丈夫なのか?》
「自然回復する量よりも消耗は少ないから問題無いよ。それよりゲートの周囲を立ち入り禁止にしないと知性の無い魔物が入ってしまった時が心配だ」
ゲートを開き、マスグラ鋼で作った管を通してみる。
マスグラ鋼とは、軽量、高剛性、対食性が高く加工し易い便利な金属らしい。
上手くいった。本来は十数kmの配管が必要だがゲートのお陰で数十mで済んだ。
後はゲートの周囲を魔物が侵入しないように出来れば完成だ。
セレネを呼び、侵入防止結界を張ってもらった。
後は施設の建設だ。
大きめの露天風呂、サウナは必須だろう。
風呂上がりのビールなんかあったら完璧だが、この世界に来てからビールの様な炭酸系の酒は見ていない…コルトに相談してみよう。
『グルナ!戻ったぞー!』
ヴィエン王国からディーテが帰って来た。
今は、ディーテとファムそれとカラだけがヴィエン王国に行ける。
早く他のみんなも行き来出来るようにしてやりたい。
『久しぶりだったから食べすぎたぞ!』
《めっちゃ美味しかったー!ディーテはん、また行こな》
『グルナ?海に行ったら魚介類が手に入るか?』
「そうだなぁ、道具が必要だけどな」
『ちょっと行ってみないか?海が近くで見たいぞ』
歩くこと2時間、入り江へやって来た。
『おー!綺麗だな!潮風が気持ちいい!』
《魚は何処におるんや!?出てこーい!》
大はしゃぎだ。意外と海まで近かったし町の食事に海の幸を取り入れるのも良いかも知れない。
«キャーッ!!»
「《『!?』》」
悲鳴の聞こえた方へ向かうと、羽の生えた魔物と小さ目の船が2隻見えた。人間が魔物に襲われているのかと思ったが、どうやら違うようだ。
人間が魔物を捕らえていたのだ。
(まさかの魔物誘拐事件か!?)
《アカン!誘拐や!》
『おいグルナ!無理矢理連れて行かれてるぞ!助けないと!』
「状況がよく分からんが、ほっとく訳にはいかなそうだな!」
(カラ!大至急来てくれ!)
((グルナ様!すぐ参ります!!))
「修行の成果を見せてやるか…」
俺は週に1度、ハイエルフ達に魔法や対多人数の戦闘訓練をしてもらったお陰で、魔力操作のレベルは格段に向上したのだ。
「カラ!船に人間は乗ってるか?」
《手前の船は無人ですが魔法防御結界が張られています!》
簡単な魔法防御結界が張ってあるが無意味だ。
”破邪猛槍弾”
発生した破壊のエネルギーは魔法防御結界を容易く貫通し船に直撃した。
船は爆破、炎上し木っ端微塵、驚いた不審者達は魔物を放棄し残った船で逃亡した。
「カラ!船を監視しろ!近付き過ぎるなよ!」
《了解!》
「お前達大丈夫か?」
連れ去られそうになっていたのは、この辺にテリトリーを持つセイレーン族。
外見は羽が生えた人間だが、脚は脛の半分から下が猛禽類の様な感じになっている。
(セイレーンって人魚だったような…ハーピーの間違いじゃないのか…)
セイレーン族は幻術が得意で本来は非常に厄介な種族らしいが、魔力を乱す呪印を刻まれると無力化出来るらしい。
接近戦闘などは全くダメ、見た目の美しさもあり奴隷として一部の国で人気らしい。
«言う事聞きますから…命だけは…»
かなり動揺しているみたいだ。
「俺はグルナ、魔王種ディーテに仕えている。最近森に引越して来た者だ」
«では貴方達は私達を捕らえないのですね?本当ですね!?»
「…とにかく町に帰って解呪しよう。色々聞きたい事もある」
『心配するな!美味しいご飯もあるぞ?』
町に戻り話を聞くと、最近誘拐事件が多発しているそうだ。
ターゲットになるのはセイレーン族やニンフの様な戦闘に向いていない種族からケンタウロス、ラミア族まで被害にあっているそうだ。
「セレネ、ハイエルフの被害は無いのか?」
《行方不明者が出たとお姉様が言っていましたが…今回の件に関係しているか分かりません》
行方不明。もし今回と同様の誘拐事件に巻き込まれたのなら、個体数の少ないハイエルフは恐らく、かなりの高値で取引されるだろう。
魔身売買についてはパーシスに聞いてみるとして、オーガやゴブリンから不審人物の目撃情報と連れ去られそうになった事があるか確認しないとな…
《グルナ様!戻りました!》
「カラ、無事で何よりだ。何か分かったか?」
《船はプティア王国に帰港しました》
この後、今回の事件が切っ掛けとなり、とんでもない事態に発展するなど俺達は知る由もなかった。